第12話 学食での攻防(陸奥志津香視点)

 いつもは千佳と友梨と食べるランチタイム。 


 でも今日は、一緒にガールズトークに華を咲かせている場合ではないよね。


 今朝に仕入れた情報を明確にするために、本人に殴り込みじゃ。


 あ、いや、もちろん殴り込みなんてしないけどね。隙あれば頭を撫でたいよね。むしろ撫でて欲しいかも。


 蒼は毎日、学食に通っている。 


 カフェの仕事で忙しい蒼にお弁当を作っている暇はない。


 なんだったら私が作ってあげたいんだけど、それはデレの証。

 上手いこと作ってあげる流れを作りたいけど、なかなかできないジェラシー。


「ええっと……蒼は……」


 いた。


 カウンター席に座ってる、あの尊いクールイケメンは蒼で間違いなし。


 てか、私が蒼の姿を見間違えるはずないんだよね。 


 ワイヤレスイヤホンをして、音楽を聞きながらうどん定食を食べようとしている。 


 相変わらず一人でいることが多いので絡みやすい。


 お手軽クールイケメンな幼馴染、最高。


「なに聴いてるの?」


 隣に座って、悪戯っぽくイヤホンを外してやった。


 単純に蒼が聴いている音楽が気になって、彼の答えを聞く前に自分の左耳に彼のイヤホンを着けた。


 間接耳やばっ、エモい。


「ふふ。蒼は相変わらずロックバンドが好きだよね」


 耳から流れて来る音楽を聴いて、ちょっぴり笑ってしまう。


 そのおかげで私もロックに詳しくなっちゃった。今年の夏こそフェス行きたい。


「まぁな」

「『こんなところでぼっち飯してる俺、めっちゃロック』って感じ?」

「ほっとけ」


 笑いながら、ついつい嫌味を言ってしまうと、拗ねた口調で彼は音楽を止めた。


 一緒に蒼のお気に入りの音楽を聴きながらのランチでも良かったけど、私と喋るために気を利かせてくれる蒼、まじ紳士。


「珍しいな。そんなに俺と昼飯が食いたいなんて。素直に言えば毎日でも食ってやるぞ」


 え。まじ? 本当に? 言質とったよ?


 でも……蒼とは違うベクトルで千佳と友梨との時間も大切なんだよね。


 蒼が無理くりにでも毎日食べたいっていうなら、別だけどさ……。


 そう言ったら蒼はどんな反応するかな。


 って、そんなこと言ったら私がデレてるのバレるじゃん。


 少し動揺してしまったのを隠すように、髪を軽くかきあげた。


 左にしていた音のしていないイヤホンを外して蒼に渡した。


「ぼっち飯なんて可哀想だし。一緒してあげるよ」


 なんだかすごい上から目線になっちゃった。


 嫌な感じになったから、急いで本題に切り替える。


「誰かさんはおモテになるようで」 

「ん?」


 私の言っていることがイマイチわからないって感じで眉をひそめる。


「どういうこと?」


 しらばっくれてるのか。それとも言葉の意味が理解できていないのか。


「告白されたんでしょ?」 


 次は、はっきりと聞いてやる。 


「告白ぅ?」


 困惑の雰囲気。


 うーん。これはどうでしょうね。将来の嫁の意見としては、本気でなにを言っているのかわからないって顔だ。


 蒼とずっと一緒の私が言うんだから間違いはない。


 でも……。念には念を。


 彼が嘘をついているのかどうかを突き止めるために、自ずと自分の顔が蒼の顔に近づいていった。


 綺麗な瞳に吸い込まれるように、私の顔はあなたに近づいて行く。


「されてないけど……。って、ちょ。近いな」

「嘘つかないように蒼の目を見ないと」

「嘘って……。誰に聞いたんだよそんな話し」

「風の噂」

「噂かよ」 


 呆れた物言いに、なにかを思いついたような顔をする。


「そんな噂が気になって普段俺と飯食わないのにやって来たってのは……もしかして嫉妬か?」


 嫉妬してるのが普通にバレてるよおぉぉ。


「嫉妬じゃない」


 なんとかバレないように嘘をついて、誤魔化すようにお弁当を食べはじめる。


「こんなぼっちっち幼馴染を誰が狙ったのか気になっただけ」 


 加えて、嫉妬してませんよぉ、って意味を込めた嫌味を放つ。


 これで私が嫉妬していたのを完璧に誤魔化せただろう。ふぃ。あぶない、あぶない。


「ふっ。実際、女子から狙われた経験だって……」


 は? 今、なんつった?


「誰?」

「はい?」

「蒼を狙ったのは誰なの?」


 告白されたのはただの噂。


 でも、狙っている子がいるとか聞いてないんですけど。


「ごめんなさい。すみません。冗談です。誰にも狙われていません」 


 すぐさま訂正の謝罪が入り、私は心の中で壮大なため息を吐いた。


「そ。強がっちゃって。私の前で強がりたかったの?」

「う、うるせーよ。まだモテ期に入ってないだけで、そのうちめっちゃモテるんだよ!」

「はいはい。そうですか。そうだと良いですね」


 モテ期なんてこなくても蒼には私がいるんだから大丈夫なんだよ。


「女の子にもモテない。友達もいない蒼が可哀想だから、明日はお弁当作ってあげるよ」

「は?」


 こちらの提案に蒼は疑問の念を出す。


「なに? こんな可愛い幼馴染のお弁当が食べられないの?」

「いや、そうじゃなくて」


 あー。なるほどね。これはあれか。


「照れてるの? 照れちゃったの?」


 デレちゃってる? 蒼。デレちゃってるの? くぅぅ。もう蒼の頭の中は私でいっぱいかもね。


「お前、明日朝練じゃないの?」

「あ」 


 やば。墓穴掘った。


「なに? お前、俺にお弁当作りたくて明日朝練なの忘れてたの?」 


 くぅううぅ。 悔しい……。 


 反論の余地もないので、悔しさのあまり指を口元に持っていき視線を伏せていた。


「明後日。作ってあげる」 


 しれっと日程を先伸ばした。


「そんなに作って……」

「明後日だから」 


 ごり押しでなんとか誤魔化して、さくっと食べ終えた弁当箱をしまい、立ち上がってもう一度言った。


「明後日だから」 


 念を押すうように言ってのけると、そそくさと私は学食を去った。


「きゃ!」 


 ドゴーン! なにもないところで転んでしまい、物凄い音がした気がした。 


 何人かの人が心配そうな顔でこちらを見てくれる。 


 私は咄嗟に振り返り、蒼を見てみる。 


 よ、良かった。こっち見てない。


「すみません。すみません」 


 誰もなにも言ってないのに、恥ずかしさのあまり、謝りながらダッシュで教室に戻った。

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