第43話 その墓に花束を【語り手:ガーベラ】

 5月10日。AM08:00。


 あたしたちはゴールドランクになった。

 お馴染みのダンカンさんが、書城グリモワールにまで来て報告してくれたのだ。

 ダンカンさんによると、ゴールドランクまで昇ってきた冒険者相手のサービスとしては軽いものだとか。ゴールドランクって凄いね。

 ああ、その凄いのになったんだなあ。


 昇級試練で捕らえた魔女が色々吐いたのと、あたしたちは疲労で助けるの忘れていたけど(ごめん)、生贄の奴隷の証言によって、クエストは成功とみなされたらしい。

 あたしたちは血の発動のせいで色々おざなりだったけど、ギルドが現場を色々調査してくれたみたいだね。

 血の発動で何とか切り抜けた私たちとしては、ちょっと恥ずかしい結果。

 でも認めて貰えたからには、今日からゴールドランクだよ!


 そんなこんなで、あたしとガザニアちゃんは出かける準備をしている。

 ゴールドランクになったんだから、そのランクのクエストを受けてみたいのだ。

 そういうわけで、今日は冒険者ギルドへ向かう事になった。

 オリーナさんがオニギリをくれたので、それを食べながらギルドへの道を行く。


 ギルドに着いた。

 クエスト掲示板に向かう………最近指名依頼ばっかりだったから久しぶり。

 ゴールドクラスの依頼はさすがに少ない。

 あたしたちはすぐ一つの依頼に目を止めた。

「お墓に枯れない花を供えて下さい………か」

「ゴールドクラス以上でないと行けないダンジョン「クロノス大庭園」にお墓があるんだね。枯れない花束『枯れずの花束』はあたしが作れるよ」

「依頼人に会いに来るように指示があるぞ」

「このクエストを受ける?」

「私は構わない、クロノス大庭園に行くだけなら普通に行けるが、依頼があった方が気合も入るからな」

「おっけー、じゃあ、カウンターにクエスト票を提出しよう」

 あたしたちはエトリーナさん(空いてた)にクエスト票を出す。

「受理したわ。依頼人の住所はこの紙に書いたわよ。しがしあなた達………ゴールドランクとは化けたわね。シルバーでも大したものなのに」

「ありがとうございます」

「頑張ったよ!」

「ふふ………これからも期待してるわよ。行ってらっしゃい」


 依頼人の住所を頼りに町を行くと、閑静な住宅街に辿り着いた。

「このアパルトマンだね」

 あたしたちは、紙に書いてあるナンバーの部屋をノックした。

「はい、どちら様?」

「ギルドに出したクエストの説明を聞きに来ました」

「あっ、はい。どうぞ!」

 ドアが開く。

 依頼人のエリンさんは、肩までの白髪で、可愛い感じの美少女だった。


 ダイニングでお茶を出してくれたので、遠慮なく座って飲む。

 あ、美味しい。

 お茶を飲みながらエリンさんの説明を聞く事に。

「クロノス大庭園の深層に、ゴールドクラスの冒険者だった兄のお墓があるんです」

「どうしてそんな所にお墓が?」

「クエストの最中に死んでしまったんです。激戦だったそうで、パーティメンバーも少なくない負傷を負っていたので、その場に埋葬したんだそうです」

「あれ?パーティメンバーがいたのなら、何故その人たちに依頼をしなかったの?」

「もう他の町に行っているんです………」

「そうか、それでは仕方がないな。墓までの地図とかは無いんですか?」

「あります、パーティの人が置いて行ってくれました」

 あたしたちは地図を手に入れた。

「結構深層っぽいねえ」

「最短ルートの地図のようだな、これをなぞるぐらいならできるだろう」

「そだね。今日は「枯れない花束」作りで潰れるけど。そうだ、エリンさん、花束の色は何色がいい?」

「兄は、赤い色が好きでした」

「おっけー。赤い色の「枯れない花束」を作るね」

「よろしくお願いします」

「依頼が完了したら、報告に来ます。あれ、遂行したか確認しようがないね?」

「そこは、ゴールドクラスの方を信用してお任せします」

「うわ、責任重大だ」

「信用していただけるのなら、必ず完遂します」


 あたしたちはエリンさんの家を出て、商業区で材料の花を買う。

 それから、書城グリモワールに帰り、オリーさんの晩御飯を食べて。

 寝るまでの時間で、あたしは大広間で魔具作りをする。

 「枯れない花束」の制作は、結構簡単だ。2時間もあれば完成する。

 

 ―――赤い花を束ねてラッピングした花束は、枯れない花束になった。

 おやすみなさい。


 5月11日。AM08:00。


 身繕いをすませたあたしたちは、オリーナさんのオニギリを持って、クロノス大庭園に向かう。もちろん、サフランとパプリカも一緒だ。

 1時間ほど歩いて、クロノス大庭園に到着。

 さっそくゲートをくぐって………そこには奇妙な景色があった。


 大小の浮島があり、浮島の上には草が茂っている。

 浮島はつり橋で繫がれ、空中の迷路になっているみたい。

 一番奇妙なのは、ところどころに人の身の丈ほどもある金の時計が設置―――というか地面から生えてるように見える―――されていること。

 多分何らかのギミックになっているんだろうとは思う。

 今回は関係ないと思うのでので、とりあえず時計は無視だ。


 出てくるモンスターは、天使のような姿をした、金属製の飛ぶ人型ゴーレム………自動人形というのが正しいかもしれない。

 雷電系の攻撃を仕掛けて来て、厄介だったらない。

 『魔法個人結界』がなかったら、かなり苦戦していただろう。

 ガザニアちゃんの鎧なんて金属の塊なのだから。

 ガザニアちゃんの『浸透撃』とあたしの『ウィークポイント』で、確実に急所を狙って仕留めたよ。日頃のゴーレムを使った訓練の成果が出たね。


 だけど、お墓のある深層まで来たら、飛んでくる天使のレベルが上がった。

 対処できない事もないけど、先に進むには邪魔だ。

 結構長期戦になって、お墓まで辿り着くころには、息が上がっていた。

 お墓の周囲は数少ない安全地帯だったので、発見し次第休むことに。

「疲れたー。出てくる敵は種類が少ないけど、群れて出てくるのが………」

「その上1体1体が決して弱くないな………さすがゴールドクラスのダンジョンだ」

「魔力と体力を回復させて、お墓に行こう」

「そうだな」


 回復した。

 お墓は、戦士だったエリンさんのお兄さんらしく、剣が一本墓標となっているだけだった。聞いてなかったらお墓だとは認識できなかったかもしれない。

 お墓に行く途中、急に突風が巻き起こる。

 お墓の一歩手前の浮島に、紫紺の鎧を装着した天使ゴーレムが現れたのだ。

 あたしたちは、否応なく戦闘に突入した。


 多分紫紺の天使はフィールドボスか階層ボスなんだろう。強かった。

 『ウィル・オ・ウィスプ(鬼火)』を大量に放って来たり、他の天使など比べ物にならない強い雷撃を放って来たり。剣で切りつけて来たり。

 特に高空からの落下攻撃は、着地地点にクレーターができたほど。

 避けるしか防御の方法がなかった。

 でも『ウィークポイント』は通用したので、最終的にはガザニアちゃんの『浸透撃』で片が付いた。

 あたしは物理個人結界、魔法個人結界を張り直すので精いっぱい。

 何はともあれエリンさんのお兄さんのお墓に進む事ができた。


 お墓に花束を捧げる。

 一瞬、剣が光ったような気がした。エリンさんの思いは届いたかな?


 あたしたちはまた、青息吐息になりながら復路を踏破して帰るのだった。


 疲れ切ってエリンさんのアパルトマンに報告に行くと、彼女は涙を流した。

「ありがとうございました」

「クエストだもの、お礼なんていらないよ。終了印をくれたらいいから」

「はい………(終了印を押す)本当にありがとうございました」

「元気でな」


 今回は何とか踏破したけど、それは地図があったからだ。

 「クロノス大庭園」には訓練で通う必要があるだろう―――

 そんな事を話し合いながら、あたしたちは書城グリモワールに帰るのだった。

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