第16話 部活にて反省(陸奥志津香視点)
ああ……。私……。なにしてんだろ……。
キュッ、キュッとバッシュの音が響く体育館で部活以外のことを考えてしまっている。
それは蒼のこと。
昼休みに蒼を抱きしめた。
それだけだと進展があったというか、良いことというか、なんというかなんだけど。
私は蒼を泣かせて抱きしめてしまった。
蒼に辛い過去を思い出させて抱きしめてしまった。
1番辛い、お母さんとの別れを思い出させて、泣かして……。
それで抱きしめて、『泣きたい時は、私がこうしてあげるから』って……。なにを言っているんだか……。
言い訳になるが、私は本当に蒼の好物だけを入れたつもりで。特に玉子焼きが好きだったから入れた。蒼の喜ぶ顔が見たかったから。
結果は蒼を泣かしてしまった。
なんだか自作自演をしているみたいで嫌な女だな……私……。
あの後、蒼は優しいからお弁当を全部食べてくれた。
でも、怒ってるのか、悲しんでいるのか、呆れているのかわからないけど、蒼は口をきいてくれなかったな。
はぁ。
やらかしてしまった……。
どう謝れば許してくれるのかな……。
「おぉぉぃぃ。しず、か…ぁぁ」
やっぱり素直に謝るのが良いのかな。
「し、ずか……」
でもでも、素直に言っても許してくれないかも。
「陸奥! かんべんしてくれえ!」
「え?」
息の切れた声が聞こえてきて、キュッと立ち止まる。
目の前にはボロ雑巾みたいに肩で息をする女バスのキャプテンがいた。
「お前……いつまで走る気だ……」
「あ……」
周りを見ると、端っこの方で様々な倒れ方をしている女バスの仲間たちの姿があった。
「すみません……。ぼーっとしてまして……」
「ぼーっとしてて……シャトルラン150回とか……どんだけよ……。休憩……しな……」
「はーい」
はぁ。とためを吐いて、私の足は仰向けで倒れている千佳と、うつ伏せで倒れている友梨の方へと向いていた。
「志津香。どんだけやってんのよ……」
「化け物志津香……」
「あはは。ちょっとボーっとしてて」
苦笑いを浮かべて2人の間に座り、壁にもたれかかる。
「なになに? 水原くんとお昼に進展あったの?」
「進展のテンションでシャトルラン世界記録更新しようとしたのか?」
2人の囃し立てる物言いに、はぁ、と物悲しいため息が出てしまった。
すると、2人は顔を合わせて、これは違うな、って感じを出す。
「お昼。お弁当一緒に食べたんでしょ?」
「なにかあったのか?」
心配してくれる様子で言ってくれる2人の温かさに負けた。
「その……なんていうか……。無意識に酷いことしちゃって……」
蒼のお母さんのことや、泣いてしまったことはデリケート過ぎる部分なので伏せつつ話すと、2人は意外そうな顔をしていた。
「志津香が水原くんに?」
「水原は怒ってたのか?」
「うーん……。わかんない……」
私の返答に2人は優しく言ってくれる。
「それって本当に酷いことなの?」
「そうだな。ヒロインが水原に酷いことをするのは想像もできん」
「故意的じゃないからね……。こう、サラッとというか……。私的には好意的にやったんだけど……」
なるほど……と2人はどこか探偵的な感じを出したあとに、アイコンタクトをとる。
「それはあれだね。部活の後に水原くんのところへ行くべきだね」
「そうだぞ志津香。それは家に行かないとダメなやつだ」
「で、でも……。顔合わせづらいというか……。なんていうか……」
嫌なこと思い出させて、勝手に抱き着いてきた幼馴染を蒼がどう思っているのか……。
もし、嫌われてたらって思うと怖い。
でも、答えを知るのも怖い。
「大丈夫だって。裸で迫れば間違いなし」
「中島。それよりも男は裸エプロンが好きらしいぞ」
「そっか! そういえば男の子って女の子の汗に幻想抱いてるって聞いたことある」
「女のウチらじゃわかんないけど、男なんて単純だからそれでコロっとなるだろうよ」
「丁度良いじゃん。部活後の汗だく裸エプロンで水原くんのハートを」
「「げっちゅ♡」」
「もう! 私は真面目に悩んでるの!」
2人の悪ふざけに、つい声を荒げてしまう。
「まぁまぁ志津香。今のは冗談だとしてもさ」
「今日、部活終わり顔だけ出したらどうだ。家近いんだし」
「うっ……。うん……」
♢
部活終わり。
私はいつも通り千佳と友梨と途中まで一緒に帰り、1人で住宅街を歩く。
先程、2人に部活で言われた通り、蒼の家には行ってみようかとは思う。
思うけども……。
蒼の家の前を通る。
もうすぐ閉店するカフェ≪くーるだうん≫の店内には人の姿はないように見える。
私は店の前をそのまま、スィーと通って行く。
いや、行くよ。行く。行って蒼と話しはする。
でも、部活後だから行くとしてもシャワーを浴びてから……。
『そっか! そういえば男の子って女の子の汗に幻想抱いてるって聞いたことある』
『丁度良い。部活後の汗だく裸エプロンで水原のハートを』
『『げっちゅ♡』』
「くぅ……ううぅぅぅ……」
悩んだ挙句、私は回れ右してカフェ、『くーるだうん』の扉を開けた。
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