第49話 フェアリー族の恋愛事情?②【語り手:ガーベラ】

 8月20日。AM11:00。

 あたしたちは、イサナさんと一緒に訓練していた。

 外は暑いから、まだ涼しい書城グリモワールはありがたいんだ。

 雨さえ降って来なきゃだけど。

 ………この季節は雨より落雷の方が多いみたいだなあ。

 ガザニアちゃんは、イサナさんからまた戦技を学ぼうとしているみたい。

 今回の戦技の名前は『真空撃』

 離れた対象に空気の刃を飛ばす戦技で、接近戦一本だったガザニアちゃんを補ってくれそうな戦技だ。

 イサナさんが選んでくれたんだけど、あたしはいいチョイスだと思う。

 ガザニアちゃんも真剣な顔で頷いていたしね。


「はああっ!」

「そらそらどうした!そよ風しか起こらんぞ!」

「くっ、はっ―――!」

「少しはマシになったがまだまだだ!」


 うーん、暑苦しいね。あたしは書庫にでも行こうかな?

 そう思って書庫の方に行くと、フェアリー族のロロルがいた。

 なんとなく、ムムル君の現状を訪ねてみる。


「ええー?無関心の薬の効力が切れた?あれって永続するんだよ?」

 あたしの問いにロロルは深刻な顔を向ける。似合わない。

「例のカバ娘ちゃん、かなりいいとこのお嬢さんみたいでね。両親が異変に気付いて解呪しちゃったらしいんだ。今度は護衛までつれて来てムムル君にアピールしてるんだよ。気を付けてないとさらわれそうな感じ」

「ううーん」

「ねえ、解呪されない薬ってないのかな?」

「あたしの知識にはないなあ。オリーナさんに聞いてみようか」


「聞こえてたわよー」

「オリーナさん、壁の中で何やってたの!?」

「たまにそんな気分になる事ってないかしらー?」

「生きてる人間にはないよ」

「そうなの?」

「それよりオリーナさん、話を聞いてたなら早いけど、解呪されない薬で、カバ娘ちゃんが諦めそうなのってない?」

「前回のレシピに永遠とわのあまつゆ、その他市販品を加えればいいだけよー」

「え、永遠のあまつゆ?市販品はいいとして、それは聞いた事ないよ?」

「前、ドラゴンゾンビが封印されてて、私の体が今も封印されてる洞窟、あそこに落ちてる光る氷がそれよ。前回は幻想的な光景にしか見えなかったでしょうけど」

「あそこかー。景色なんかよく見てる余裕なかったなぁ。サフランとパプリカを連れていけばガザニアちゃんの邪魔しなくても取って来れるかな?」

「私もついていってあげる」

「俺もついていきたいけど、冒険者じゃないからねぇ」

 ロロルはそう言ってくれるけど、さすがに無理だよね。あれ?

「あれ?オリーナさん、冒険者じゃないよね?」

「私はもう幽霊だから、誰も何にも言わないのよー」

「そうなんだ………」

「とにかく、ムムルがさらわれる前にお願い。今回はここの客室で待ってるね」

「おっけー。さくっと取ってきて、ちゃっちゃと作っちゃうね」


 そういうわけで、あたしはクロノス大庭園にオリーナさんと向かい、魔法でモンスターを薙ぎ払って「永遠のあまつゆ」をゲットしたのだった。

 特に障害は無かったからサクッと取ってきたよ。


 代わりに問題になったのは、どういう風に薬を作るかだった。

 晩御飯の時間になので、訓練を切り上げてきたガザニアちゃんを交えて話し合う。

 ロロルまでちゃっかり晩御飯を食べていた。

 今日は分厚いステーキ。ロースとヒレだよ。ご馳走だね。

 みんなでモグモグしながら話し合う。

「で、今出たその薬だが、ムムル君の事がカバ娘の親にもバレているようだし、親にも使わないといけないんじゃないのか?護衛は雇い主次第だからいいとしても」

「うん、それで、薬を10mぐらいを覆う霧を発生させて吸い込ませるものにしようかとオリーナさんと相談してるの。一部屋に集まってる所を一網打尽にしたい………」

「問題は、ムムル君の姿を見せないといけないところだな?」

「うん。それが問題」

「霧が晴れるまでと晴れた後、大人しくしててくれるとは思えないな。しばし行動不能………こう、ぼんやりとさせるような効果を先に付与できないか?多少ぼんやりしていても、視界に入ればいいんだろう?」

「やっぱそれだよね………やってみる」

 

 方針は決まったので、あたしはいつもの大広間で調合を開始した。


 ~新・無関心の薬の材料~

 砂糖を飽和状態にした水………200ml

 塩を飽和状態にした水………200ml

 シーダーライム(強い麻痺効果がある)の実………5個

 ゴーストティア………4個

 泥水……200ml

 幽霊の放った炎………200度以上のもの。量はたっぷり。

 永遠のあまつゆ………ひとかけら


 で、作成。幽霊の放った炎はオリーナさんに頑張ってもらったよ。

 作成が煩雑で1回失敗しかけたけど、オリーナさんが調合に付き合ってくれてるから何とかなったって感じかな。

 やー、何とか新・無関心の薬ができあがったよ!

「やったー」

 とオリーナさんとハイタッチ、したのはいいものの………もう3時だ。

 とりあえず朝まで仮眠を取ろうっと。


 8月21日 AM09:00


 身繕いをすませて、朝ごはん。ロロルもちゃっかり同席している。

「それで、そのスペシャルな薬は完成したって事かな?」

「夜中にやったーって声で一度目が覚めたぞ」

「ふふんっ、じゃじゃーん、これだよ!」

「導火線がついてて丸くて黒い………バクダン?」

「それをイメージして作ったよ!本当に火をつけて投げ込んで使うからね。ということで、実際に投げ込む係のガザニアちゃん、渡しておくね」

「よし、じゃあカバ娘の屋敷は掴んでいるから、そこに偵察だ!」

 休ませてもらえないみたい、斥候シーフはあたしだけなんだもん。


 AM12:00

 カバ娘ちゃんの屋敷。

 屋敷はファンシーなものであふれていた。

 調度品はお金持ち―――成功した材木商のそれなんだけど、そこここの小物がね、くまさん(あたしはくまは嫌だ)とかうさぎさんとかで占められてて。

 カバ娘ちゃんの部屋はカーテンはフリルで、どうぶつの刺繍だった。

 他の調度品も特注だろうな、っていう可愛いものばっかり。

 いまのところペットはうさぎとか、猫とか、犬ですんでるようだけど、あたしは先日彼女がムムル君のことを見る目が動物を見る目だったんだとここで気付いた。

 早く何とかしてあげた方がよさそうだね。

 とりあえず、晩御飯を家族で取る食堂と時間は把握しましたっと。


 14:00

 待ち合わせ場所(近くの森)に帰ると、いきなり黒装束のガザニアちゃんに声をかけられてびっくりした。

「普段の恰好だとガチャガチャ音がするだろう。黒の鎧下だけにしたんだ」

「ああ、そういえば、鎧を着る前ってそうだったような」

「忘れるな。まあ、一応、覆面も買って来たがな」

「全員『下級魔法:無属性:インビジビリティ(透明化)』で忍び込むけど、実行役のガザニアちゃんにムムル君も、顔を出さないといけないからね。すぐかけなおして撤退するし、その場の人間は2人に無関心になるから心配ないんだけど」

 あたしはここまでで立てた作戦のあらましをなぞる。

「そういうことだな、夜を待って、行くぞ」


 19:00

「そろそろ家族の食事の時間だよー」

 ロロルも何故かついてくることになったので、あたしは全員に『インビジビリティ』をかける。まあ危険度は低いと思うからいいか。

 あたしが先導して屋敷の中に侵入。

 ロロルはあたしが、ムムル君はガザニアちゃんに抱えられている。

 給仕のメイドさんについて、怪しまれる事なく食卓に入って―――ガザニアちゃんとムムル君の術を解く!

 それと同時にガザニアちゃんが、火をつけた爆弾もどきを部屋の中央に放り込む!

 これで覆面をしてない仲間(ムムル君)とターゲットと、その他の人たちは、ぼんやり効果で目の前の光景をただ見ているしかできないはず!


 効果はしっかり発揮された。それは間違いない。

 ただ、効果が発現するまでのタイムラグで、カバ娘ちゃんがムムル君に飛びつき、熱烈なキッスをかますとは、想像つかなかったのだ。

「ぎぇぇぇぇ………!!!」

 ムムル君のダメージは甚大だったようだ。

 甚大だったようだけど、薬の効果(ぼんやり)ですぐ放しては貰えた。

 フォローしている時間が無いので、術をかけなおして全員撤退!


 脱出後、近くの森にて『インビジビリティ』を解いた。

 心配だったムムル君は平気だった。

 彼も薬の効果を受けており、カバ娘ちゃんに無関心になっていたからだ。

「これでいいのかなぁ?」

「彼女が怖かったのは覚えてるよ。でも今はどうでもいい存在かな」

 本人がこう言うのだから、これでいいんだろう、うん。


「今日は書城グリモワールにごはん食べにくる?」

 ムムル君とロロルは、あたしの言葉に「喜んで」と答えた。

 あたしたちは、書城グリモワールに帰還した。

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