第14話 お弁当の攻防(陸奥志津香視点)
「ふんふんふ~ん♫」
早朝5時。
まだお日様が完璧におはようをしていない時間帯。辺りはまだうす暗い。
そんな時間帯に起きて私は好きな人のためにお弁当を作っている。
好きな人のために毎日自分を磨き、プラスしてお弁当も作っているのに全然苦にならない。
これが尽くすってことなのかな。最高じゃん。
「よっ……と」
慣れた手つきで玉子焼きをひっくり返すと、見事な黄金の玉子焼きの出来上がり。
あいつ、玉子焼き好きだからな。
これ食べたら私にデレデレなの間違いなし。
キッチンのテーブルにはこれでもかと蒼の好物を詰めた宝箱。
最後の宝石である、玉子焼きを詰めたところで宝箱は完成を果たした。
これにて志津香ちゃん特性の、『これで蒼は私にデレデレ弁当』の完成だよ。
……。
あ、うん。ネーミングセンスは夜中のノリみたいな感じになっちゃったけど、ヨシ。
♢
「今日も水原くんと食べるの?」
「ええ!? 志津香~。寂しいよぉ~」
「ごめんね。2人とも」
昼休みになり、友梨と千佳がいつも通りランチに誘ってくれたのを断ってしまった。
「勝ち確なんだし昼くらいは彼ピじゃなく──むごっ」
千佳がなにかを言おうとしたところで友梨が彼女の口をおさえた。
「ばかやろう。勝ち確のじれじれを楽しむのが私達の使命だろうがっ」
友梨が千佳に怒ると、「そうだね」とどこか納得した様子であった。
「?」
彼女達の言葉の意味がイマイチわからずに首を傾げていると、千佳が私の手を握ってくれる。
「がんばってきてね。志津香」
「応援してるぜ。志津香」
友梨は、グッと親指を突き立ててくれた。
「うん。それじゃ行ってくるね」
鞄からお弁当の袋を持って立ち上がると蒼と目が合った。
パチンとウィンク。
……あっれー。私、なにしちゃってんの!?
なんで教室でウィンクとかかました!? ええ!?
なんかお弁当作ってテンションが空回りしてる! やべー。
とりあえず、急激に恥ずかしくなった私は、逃げるように教室を出て行った。
「いやいや、あかんがな」
先に教室を出て行っても、どこで食べるか決めてないんだから、だめじゃんか。
のろのろと廊下を亀みたいに歩くと、蒼がサッと隣に並んでくれた。
あ、このイケメン、空気読んでこっち来てくれた。
「どこで食べようか」
ウィンクの件を掘り起こされないようにこちらから話題提供。
実際、どこで食べるかは重要だ。
中学まで、学校のルールで班になって、机を引っ付けて食べていた。
千佳と友梨に言ったら
「「中学で!? あひゃひゃひゃ!」」
って大笑いされましたけど。
高校での昼は自由だから、班にならずに好きな場所で食べられる。
でも、私は基本的には教室で食べているので、他の良い場所を知らない。
私のランチタイムの過ごし方の乏しさ……。
蒼も学食ばかりだから、この話題に困惑している様子。
困惑の蒼、かわえぇ……。
とか、横顔を眺めていると
「あ」
蒼が廊下の窓の外を親指で差した。
「中庭で良くない?」
♢
「人も少なくていいね」
中庭ってのは中々訪れる機会が少ない。
それは私だけではなく、全校生徒的にも同じなのか、ここには蒼と私しかいなかった。
彼が先にベンチに座ったので、隣に座りながら言ってあげる。
「蒼のくせにナイスチョイス」
「くせには余計だろ」
蒼は苦笑いを浮かべた。
そんな彼にお弁当を手渡す。
「はい。どうぞ」
蒼はお弁当を受け取ると、じっと見つめている。
「どうかした?」
「いや……。本当に作ってくれたんだなって」
「約束したからね」
「でも志津香。今日はわざわざ早起きしなくて良い日なのに、弁当なんて作って、体は大丈夫なのか?」
「いつも早起きの蒼に言われたら嫌味にしか聞こえない」
「俺は慣れてるからな」
「私も慣れてるから大丈夫」
同じセリフに笑い合い、私達って幼馴染してるなぁとか思ったりする。
「ん。遠慮なく……」
蒼が弁当を開けると固まっちゃった。
まさか、まずそうと思われたのかもしれない。
そんなことはないと思うけど……。
昔は蒼に晩御飯作ったりしてあげていたし、蒼の好物を詰め込んだつもりなのだけど。
「美味しそうでしょ?」
不安になったので尋ねると、無言のまま玉子焼きを口に頬張った。
すると。
「すん……! うっ……」
「蒼?」
明らかに様子のおかしい。
「美味しくなかった?」
料理が美味しいくなくてないているとは思えないのだが、一応そういう風に聞いてみる。
「ご志津香……。ちが……て……。昔を思い出して……」
昔を思い出して……。
そのセリフで蒼のお母さんが天国に行ってしまってからの蒼を思い出す。
それで蒼は塞ぎ込んでしまって、食事もまともに取っていなかった。
あの頃の辛い記憶を呼び起こしてしまったみたいだ。
沸き上がる罪悪感。
隣で泣いている幼馴染。
私はなんて酷いことをしてしまったのだろう。
ガバッ……。
「ごめんね蒼。そんなつもりじゃなくて……」
辛い記憶を思い出させてごめんなさい。
謝って済む問題じゃないのかもしれない。
私にはこうするしかなくて。
「泣きたい時は、私がこうしてあげるから」
私にはこう言うしかなくて。
大好きな彼が胸の中で泣き止むのを待つしか私にはできなかった。
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