第44話 オリーナさんの秘密?①【語り手:ガザニア】
6月6日。PM12:00。
私たちの誕生日が来た。これで私とガーベラは17歳になる。
双子ゆえに私たちの容姿は、これまでさほど違わなかったのだが、この2年で差異が出て来たように思う。主に体格差だ。
私はガーベラより背が高くなり、より筋肉質に。
ガーベラは胸と腰が大きくなってより女性らしく。
いや、私も胸や腰は発達しているのだが、筋肉のせいでごにょごにょだ。
それはともかく、オリーナさんは豪勢な晩御飯とケーキを作ってくれるべく、厨房にこもりっきりになっている。
私が手伝うのは「主役だからダメ」だそうだ。
イザリヤ叔母様は、夜に来て下さると連絡が入った。
ちょっと緊張するな。
PM6:00。
晩餐の準備は整い、イザリヤ叔母様もやってきて料理を作ってテーブルに出し終わったオリーナさんと談笑している。
「オリーナは本当に料理上手なのだな。うちの姪たちには勿体ない。どこで料理を学んだ?生前の記憶か?」
「生前の記憶ってないのよねー。唯一覚えてるのがクロノス大庭園の奥にある洞窟のイメージなんだけど。それだけなの」
「………ここにゴールドクラスの冒険者が二人いるんだ。依頼したらどうだ?」
「そうねー。もしかしたら洞窟の探索をお願いするかもしれないわー。それより、2人にプレゼントがあるんじゃなかったの?」
「ああ、そうだ、2人共こっちにおいで」
私たちはイザリヤ叔母様の前に立つ。
「今回のプレゼントは「収納の腕輪」だ」
私たちはシンプルな黒い腕輪を受け取った。
イザリヤ叔母様によると、16種の物を1種につき99個まで収納できる腕輪だという事だ。私は武器の数が多くなっており、担ぐのに難儀していたので有難い。
瞬時に取り出して、装備することも可能だという事だし、使い勝手が良さそうだ。
「「ありがとうございます。イザリヤ叔母様」」
「立派に修行している様で何よりだ。プラチナクラスも見えて来たんじゃないか?オリーナ殿から聞いたが成長しているようだな」
「今後とも一層の努力を重ねます」「今後も任せて下さい!」
イザリヤ叔母様は微笑を浮かべて、私たちの頭を撫でてくれた。
誕生日のご馳走はとても美味しく、私たちはオリーナさんに感謝した。
夜遅くまで、誕生会は続いた。
6月7日。AM08:00。
「2人ともー?起きれるかしら?」
私たちは目をこすりながら、壁から現れたオリーナさんを見る。
起きた所なので文句はないが、その出現の仕方はどうかと思う。
「どうしたんですか、オリーナさん………」
「ふぁああ、まだ眠いよー」
「ええ、あのね、イザリヤさんと会話していて思い出したことがあるのよ。私の器(体)って、クロノス大庭園の洞窟にあるんじゃないかと思うのー。死んだ原因も分かるかもしれないし、ギルドを通してあなた達に指名依頼を出そうと思うの、どうかしら?指名依頼を出したら引き受けてくれるー?」
「「もちろん引き受けます」」
「そう、じゃあ冒険者ギルドに行ってくるわー」
「はい、行ってらっしゃい………あれ?」
「どうしたのガザニアちゃん?」
「オリーナさんってここから出れるのか?」
「今本人が冒険者ギルドに行ってくるって言ったじゃない」
「そうだよな………単に書城グリモワールは居心地がいいのかな?」
「さあ、あとで本人に聞いてみれば?」
しばらくして、徒歩で往復するより早くオリーナさんは帰ってきた。
「幽霊が出たって、騒ぎになって大変だったわー。成仏を迫ってきた人もいたけど、私はまだ現世が面白いのよねー」
………しまった、見慣れてしまったせいで騒ぎになるだろうって頭がなかった。
それはともかく、オリーナさんに聞かなくては。
「オリーナさん、自由に外出できるんですね?グリモワールには何故?」
「ええ、どこにでも行けるわよ。ここにいるのは何となく引き寄せられたから。ゴーストの多いダンジョンだからじゃないかしらねー。あ、だから今回の依頼は私もついていくわよ。直接、器(体)を目にした方がいい気がするの」
「そうなんですね………」
「オリーナさん、一緒に来るの?まあ、生身の人間と違って危険はないか」
「魔法を放ってくる敵もいるじゃないか」
「大丈夫よー。ガーベラちゃんに上級・最上級魔法を仕込んだのは私なのよ?」
「と、いう事だよガザニアちゃん」
「そうでした………じゃあ、依頼を受けに冒険者ギルドに行ってこようか」
「大丈夫よ、ゴールドクラスの冒険者への指名依頼だから、ダンカンさんが持って来てくれるわ。お茶とお菓子の用意をして待ってましょうー?」
「あ、はい。手伝います」
ダンカンさんは、タイミングよくお茶とお菓子の用意ができたところで来た。
「お二人とも、もう知っているのではないかと思いますが、指名依頼です」
何だか疲れたようなダンカンさんから、クエスト票が差し出された。
「はい、もう知ってますので有難くクエスト票をいただきます。お茶でもどうぞ」
「はい………ありがとうございます」
私はダンカンさんから、クエスト票を受け取った。
特に目新しい所はないな。オリーナさんから聞いた通りだ。
「オリーナさん、開始は明日の朝からでいいですか?」
「いいわよー」
ダンカンさんはお茶とお菓子を食べると、一礼して風のように去っていった。
まだ他にも用事が残っているらしい、冒険者ギルドの使者も大変だ。
空いた時間、私とガーベラはクロノス大庭園のモンスターを想定した訓練をする。
先月中~今月初めにクロノス大庭園で訓練を重ねたので、モンスターの種類や攻撃方法は大体だが把握しているのだ。
途中からオリーナさんも協力してくれて、大分実戦に近い訓練ができたと思う。
あと、クロノス大庭園にあるややこしいギミックについて検討する。
浮島に設置された4つの針を持つ暦時計がそれで、クロノス大庭園大庭園中の暦時計を同じ年月日に合わせると、その日付にクロノス大庭園が戻るのだ。
現在以上の時に進めることはできず、外部の年月日を操作する事もできない。
クロノス大庭園の中だけの現象なのだが、今回はそれが必要かもしれない。
なにせ、オリーナさんの洞窟の記憶は、1000年ほど前の記憶だというのだ。
いくらダンジョン内だと言っても、今普通に探して洞窟が見つかるかどうか。
見つからなければ、ギミックを利用せざるを得ないだろう。
6月8日。AM08:00。
目覚まし時計の音で目が覚める。
習慣で身繕いをすませているうちに、頭がシャキッとしてきた。
そうだ、今日はオリーナさん同行の冒険だった。
「準備はできたー?もう出かける?」
「もう出かけましょうか。ガーベラ、大丈夫だな?」
「あいあい、まむ。大丈夫だよー」
「じゃあこれをどうぞ」
オリーナさんがいつものようにオニギリを渡してくれる。有難い。
オニギリを持って、私たちはクロノス大庭園に向かうべく歩き出した。
ちょうどオニギリを食べ終わる頃、クロノス大庭園のゲート前に着く。
「ゲートをくぐったら、オリーナさん、方角を指示お願いできますか?まずはギミックなしで行ってみましょう」
「ちょっと自信ないけど、やってみるわ」
ゲートをくぐった。
オリーナさんの道案内で進む―――
魔物の巣に突っ込む事2回、行き止まり3回、迷走すること1回―――
「あっ、あれよ!間違いないわ!」
「………何だか、入口が大きな岩で塞がれてますけど?」
「そうね………でも今度こそ間違いないわー」
「もう、今度こそ間違いだったら怒るよ?オリーナさん」
「間違いないわ、岩をどかしましょう」
私たちは(重くてどかせなかったので)岩を破壊することにした。
開いた洞窟は浮島の上にも関わらず、深い入口を開けている。
空間を無視したような洞窟だが、まあダンジョンだからな。
私たちは気合を入れて、その内部に進むのだった。
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