第45話 オリーナさんの秘密?②【語り手:ガーベラ】

 6月8日。AM11:00。


 あたしたちは、オリーナさんの器(体)のありかを探し、クロノス大庭園の浮島の上に黒々と入り口を開ける洞窟―――明らかに浮島よりも大きい―――に侵入した。


 流れ出すのは、洞窟だからという以外にも要因がありそうな冷え冷えとした空気。

 警戒しながら洞窟にもぐっていくと、そこら中が凍り付いている。

「ガザニアちゃん、転んじゃダメだよ?サフランとパプリカも心配だなぁ」

「分かってるが、保証はできないな。サフランとパプリカは………重すぎて氷を砕いてるから大丈夫じゃないか?」

「ならサフランとパプリカは大丈夫だとして、ガザニアちゃんも装備があるからあたしじゃ受け止められないよ?」

「先頭を行くのをやめるか?」

「罠とかあったらどうするの?」

「わかったわかった、転ばないように努力する」

「よろしい」


 とか何とか言ってるうちに、完全に氷に覆われた洞窟の広い空間に出た。

 すべてが氷に覆われているのに、何故か川のように溶岩が流れている。

 ダンジョンってふっしぎー。

「オリーナさん、器(体)のある方向ってわかりますか?」

 おっとそうだよね、オリーさんの器を探さなきゃ。………忘れてないよ?

「そうねー。もっと奥だと思うわ」

 オリーさんの言葉が終わるかどうかといったところで、モンスターが出た。

 赤い宝玉で飾られた、大きな火トカゲ。

「とりあえずサラマンダーって命名しよっか?」

「分かった!」

 戦闘開始―――戦闘終了。

 ガザニアちゃんとあたしのコンビネーションの前には大した敵じゃなかったね。

 見た目通り、水系の魔法が良く効いたしね。

「ここって外とは敵が違うんだね」

「外は、機械仕掛けの天使みたいなのがほとんどだからな」

「まあ、用心しながら進もっか。もっと奥なんだよね、オリーナさん?」

「ええ、もっと奥だと思うわー」


 奥に進軍………といっても、溶岩の池や川が多数。

 『浮遊』をあたしとガザニアちゃん、サフランとパプリカにかけて越えようとしたら、サラマンダー(仮)が団体で出現したりして。

 あたしは制御で精いっぱいだったから、オリーナさんが一掃してくれなかったらどうなっていたか分からない。

「今度から『アイスボール』で溶岩を固めて渡ろっか。サフランとパプリカは固めた溶岩を貫通しそうだから『浮遊』で風船状態にして運んじゃおう」

「それしかないな。じゃあ行こう」


 溶岩の池や川、滑る氷―――問題ない場所だったけどガザニアちゃんが2回ほど転んだ―――を抜けて、奥へ。

 しばらくすると行き止まりになっていた。

 硬そうな岩が次のエリアへの入口を塞いでる。

「うーん、私の器はこの先じゃないかと思うのよね。この石を破壊するのは魔法じゃ無理そうだけど。でも『フィジカルエンチャント・パワー』をガザニアちゃんに重ねがけすれば、どかせるんじゃないかしら」

「魔法じゃダメなの?何で?」

「この石、魔力を吸収するのよ。私には魔力の流れが見えるの」

「なるほどー。じゃあガザニアちゃん、お願いね」

「わかった」

 オリーナさんが『フィジカルエンチャント・パワー ×10』をガザニアちゃんにかける。ガザニアちゃんは全力で岩を押したみたい。

 ゴゴッという音と共に、岩は横にずれる。

 それと同時に次のエリアから凄い冷気が吹き付けてきた。


 用心しながら次のエリアに進む。

 広いドームになっているエリアには、氷漬けの骸骨がいっぱいあった。

 その中で目を引くのは、唯一骸骨じゃない人が氷漬けになっている所。

 どう見てもオリーナさんだ。

 白い巫女さんっぽい服を着た長い黒髪の美女。

「オリーナさん、これだよね?見つけたけど、どう?」

「………思い出したわ」


 オリーナさんによると、彼女は昔のエカルドの町(当時はエカルドという名前ではなかった)を襲ったドラゴンを封印するための媒介―――要は生贄か―――としてこの洞窟に送り込まれ、ここを氷に閉ざした魔法をその身で導いたのだという。

 その後、当時の人たちは封印を強化するために空間を捻じ曲げて、洞窟をクロノス大庭園の中に移したらしい。


「どうするの?オリーナさん。器(体)に戻れるの?」

「………いいえー。氷で組織が破壊された体だもの。宿ったって死んじゃうわ。そうしたら幽霊に逆戻りよ。リペア(修復)で体を元に戻せない事もないけど………」

「戻さないんですか?」

「………ええ。私は幽霊のオリーナよ。体を見て、人間としての生に未練がないのがよく分かったわ」

「オリーナさん………」

「それより、大変な事があるわよー?」

「「大変な事?」」

「ここに入る時、大岩をどかしたでしょう?」

「どかしましたが、それが何か?」

「劣化してたから、いつ破れてもおかしくなかったけど、あれここの封印でね?」

「まさか―――」「もしかして―――」

「ドラゴンの封印がとけるわよ―――」


 ゴゴゴッ、ゴゴゴッ、という、タイミングをセリフに合わせたかのような震動。

「大丈夫よ、ドラゴンも一度死んでるの。出てくるのは出来損ない―――ドラゴンゾンビだから、神聖魔法で成仏するわ」

「頑張りますが、慰めになってません!」

「まあ、私とガーベラちゃんは火魔法の連打ね。それで弱ったら、お願いね」

 ガザニアちゃんは青い顔をしてたけど頷いた。

 あたしは黙って魔法の準備をする。


 復活した―――死んでるか―――ドラゴンは、ドームの半分を占める巨体だった。

 ちなみに、冷凍されてたから腐ってはいない、けど生臭い。肉のニオイだ。

 それにしても、こう大きいと物理のみのサフランとパプリカは役に立たない。

 仕方ないから壁になってもらおう。

 ガザニアちゃんも時間稼ぎに前衛をしてくれるみたいだ。

 あたしとオリーナさんでできる限り削らないと。


「『最上級:火属性魔法:ファイアーストーム ×10』!!」

 初手から飛ばしていった。全力だ。

 あたしは収納の腕輪から魔力回復薬を飲む。

 それで3分の1ぐらい魔力が回復した。

 オリーナさんはまだ呪文の詠唱中―――どうも儀式魔法を使うつもりらしく、周囲には魔法陣が光りはじめている。

 それなら、場つなぎにあたしも攻撃しないと。

 急ぎあと二本魔力回復薬をあおって―――

「『ファイアーストーム ×10』!!」

 苦しそうに身もだえするドラゴンゾンビ。

 大盤振る舞いだもの。さすがに効いてるみたいだね。

 ちなみに後衛のあたしたちに届く攻撃はない。

 どうもこのドラゴンゾンビ、ブレスとかを吐く能力は失われてるらしい。


「『儀式魔法発動:滅獄の火龍』!!」

 ドラゴンゾンビに、オリーナさんの生み出した巨大な炎の東洋の龍が襲いかかる。

 炎はドラゴンゾンビの全身を包み込んでなお盛大に燃えさかる。

 肉の焦げる音が聞こえてきた。

 

「『トリニティイーヴィルアナイアレイト(三連邪悪殲滅)×10』!!!」

 ドラゴンゾンビの動きが止まったところで真打登場。

 ガザニアちゃんの渾身の神聖魔法だ。

 ドラゴンゾンビは凄い叫び声を上げたけど、光になって消えていった。


「………やったか?」

「やったみたいだね」

 あたしたちは、その場にひっくり返る。

 魔力が底をついたのだ。


 しばし休憩………


「改めて、ありがとう。ガザニアちゃん、ガーベラちゃん」

「ドラゴンが出ると聞いた時にはどうしようかと思いました」

「ごめんねー。私も体を見るまでドラゴンの事とか思い出せなくて」

「オリーナさんのせいじゃないよ。で、ここの事だけど………」

「ギルドには全部説明した方がいいだろうな」

「じゃあ今からギルドに行きましょうー」


 私たちは、ギルドに向かって歩き出したのだった。

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