第38話 やばい遊園地に渦巻く信念(陸奥志津香視点)

 待ち合わせ時間よりも大幅に早く着いてしまった。


 それはもちろん、蒼とのデートを待ちきれなかったから。


 それにしたって、駅構内は休日だってのに人がいない。


 遊園地をめちゃくちゃ推しているポスターがそこらに貼られており、遊園地の最寄り駅だってのにどうしてだろうか。


 そんなことはどうでも良いか。


 それよりも蒼……なんでそんなに早いの?


 待ち合わせの一時間以上前だってのに、どうしてもういるの?


 もしかして、私とのデートそんなに楽しみだった?


 もう、可愛いな、蒼。


 でもね、私の方がもっと、もーっと楽しみだったんだよ。


 ぜーったいに今日で幼馴染って関係終わらしてやるんだから。


「蒼」


 誰もいない駅なので、スキップして彼に歩み寄る。


「お待たせ」


 彼の前に立つが、特にリアクションはなし。


 いや、視線が私の脚に向いている気がする。


 ふっふっふっ。


 今日、めっちゃオシャレしてきたもんね。


 そりゃ私の美貌に声も出ず立ち尽くしてしまうよね。


「蒼?」

「ん?」

「どうかした? ボーっとして」

「別にボーっとなんてしてねぇよ」

「もしかして、私の私服姿に見惚れてた?」

「ああ」


 ……え? ええ!?


 この人、肯定した? 肯定した!?


 嬉しい、やばっ、顔ニヤけた。絶対ニヤけたよぉ。


「生脚出して誘惑してると思ったわ」

「ゆっ!?」


 いや、あながち否定はできんが、そう思われても仕方ないかも。


 ここはあえて否定せずに肯定でいくか。


「誘惑に乗ってみる?」

「……」


 なんの間? ちょ、無視はきつい。


「さ、さぁ、とっとと遊園地行こうぜ」

「ええ!?」


 スルー!? 今のスルーなの!? 仕掛けたの自分のくせに。


 こちらの内心なんて知らない蒼はそのままスタスタと歩いて行ってしまった。


「待ってよ」


 彼に追いついて隣を歩く。


 あー、やっぱり蒼の隣を歩くのは良いよな。




 ♢




「……ここ?」


 遊園地に到着した私達。蒼がなんとも言えない声で尋ねてくる。


「ここ、みたいだね」


 なんなの、ここ……。


 え、ちょ、営業してる? 営業してるの? 潰れかけな感じじゃん。


 私達以外に客はおらず、謎の生物をモチーフにしたマスコットキャラから、「あ、ども」なんておじさんの声聞こえるし。


 千佳ー! 友梨ー! ヘルプ!!


「あら」


 絶望にうちひしがれていると、聞き覚えのある声が聞こえ、蒼と振り返る。


「やぁキミ達もデートかい?」

「成戸さん」

「横溝くん」


 互いの隣の席の奴等がお揃いでやって来て、この人達はこんなところでなにをしてるんだとツッコミそうになったが、ブーメランなのでやめた。


 私は蒼を見る。そうも私を見る。


 幼馴染だからこそ目を見てわかる。


「おー! ふたりとも!! 奇遇!!」

「一緒に! 一緒に回ろう! ね!」


 蒼と意見は同じみたいだった。


 こんなところでふたりっきりなんて無理。ここで告白なんて失敗する。


 でも、決意を固めたから今日、告白したい。


 だからこそ、このふたりを出汁にする。


 数の暴力ではないが、どんなところでも人数がいれば大抵楽しくなるでしょ。


 わいわいとすれば、問題なし。


 温まったところで、適当にはぐれたフリして蒼を押し倒す。


 これっきゃない。これっきゃないぞ、志津香!


「そうだね! 美男美女は共にいるべきだ! みんなで回ろう!」


 安定にキモイをこという横溝だが、今日はそれがありがたい。


「「「おー!」」」


 とりあえず、乗っとこ。今はこの流れに乗っとこ。

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