第4話 ヤシ(?)の木


 暫くボケーっと転がってはみたものの解決策の一つも浮かびません。

 変わった事と言えば陽射しの向きが変わって影もその都度動くので合わせて移動したくらい。


「流石に夜までこのままって訳にも行かんよなー」


 大海原から引き寄せる突風が肌を撫でてヒリヒリする。

 こんだけ快晴なら肌もこんがりレア風味。

 しゃーない。気合いを入れますかっと。


「よっこいしょういち」


 立ち上がって関節を鳴らしながら体を伸ばす。

 時間が過ぎれば過ぎる程体力は持って行かれるからね。機械の様にオンオフは出来ん訳ですよ。

 首もガコッと鳴らして気分爽快!。良い子は真似しちゃ駄目だよ、半身不随を賭けたロシアンルーレットだから!。

 さて、軽いストレッチは済んだところでどうしましょうか。

 

 頭をかるーくこねくり回して、今の所……選択肢は二つあります。

 この実を全身全霊で手に入れるか、はたまた海岸沿いを更に奥へ進むのか。

 この鬱蒼とした森の中に突貫、という案もありますが武器も何も無い着の身一枚な私にとっては正に蟻地獄であります。

 勘弁願いたいよね。彼方さんからしたら降って湧いた牡丹餅だよ。

 あんな恐ろしい怪物が闊歩してるんだから他もつえー奴らがわんさか居る事でしょう。

 オラわくわくしねぇ!!!。


「うーむ……やっぱりなんとかするしかないよなぁ」


 目線の先には相も変わらず丸々と食い出のありそうな実がぶら下がる。

 海岸沿いを歩いても確証がある訳じゃ無いもんな。

 色々と怖いけど此処には確かに食物になるかもしれない物が生っているのだ。

 もう喉もカラッカラ。多少でも水分を補給出来なきゃ脳が沸いちまうよ。

 

「問題はどうやって取るかなんだよなー。器用に登れる訳でも無し」


 近付いてぐるっと観察してみると根本から幹を伸びる段々に別れた表皮。所々それが盛り上がって非常に刺々しい見た目をしている。

 成程。昔楽々とヤシの木を駆け上がる現地の住人を写した番組を見た事があるが、この出っ張りに足を掛けてたのね。

 あ、同じヤシの木じゃないから同じに語るのは違うか。

 ……まぁ結局同じ事が出来ると思えないからなぁ。というか踏み外したら肌が削れるんじゃないかこれ。

 まじまじと見続けていると何か似た様な物に覚えがある気がした。

 うーん。ここまで出掛かっているんだけど、思い出せない。

 

「何だったかなぁ。あーもどかしい」


 ……まぁいつか思い出すでしょうと。未来に押し付けるスタンス。

 取り敢えずさっきみたいに石でも投げてみるか?。


「石……石か……」


 俺の足元に丁度片手で収まる平べったい物が転がっている。

 拾い上げてみれば程々の重量感。投げれはしないがこれなら。

 俺は両手で石を挟み込む様に抱え、丁度胸の位置程の幹へ叩き付けた。

 跳ね返り伝わる振動から生命の力強さパワーを感じる。

 やっぱり一筋縄には行きませんねこれは。


 それでも何度か叩き続けていると表皮がポロポロと剥がれ中の詰まった木の繊維が表出する。

 更に打ち付けて、如何にもこの繊維が手強かった。潰れるだけで全然切れないでやんの。

 順調に思えたのは最初だけ。中弛みで苦労するのは正に人生ですなー。

 負荷に耐えられなくなったのか石が真っ二つに裂け割れた。

 大地の力を宿した俺の聖剣が……!。とそれっぽく言っては見たものの丁度良いかもしれない。

 少しだけ鋭利に割れたから切れませんかね?。

 そう思って石を横に当てて上下に動かしつつ押し当てる。


「これ…………何日掛かるんだよ」


 進んではいるのだがあまりにも地道。修行僧でももう少し先が見えるんでないか?。

 坊主にでもなったろかコラ。バリカンも鋏もそんな便利な物はありませんが。

 余所は余所、家は家ってね。

 ボケる元気も無くなって来たかもしれないし、まだ余裕があるかもしれない。

 頭が回る内は大丈夫なんだろうけど。

 切れてるかなーと石をずらしてみる。


「うん! びくともしない!!」


 軽く解した程度の成果です。もう終わりだよこの命。

 汝干涸びる定めかな。

 

「ちくしょー。やっぱり登る以外に手立ては無いのか……?」

 

 確かテレビだと……どう登ってたっけなぁ。記憶をこねくり回せ。

 石を落としてこめかみを強く圧迫する。


「えーと? 紐かなんか括り付けてた様な……」


 木を一周させて体の後ろで縛るんだったかな?。

 それで体重を掛けて足を支点に紐を上に滑らせて登って行く。

 紐なんてありゃしませんがな。林の中へ向かえば代わりの物は手に入りそうだけども。

 目線を其方に移すと陰気な気配を醸し出した薄暗い林の様相に気分が落ち込んだ。

 仮に見付けても襲われたんじゃ意味無いからなー。


「……考えていたら尿意が」


 ちょっとした草木の間へ歩き、気分良く溜まった物を放出する。

 一日振りだから開放感がちげーや。

 というか誰も見てないのだから隠れる必要もないですね。

 残る文明人精神の所作かね。

 出し切ってからついでに下がったズボンを軽く持ち上げて……。

 

「ん? ズボン? これ、使えるのでは」


 脚の部分を巻き付けて長さが足りない所は服を繋いで長さの確保。

 体まで長さは足りそうな感じがする。

 登ってる最中に破ける可能性があり寄りのありだから本音は使いたくない。

 だけどもそんな事言っていられる余裕もないだろう。危険なら飛び降りるだけの事だもんな。


「物は試しにやってみようか」


 俺は溜息を吐いてズボンを脱ぐ。

 服も剥いで全身に受ける海風は妙に涼しさを感じる。

 ……俺は今、露出狂の見る景色に立っています。

 人間辞めますか?。

 黙ってズボンの裾部分と服の袖口を固結びで固定しました。

 他の縛り方なんて知らないよぉ。解けないで下さい頼んます。

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