第47話 フェアリー族の長老【語り手:ガーベラ】

 7月15日。AM08:00。


 梅雨が明けたー!

 苦手な雷が減った―――書城グリモワールでは普段から何もなくても落雷がある―――のは喜ばしい事だね、うん。

 今日は訓練はお休みだ。

 ガザニアちゃんはオリーナさんにチーズケーキの作り方を教えて貰うんだって。

 あたしは何をしようかな………新しい魔道具でも作ろうかしらん?

 ん―――そうだ、魔法の絨毯を作ろう。

 あたしとガザニアちゃん、それにサフランとパプリカの乗れる大きなやつだ。

 そう決めたあたしは、普段着を着こんでジェニー商会に向かった。


「いらっしゃいませ、本日お求めの物をお伺いします」

「絨毯だよ。4人乗っても余裕がある大きさのがいいな。6人乗りにしたいかも」

「乗り………?ええと。デザインはどうなさいます?」

「う~ん、赤地に模様が入ってるのがいいかな」

「それでしたら、こちらなどどうでしょう………」

 店員さんの示したものは落ち着いた赤にブラウンの模様が入っている大きな絨毯。

「うん、いいね。これ貰うよ。魔法薬なんかも扱ってる?」

「ありがとうございます。魔法薬も扱っておりますよ」

 さすがジェニー商会、何でも売ってるね。

 あたしは、魔法薬と、糸状のミスリルを買って書城グリモワールに帰った。


 帰ったら、まだガザニアちゃんは厨房だったので、あたしは材料を持って大広間に行く。マジックアイテム作りにいつも使っている場所だ。


 まず、絨毯にミスリルの糸で魔法陣を縫い付ける。

 何回も指を突いた。

 どうせあたしは不器用ですよーだ。

 ともあれ何とか不格好ながら刺繍は完成!

 じゅうたんが赤と茶色で良かった。

 血の跡が目立たないからね。


 と、その先に進む前に、ガザニアちゃんの呼ぶ声。

「ガーベラー、どこ行った?レアチーズケーキができたぞー」

「はいはいっ!大広間だよ、今行きます!」

 リビングに行くと、お茶とレアチーズケーキというケーキがあった。

「このケーキは焼かなくてもできるんだ。初心者に丁度良かったよ」

「「魔冷庫」で冷やすだけで固まるのよー」

「チーズのケーキかあ、いただきますっ」

 切り分けて貰ったレアチーズケーキは口の中でとろけるようで、とってもおいしかった。器になっているクラッカーもサクサクだ。

「おいしー!」

「それは良かった。いくつか作ったからいっぱい食べるといい」

「はーい!」

「喜んでくれる人がいると、教えがいがあるわねー」

 自分でも食べて満足そうなガザニアちゃんと、あたしたちが食べるのを嬉しそうに見ているオリーナさんとで、美味しいティータイムは終わった。


 あたしは「空飛ぶ絨毯」を作るからと、大広間に戻った。

 ガザニアちゃんが興味があるとついてきたけど、それはそれで構わない。

 ガザニアちゃんなら邪魔はしないってわかってるからね。

 それはともかく、あたしは、魔法薬を鍋でブレンドして、出来上がった魔法薬をゆっくり絨毯にしみ込ませていく。

 魔法薬に反応して、ミスリルの魔法陣が発光する。

 ついで、その状態の絨毯に、大量の魔力を流しながら呪文を唱える。

 絨毯は白煙をあげて―――安定した。

「よっし、これで完成のはず!今日はもう遅いから明日実験しよーう!」

「そうだな、今日はもう寝よう」


 7月16日。AM08:00。


 朝の身繕いを終えると、オリーナさんからダンカンさんが来たと告げられた。

「お早うございます、ダンカンさん。どうしましたか?」

「実は、フェアリー族と人間の間で持たれる話し合いがあるんですが」

「うん?それが私たちと何か関連が?」

「それがフェアリー族の長老が招待状を受け取ってくれないんです。ランクの低い冒険者の持ってくる物は信用できないとかで」

「それで私たちか………」

「招待状を持って行ってくれますか?」

「いいよ、フェアリー族の居住区って興味あるし」

「長老さんの家までの地図を貰えるか?」

「はい、これです」

 ダンカンさんは、渡せたら冒険者ギルドに報告を、と言って去っていった。


「じゃあ、魔法の絨毯の慣らしも兼ねて、フェアリー族居住地まで行こうか」

「普通の絨毯に見えるが、乗って良いのか?」

「うん、乗ったら姿勢を低くして、落とされないようにね。さあ、サフランとパプリカも乗るんだよー」

「全員乗れるのか………わかった」

「じゃあゲートを出て、フェアリー族居住区へ!」

 ガザニアちゃんが必死の形相で絨毯に捕まってるけど、慣れれば慣れるよ、うん。


 フェアリー族の居留地はぬいぐるみの町みたいで可愛かった。

 カラフルなレンガ?で作られていて夢の世界みたい。

 手近なフェアリー族に声をかけて、長老さんの家まで案内してもらう。

「ボクも乗せてー、ボクもー」

 と群がってきたフェアリー族を絨毯に乗せたので、あたしたちは徒歩になってしまったけど別にいい。

 てゆーか全員男の子に見える。フェアリー族に女の子はいないのかなぁ?

 聞いてみたら、自分たちは大樹から生まれるが、性別は男だそうだ。

 なるほどねえ。


 長老さんの家に着いた。周囲より多少立派な造り………かな?

 ご多分にもれずカラフルなので、立派かどうかよくわからないのだ。

「長老ー!長老ー!?………あれ、今日は居るはずなんだけどな?おねえさんたちついてきて、奥に案内するから」

 ノックして大声をあげたフェアリー族が、あたしたちを手招きする。

「勝手に入っていいのか?」

「大丈夫だよ。フェアリー族はいつでも勝手に入っていいんだ。フェアリー族のお客さんだから、おねえさんたちもいいのさ。うん、そうに決まった」

「ガザニアちゃん、責任は取ってくれそうだからいいんじゃない?」

「まかせてよ、おねえさんたち」


 いまいち不安だけど、案内を買って出てくれたフェアリー族の後ろについて屋敷を進む………と「うにょおおおお!!」という奇妙な叫び声が聞こえてきた。

「あっちだよ、おねえさんたち!中庭の方だ!」

 走って駆けつける………と、そこにはとんでもない光景が。

 中庭の地面には3体のワイバーンがおり、ヒゲの生えたフェアリー族―――推定長老を食おうと、首をのばしているのだ。

 長老は手に生肉を持っているみたいだけど、何のつもりなのかな?


「サフラン、パプリカ、左右のワイバーンを押さえろ!ガーベラは私と一緒に中央のやつを倒すぞ!」

「りょーかい、ガザニアちゃん!」


 1体目の始末は、あたしが『上級:水属性魔法:ブリザード』で動きを鈍らせたところを、ガザニアちゃんが首を切り落としたことでついた。

 ワイバーンの首は長いからね、分かりやすい弱点だ

 2体目は、サフランが足止めしている所に「最上級:水属性魔法:アイスコフィン」を叩き込んで氷漬けにし、それをガザニアちゃんが粉々にした。

 最後のは逃げようとしたけど「上級:地属性魔法:コントロールドライアド(蔦での動き封じ)」で飛行を封じて、魔法と物理でタコ殴りだ。

 うーん、あたしたちも強くなったもんだねえ。


「ところで長老さん、無事ですかー?」

「うん、大丈夫ー。いやあ、餌付けしようとして専用の笛で呼び寄せたんだけど、ぜんっぜんいう事聞かないねあれ。来てくれて良かったよー」

「「はい!?」」

「ほら、生肉」

 持ってた生肉はこのためだったの?呆れて二の句がつげないよ!

「私たちが来てようございました。会談の招待状、受け取って貰えますよね?」

 ガザニアちゃんがかもし出す迫力に長老さんはカクカクと頷く。

「い、いやあ。もちろんじゃないか!必ず出席すると伝えてくれたまえ!」

「では、私たちは冒険者ギルドに向かいます」

 ガザニアちゃん、中庭の惨状の掃除は、フェアリー族に任せるつもりみたい。

 まあ、ワイバーンのお肉は美味しいし、損ばかりでもないんだろう。


 あたしたちは、冒険者ギルドに報告してから書城グリモワールに帰るのであった。

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