第46話 無謀者の救助【語り手:ガザニア】
6月20日。AM08:00。
ちょっと遅れて梅雨がきた。
書城グリモワールでは豪雨と雷雨がうるさい季節だ。
私たちは、ドンガラガラガッシャーン!!という音で目を覚ます。
「うにゃー!?なーに?凄い音がしたよ!」
「窓辺に雷が落ちたみたいだな………うわ、酷い雨だ」
「雷なの?この城、避雷針とかなかったっけ?」
「中庭に立っている金属の高いポールがそうじゃなかったかな」
「駄目じゃん。あたしたちの部屋、中庭に面してるじゃん」
「まあしばらくは、雷の音に耐えるしかないな………」
私たちは、気分を切り替えるために洗面室に顔を洗いに行った。
その間にも雷鳴と雨音は続いている。
それはおいといて、装備を整える。
書城グリモワールで雨の日なら、ゲートの外も雨の日だ(程度は違うにせよ)。
なので一応、書城グリモワールのゲートから出て、外の天気を確認。
うん、雨だ。ここと違って小雨だけどな。
「外の方が、まだ訓練になりそうだな。クロノス大庭園にでも行くか?」
「そうだねーって、あれ?ダンカンさんが来る」
そう言われて道の方を見たら、確かにダンカンさんが走ってくる。
相変わらず俊敏な人だな―――ってそうじゃなくて。
「何だろう?」
「さあ?とりあえず書城グリモワールに戻って待とうよ」
「そうだな、お茶を淹れよう」
ダンカンさんは、5分ぐらいでやってきた。オリーナさんが対応している。
ちょうどお茶を淹れ終わったあたりでリビングに来たダンカンさんが口を開く。
「お二人に、お願いしたい急ぎの仕事があるのです」
「「急ぎの?」」
「はい、シルバーランク見習いの冒険者が、身の丈に合わない依頼を受けて「ラグザの古戦場」に向かってしまいまして。多分危険な事になっているかと」
「そういうのは、ギルドの受付で確認されるんじゃ?それと見習いって何?」
「研修中のギルド職員を、言いくるめたようでして。エトリーナやオリーが気が付いた時には手遅れでした。ちなみに見習いというのはランクアップ試験に受かった者でも、いまいち達成度が足りない者の様子を見るのに与える呼び名です」
「へえー。そんな制度あったんだね」
「その人たちが、今回受けた依頼は身の丈に合わないと?」
「ええ。まだ見習いですから「ラグザの古戦場」には入れないはずなのです。入る技量はまだないと見ての見習いですからね。彼らがモンスターにやられる前に、回収していただけませんか?」
「私は構わない。ガーベラは?」
「いいよー?泣きっ面みて笑ってやろうっと」
「それはどうかと思うが………まあ、引き受けました。ラグザの古戦場のどこを探せばいいですか?あと、その無謀者たちの外見は?」
「三人いるのですが………3か所のモンスター退治の依頼を受けていまして。そのモンスターの出現ポイントはこの3つです。三人の特徴はこの紙に」
ダンカンさんは、私たちに地図と人相書きを渡してくれた。
人相書きはいいとして、地図を自分の地図と照らし合わせてみる。
なるほど、ここか―――って?
「ずいぶん離れた場所同士だな。もしかして三カ所にそれぞれ一人ずつ分かれて討伐しようとしているのか?」
「そうかもしれません―――自信家な連中ですから」
「それは大変だ、すぐ向かおう」
「ガザニアちゃんは優しいよねー」
「よろしくお願いいたします」
AM10:00。
急いで歩き、ラグザの古戦場のゲートに着いた。
門番さんに挨拶をして、ためらわず潜り抜ける。
地図を確認して、近い所から回って行く事にした。
最初のポイントは、イビルライオンの群れがいる区域だ。
イビルライオンのオスの毛皮が依頼品だった。
イビルライオンの毛皮は緑がかった金で珍重されるのだ。
オスとなればたてがみがあるのでなおさらだ。
だが、イビルライオンは群れる。
私たちでも手こずるのに、シルバーランクのなりたて―――見習いか―――が何とかできるとは思えなかった。
「ガザニアちゃん、あれ!!」
目のいいガーベラが指し示す方向に目をやると、イビルライオンが5頭、高い木を取り囲んで吠えている。
もっと目を凝らしてみると、木の上に1人の男の戦士がいた。
必死の形相だ。
人相書きに一致するので、無謀者の一人だろう。私たちに向かって叫んできた。
「お、お前ら!俺はシルバーランク冒険者だぞ!助けたら礼をやる!」
「行ってる事に色々ツッコミたいが仕方ない。イビルライオンを片付けるか」
不意打ちで、ガーベラが『ファイアーストーム』をぶつけて痛打を与え、援護を受けつつ私が5匹の中に突っ込んで、1頭づつ仕留める。
ガーベラも投げナイフで的確に急所を抉った。
それで戦闘は終わった。たった5頭ならこんなものだ。
「君!不正にイビルライオン討伐を受けた冒険者だな!」
「ふ、不正じゃない!受付が許可を出したんだ!」
「見習いをだましてクエスト票承認を得たんだろう?事情は聞いてるよ。モンスターにやられて死にたくなければ同行してもらうぞ」
「えー。この人同行させるの?足手まといだよ」
「しかし確保してギルドに突き出さないといけないだろう」
「そんな依頼だっけ?」
「助けてくれという依頼だな。だが助けたからには責任を持たないと」
「うへえ、真面目だなあ………仕方ないね。君、ついてきて」
「俺様を守るんだな、いいだろう」
「守るには守るが、それは仕事だからだ。護送だな」
「逃げられるとは思わない事だね。あたしたちの実力は見たでしょ?」
まだ迷っているようだ。
でも、私たちが金の冒険者タグを見せると、逃げるのは諦めたらしい。
「わかったよ、護送することを許可しようじゃないか」
いちいちカンに障る奴だが、無謀者の一人は大人しくついてくることになった。
私たちは、イビルライオンのオスの毛皮をはぎ取って、収納の腕輪に納めた。
依頼の完遂を待ってる人たちがいるハズだから、代理で回収したのだ。
次の場所に向かう。
次の場所の依頼は「サラマンダーの尻尾」だ。
ということはサラマンダーが生息しているはず。
「次の場所にも仲間が一人で行ったのか?」
「シルバーランクの(正確には見習いだが)俺たちなら、1人で十分だと思って」
「馬鹿だねー。あたしたちでも単独では回避するよ」
「………俺たちは大丈夫なんだ」
「まあ、それはいい。それよりそろそろポイントだぞ」
「助けてくれぇー!!」
突如森の中から、必死の形相の、装備からしてシーフの男が飛び出してきた。
その彼を追いかけ、数十匹の「ビッグリザード」と一匹のサラマンダーが飛び出して来る。目標の周りにビッグリザードが群れていたという所か。
ビッグリザードは、2メートルほどの装甲に覆われたトカゲで、噛まれると感染性の高い唾液が傷口に付着し、手当てしないと死に至る厄介な敵だ。
「噛まれたか!?」
「いや何とか回避した!」
そう言いながら私たちの後ろに隠れる無謀者。
プライドはないのか?いや、なまじプライドが高くても困るか。
「ガーベラ、広域魔法だ!属性は水!」
「了解。『最上級:水属性魔法:アイスストーム』!!」
ガーベラの術で、凍り付き動きが鈍いビックリザードに私は突っ込む。
ガーベラが『上級:水属性魔法:ブリザード』で援護してくれた。
おかげで、噛みつかれる事なく殲滅に成功した。
火トカゲという感じのサラマンダーは、氷魔法で捕らえたので尻尾を切り取った。
切り取った後、サラマンダーは逃がしてやることにする。
「君は、そこにいる彼の仲間だね?」
「はい、そうです。助けてくれてありがとうございました」
おや、ずいぶん下手に出るじゃないか。
「ギルドにこのことは報告させてもらうけど、私たちについてくるならラグザの古戦場の中の移動は護衛する」
「はい………もう、こりました」
イビルライオンのやつみたいなのばかりではないんだな。
「それでいい、最後のポイントに行こう」
最後のポイントに行くと、草原に倒れている、人相書き通りの男がいた。
恰好からして僧侶らしい。
ケガをしているようで、腹を押さえてうめいている。
そして、その背後の獣道からは、ガシャン、ガシャンと金属音が迫っている。
リビングメイルだ。
依頼の回収品はリビングメイルの装備。
リビングメイルはいい装備をしていることが多いからな。
まあリビングメイルは、私の神聖魔法で簡単に浄化できたからいいのだが。
リビングメイルはアンデットでない場合もあるのだが、今回はアンデットだったので、始末が簡単だったのだ。
書城グリモワールに巣くう悪霊に比べたら可愛いものだ。
身もふたもない戦闘―――一方的な無力化か―――に無謀者たちが驚いている。
私は僧侶らしき男に回復魔法をかけてやった。
彼も大人しくついてくるようだ。
さあ、これで後は彼らを護送したらおしまいだ。
観念したらしき無謀者たちは大人しかった。
いや、イビルライオンに追い詰められていた奴は、減らず口を叩いているか。
まあ、冒険者ギルドで、たっぷりと絞られるがいいさ。
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