ストーリー:5 始動! その名も『AYAKASHI本舗』!!



「ってことで、これからナツに協力することになった、ガラッパのミオだ。よろしくな!」


 築100年越え平屋建て、和風建築のナツの家。

 勝ち気な美少女が、得意満面に腕を組んで挨拶を決めた。


「これでいいのか、ナツ?」

「あぁ、うん。ありがとう、ミオ」


 その隣でぐったりした様子のナツは、ミオが挨拶を交わした仲間たちを見る。

 おそらくは、ミオがこうなっていたことを知っていた、三人を。



「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!! ひー! ひー!」


 かまいたちのジロウは、二人が姿を現した時からずっと、畳の上で笑い転げている。


「あはは……」


 きっと二人に口止めされていたのだろう、木心坊のワビスケは、申し訳なさそうに小さく頭を下げた。


「ほっほっほ」

「じっちゃん……」


 そしておそらく、今回の仕掛け人である油すましのオキナは、ナツからの恨めし気な視線を受けてなお、その朗らかな笑みを見せ続け。


「ナツや。この縁は、おヌシにとって、大切なもんじゃったろう?」


 さも、自分はいいことをしたのだと言わんばかりに、頷いてみせるのだった。



「……まー、ねー」


 ナツとしても、ミオとの再会はとても嬉しい出来事だった。

 縁のある妖怪たちの中でもジロウに並ぶ、あるいはそれ以上に仲がよかった相手である。


 帰省初日に会えなかったことを残念がるくらいには会いたかった存在であったし、今もこうして隣にいてくれることが心地いいものだと思えている。


「でもなぁ、だったら最初からミオだって教えてくれててもよかったじゃないかよ!」

「ほーっほっほっほ!」

「ゲヒャヒャヒャヒャ!!」


 この訴えすらも予想の範疇だったのだろう、オキナとジロウがそれはもう愉快そうに笑う。

 ワビスケすらも「あ、本当に言っちゃうんだ」なんて驚きと、少しのおかしさに口元を抑えていた。


「ぐぬぬ……」


 悔しがるナツを、隣にいるミオすらも面白がってチラ見している。

 世に言う妖怪というモノの持つ“人を化かして喜ぶモノ”という側面が、そこに如実に表れていた。



「まぁまぁ。そうと知ってから会いに行っては、変にこじれるかと思ったのじゃよ」

「こじれる?」

「うむ」


 ひとしきり笑い終えてから、オキナはナツたちのために用意しておいた麦茶を配り、己の真意を語り始める。


「ミオはの、おヌシがおらんくなって、相当荒んでおったんじゃよ」

「んぐ……」


 ちょうど麦茶に口をつけたところだったミオが、ギクリと身を震わせた。


「それはもう荒れに荒れて、木っ端はもちろん、ワシらでも手を焼くほどの拗ねっぷりだったのじゃ」

「そうだったのか」

「しかもその時期に、ミオさんはセコからガラッパになったから、妖力も高まってて……」

「ぷふっ」


 当時の苦労を語るオキナとワビスケの横で、なぜかジロウが笑う。

 また自分が笑われたのかと思ったナツだったが、黒い瞳がミオの方を見上げていたので、彼も隣の少女を見た。



「~~~~~!!」


 どういうわけか、ミオはびっくりするほど全身を真っ赤に染めていた。


「ミオ?」

「うるせぇ!!」


 思わず声をかけたら、返って来たのは大声と、ダンッと畳を踏み蹴る音。


「ジロウ! てめぇはもう喋んなっ!」

「ヒヒヒッ! ヘヘヘッ!」


 さらに指差し怒鳴りつけるミオに、ジロウはまた笑いのツボを突かれたのか細長い体をババナのように曲げて畳の上を転がった。


「オキナもワビスケも! いいな!!」

「は、はいっ!」

「ほっほっほ」


「ふんっ!」


 指差し確認にそれぞれの返事を得て、ミオはあからさまに不機嫌さをアピールしながらあぐらを掻く。

 彼女の態度に非常に興味を惹かれるナツだったが――。


「本題、進めろよ」

「あ、はい」


 ジロリと睨まれ、さすがにこれ以上掘り下げることは無理だと判断した。



「ナツよ。おヌシがミオが美しく変わったと知って会いに行ったなら、きっと最初から気安く接しておったじゃろう。じゃがミオは、ほれ、こうして怒っておったでな。おヌシが帰って来たという報を聞いても、顔を見せに来なかったくらいには、の」

「あぁ……」


 脱線した話を纏めるオキナの言葉に、ナツはようやく理解した。

 実際にミオと対峙して、その心を目の当たりにした今なら、もし自分がそうしていたならどうなっていたか、容易に想像ができる。


「ありがとう、じっちゃん」

「ほっほっほ。なぁに、年の功じゃて」


 オキナの心遣いにナツが頭を下げれば、そこに差し込む声ひとつ。


「おう、ナツ。この爺さんはそんな善意だけでやったわけじゃねぇぜ。それが面白そうだからそうしたんだよ。本当に気遣ってるなら、付いていくか言い含めりゃいいだけなんだからな」

「否定はせんよ。ほーっほっほっほ」


 ジロウの指摘を否定せず、オキナが笑う。


「それでも、気遣ってもらえたのが嬉しいんだ。ありがとう。おかげでまた、ミオと仲良くできる」


 もう一度、ナツはみんなに深々と頭を下げてから、顔を上げる。

 その顔は、自分のやりたいことに向かって全力の、いつものナツの顔だった。



「メンバーは、これでひとまず揃ったと思う」


 かまいたちのジロウ、木心坊のワビスケ、油すましのオキナ、ガラッパのミオ。

 それぞれに光る物を持つ、個性豊かなメンバーが揃ったとナツは言う。


「実際に動いてみないことには、どうなるかはわからないけど。それでも、動き出すのに不足はないと、俺は思う」


 ジロウ、オキナ、ワビスケの2Dグラフィックは、すでに用意してある。

 ミオについてはこれから気合を入れて何徹かして、全力を尽くして作り上げればいい。


「ここからは、初配信に向けての準備を整えていくわけだが。ただいきなり動画を配信するだけじゃ、当然人の注目は得られない」


 すでに世は、大配信者時代である。

 いかな長寿の妖怪と言えど、配信始めは赤子と同じ、木っ端配信者だ。


「だからまずは、SNSで宣伝しようと思う」


 そう言ってナツが構えるのは、スマホだ。

 そこでは青い鳥が大きな丸を翼で描くアイコンが表示されている。


「トリッター。とりあえずここに、俺たちで共有するアカウントを作る」


 すでにアカウント自体は作ってあるのか、ナツがページを開く。

 何も設定されておらず、誰とも繋がっていないプレーンな姿が、妖怪たちへと晒された。



「ふーん?」

「宣伝。わかります! 村でも色々な人が挑戦してるのを見ました」

「舞台も、まずはいついつどこでやるかを告知するからこそ、前売り券は売れるし、客も予定を立てられるというモノじゃな」

「なんかよくわかんねぇけど、やった方がいいならやったらいいんじゃないか?」


 みんなに反対意見がないことを確かめ、ナツはひとつ頷き、話を続ける。


「アカウントを活用するにあたって、決めなきゃいけないことがあるんだ」

「あ、ボクわかります。名前ですね」

「そう! それそれ!」


 ワビスケの頭をワシャワシャ撫でて。


「俺たちの箱の、俺たちのチームの、名前が必要なんだ」

「チームの……」

「名前……」

「ねぇ?」


 そう言うナツを、残る3人が含みをもった目で見つめる。

 “どうせ、考えてあるんだろう?”と。


「あぁ、俺なりに考えてみた名前は、もちろんある」


 その視線の意味を過たず理解して、ナツがスケッチブックを取り出せば。


「これだ」


 そこには既にロゴデザインまでされていた、箱の名前候補が描かれていた。


 その名も――。



「――“AYAKASHI本舗”……本物のあやかしたちが参加してる、特別な箱」


 どうだろう、なんて様子を窺うナツの目に。


「ま、俺はどうでもいいがな。悪くないんじゃねーの?」

「いい、いいです! とっても素敵だと思います!」

「ワシはそれでよいと思うぞ」

「アタシも異論はねぇかな。なんかカッケェし!」


 返って来たのは、みんなの肯定。


「じゃあ、みんなはこれから、AYAKASHI本舗のVtuberだ!」


 一人の裏方に、四人の配信者が集い。

 ここに、新たなVtuberのグループ――箱が産声を上げたのだった。



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