第3話 復活


「----ん……? あれ? 此処、何処だ?」

 

 日は高く、俺の足元には砂浜が広がっている。

 見覚えの無い知らない浜辺。あの場所とはまた別の場所?。

 確か目の前が真っ暗になって……。

 最後の記憶を思い返そうとしたその時、片目を襲った異物感と強烈な耐え難い痛みを思い出す。

 

「いっってぇぇぇ!!!」


 右目を押さえて体を落とす。

 そうだ思い出した! あの鮫モドキ俺の目ん玉貫きやがった!。

 焼け付く様でヒリ付く様な独特な不快感を持つ痛みはこれまでに初めての事だった。

 今は見えている。でもあの時感じた強烈な記憶のフィードバックに思わず体が震え冷や汗が途端に噴き出る。

 暫く耐えるとその幻影も落ち着いていき、継続する腹の減りと喉の渇きに苛まれながら砂浜に腰を下ろした。

 あぁ。ゴツゴツとした座り心地とは天地の差だよ。サンキュー砂、フォーエバー砂。

 

「はぁ。もう着いて行けん」


 流石に疲れを感じざるを得ませんねこれは。

 片目を貫かれた感覚は今も覚えているのに、実際は両目共に非常にクリアな視界。

 夢……なんてオチは無いな。だって生理現象が地続きだもの。

 なら有りがちな流れとしては……生き返ったとか?。

 死んで蘇って。そんな漫画もよく見ましたよ俺は。

 皆大抵悲惨なんだよね……。

 

「いやいやいやいや、まだそうだと決まった訳では……」


 言葉を堰き止めて溢れたのは腹の音である。

 ……色々考える前に何か食べる物見つけねば話になりませぬと。

 

「言っても現代っ子の見本の様なもんですよ俺は。こんな大自然、野生の中で何を食えると分かるのか」

 

 取り敢えず水ですけれど、流石に海水を飲んでしまうのはアカンと分かります。

 河口を探すのが手っ取り早いのか?。何も分からないよほぉ。

 このまま餓死か……。いや、脱水で死に……。

 その時ふと気がつく。


「……ちょっと待て。俺の腹減りって前と継続してるけど、もしこのまま餓死したらどうなるんだ?」


 もし俺の転移ボーナス的なあれこれがリスポーンが如きうんたらかんたらだとしたら……。


「合わせる事の。餓死ループ……?」


 やばい。

 一気に背筋が凍り、俺は勢いよく立ち上がる。

 まだそうだと確信した訳じゃ無いけども! これは非常にやばい気がする!。

 

「水……水は何処だ!!!」


 そしてそのまま浜辺を駆けるのだ。

 場所が違うのは僥倖。あの魔物地帯で何かする程の力と勇気は備えていないので!。

 鬱蒼とした林を横目に俺は砂浜を一歩一歩踏み付ける。

 あぁ! 走り辛い! 何がサンキューだよ、こっちはノーサンキュー!!。

 靴の中に続々と滑り込む砂が気持ち悪いでーす!。


 走り続けても川のかの字も無い。

 だが道すがらにヤシの木? の様な物が目に止まり、俺はその前で足を止めた。

 形は確かにイメージ通りのヤシだが……何か赤いあけぇな。

 幹が黄土色に葉は緑が俺の知っている色合いだけど。

 根本から高く先まで見渡して、頂点の葉の広がりの隙間に実が成っているのは確認出来た。

 

「葉は紫……。実も赤い……。これ、食べて大丈夫なのか」


 実の中に多大な水分を含むヤシの実はカリウムが豊富で南国の方では良く親しまれている。 

 俺も昔ココナッツウォーターを飲んだ事はあるが正直味には慣れがいると思うね。

 まぁ背に腹代えられぬ立場なので、何とかあれを取りたいものだが。

 毒とかなけりゃいいけど。

 

「取り敢えず……蹴ってみましょうか」

 

 少し距離を取って……駆け出す!。

 中ほどで大きくジャンプし両足を突き出した。

 ドロップキック。またの名をパターダボラドーラ!!。

 両足は幹を捉え、跳ね返るままに砂地に背を落とす。

 

「どうだ!?」


 ヤシの木は大きく揺れるも……落ちては来ない。

 

「はー駄目かー。もう疲れたよとっつぁん」


 そのまま大の字に寝転んだ。

 普段なら子虫やらなんやらを気にするけど、こうも疲れちゃ些事だよ。匙投げたい。

 日差しの強さが気になっていたけれど、ヤシの下は一転して涼しさがあり気持ちが良いな。丁度葉が日影の役割を果たしてくれてる。

 湿度も低いんだねー。日本はべったべたのべっちょべちょよ。

 

「あー。喉渇いたなぁ」


 広げた腕の指先に石の感触が伝わって広い上げる。

 灰褐色のよく見る石ころ。見慣れた物には安心するよね。

 俺は力を振り絞って上半身を持ち上げ、破れかぶれにその石を実に投げ付ける。

 綺麗な放物線を描いて運良くヤシの実に当たり、小気味の良い音を奏でるも落ちる気配は無い。

 現実はそう簡単に行かないって事よね。はぁ無常なり。


 そしてまた砂浜に横となる。

 最後に飲料を口にしたのって何時だっけな。

 俺は少し思い返してみると百合子と巡った祭りの中で売っていたタピオカミルクティーの味が脳裏に浮かんだ。

 そうか。あれが直近だな。

 可もなく不可もない味。でも口に障るタピオカが飲み物なのか食い物なのかを曖昧とする。

 まさか最後の文明の味になろうとは。


「……取り敢えず生きていられる様にしないとだもんな。海が近いし飯は魚、水は飲めるのならヤシの実を拝借。もし毒があるのなら……本当にリスポーンしたのか証明出来る、か」


 水と食料が無ければ何も成り立たない。

 一からぜーんぶ自分でやらなきゃならない。

 人類の叡智により簡略化され続けた中を、そのぬるま湯に浸かって来た俺にとっては厳しい限りです。

 叫んだ所で誰かが助けてくれる訳はないしなー。

 俺を此処に送り込んだ何かしらも後は放置だし頼れる物なんかありゃしない。

 

「辛いよ百合子ー!!! 父さーん!!!」


 分かっていても何故だか口が動いてしまう。

 そうして俺の最後の泣き言は反響しつつ漣の中に掻き消えるのであった。

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