第42話 ゴールドランクへ②【語り手:ガザニア】

 5月3日。PM17:00。


 ガーベラが情報収集から帰ってきた。

 私も、書類に書いてあった薬品と染料の分析が終わったのでちょうどいい。

 2人で情報交換をした。


「権魔系の悪魔の召喚者か………薬品・染料の分析もそれを裏付けてるぞ」

「奴隷を買ったっていうのが厄介だよねえ。今晩召喚が行われても不思議じゃない」

「とりあえず、ダンカンさんの持って来た書類の中に人相書きはなかった。薬品を購入していった商店は分かっているから、聞き込みに行くしかないな」

「そうだね、早めに動かないとね。クエスト失敗になっちゃう」

「今から出かけよう。商店が閉まるまでまだ少し間がある」

「うん、商業区まで一時間はかかるから、早く行こう」

 ガーベラにうなずきを返し、私たちは夕食に遅れることをオリーナさんに告げて、商業区へ向かうのだった。


 商業区に到着した。早速、まずは魔法薬の店に。

「うわあ、結構品ぞろえいいね。いつもはあたし、ジェニー商会で買ってるけど、負けてないよ。値段は高めだけど………魔女はなんで個人商店で買うんだろうね?」

「そりゃあ、ジェニー商会で買い物をすると色々聞きだされるからだろう?困らないから私たちは伝えてるけど、魔女は魔女だとバレたくないだろうし」

「ああ、そういえば………サービスの向上のためとか言って色々聞かれるねぇ」

「そういうことだ、さあ、店主に情報を聞こう」


 店主に魔女が買って行った魔法薬のリストを見せ、冒険者ギルドのタグも見せて話を聞いた。冒険者ギルドは司法とつながっている。店主の口は軽くなった。

「ええ………お得意さまですよ。人相ですか?こう………こう、こんな感じで」

 店主の描写を聞いて、ガーベラが人相書きを描き起こす。

「こんな感じかな?」

「ええと、眉はもうちょっと離れています………はい、そんな感じで」

「店主は、この人物の家を知っているか?あと名前は知らないか?」

「居住区のフェアリー族居住地の近くに住んでいると聞きました」

「こちらの調べでは、エカルドの町の外の森なんですが………」

「本人は、そう言っていました。名前はお聞きしてません」

「そうですか………ガーベラ、一応そこも調べるか」

「染料のお店を経由してね」

「そうだな。店主、捜査の協力に感謝する」

 金貨を3枚、店主に握らせて、私たちは染料の店に向かった。


 結局、染料の店の店主も魔女の名前は知らなかった。

 収穫と言えば似顔絵が詳細になったことぐらい―――まぁ、役には立つか。

 出来上がった似顔絵は、30代後半ぐらいの平凡な男の顔だった。

 顔の横に背格好などが書いてあるが、中肉中背、特に特徴がない。

 黒いローブ姿が怪しいと言えば怪しいかな?

 この後の住宅地での聞き込みは………口で語るより似顔絵を見せた方が早そうだ。


 私たちは居住区の東地区で、似顔絵を見せて情報を集めた。

 だがこれは全くの徒労に終わった。

 かなり粘って聞き込みをしても成果はゼロ。

 魔法薬の店主に言っていた住居は嘘だったのだと判断せざるを得ない。


 PM21:00。

「疲れたー。後は森へ行くしかないけど、夜の森に探索に入るのは危ないから、いっぺん帰ろう?」

「そうだな、見たら「コイツだ」と分かる程度には似顔絵もできたし」

「あたし、似顔絵は得意だからね」

「そうだな」

 私たちは書城グリモワールに帰った。


 5月3日。AM06:00。


 私たちは普段より早く目覚まし時計をセットし、目を覚ました。

 今日は森に魔女(男)を探しに行くのだ。

 今の季節は寒くも暑くもないので、素早く準備が整えられた。

 町の外の森に出かけよう。


 いつもより早いのに、オリーナさんはオニギリを準備してくれていた。

 それに感謝して、私たちは北西の町の門を目指す。

 道を歩きながらオニギリを食べ、町の外に出る頃には完食していた。


 故郷シュバルツヴァルト程ではないが、森はうっそうと茂っている。

 ちゃんとした道はない。狩人の使う獣道があるのみ。

 だが故郷で慣れている私たちは―――木々の種類は大分違ったが―――すいすいと森の中を移動する。イシファンの森と似たような感じだな。

 魔女のいるいないは、目視で確認するしかない。

 『センス・エネミー』などは、相手がこちらに害意を持ってないと使えないのだ。

 感覚を研ぎ澄ませながら、私たちは獣道を歩いた。


「ガザニアちゃん、ここ」

「ああ、新しい足跡だな」

「狩人の可能性もあるけど………」

「追ってみよう」

「うん、そうだね」


 その道を辿っていくと、突如として開けた場所―――人工的に草を刈り、木を取り除いた広場に出た。

 そこでは黒いローブ姿の男が、魔法陣の前に作られた祭壇で儀式をしていた。

 呪文が聞こえてくるが、知識のある私たちが聞いた限り悪魔召喚の呪文だった。

 魔女は「ランダム召喚」で上級悪魔の召喚を試みているようだ。

 私たちには、特定の悪魔を呼びだす召喚陣ではないことが見て取れた。

 そして、儀式は終わりに近づいていた。

 最後の呪文を唱え終えると同時に、祭壇の上に横たわっている人間の心臓に、魔女のナイフが振り下ろされる。

 もちろん、私たちは黙って見てはいない。

 ガーベラが魔女のナイフを持つ手に短剣を投擲する―――命中。

 苦痛の声を上げた魔女が振り返った時には、私は魔女の間近に迫っていた。

 剣で袈裟懸け切りにする………死なせたか?

 できればギルドに突き出したいところだが、儀式が終盤だったので、召喚を防ぐには確実に行動不能になってもらう必要があったのだ。

 死んでいても仕方ないだろう。

 

 だが、予想外の現象が起こった。

 召喚陣に黒い霧が渦巻きだしたのだ。

 生贄なしで召喚されてきた悪魔がいる!?まさか!

 召喚された悪魔は召喚主が死んでいれば、自由に振る舞える。

 それを狙ってランダム召喚に応じたのか!?


「ガーベラ、まずい。流れてくる瘴気からして中級悪魔だ」

「そうだね………そこの悪魔!召喚者は死んだ!魔界に帰れ!」

 一応勧告してみるが、やはり無駄だったようだ。

 悪魔は人間の姿を取った。

 それなりに豪華な服装に優男。中級としては身分がある方か?

「なぜ帰る必要があるのだ?召喚はなされた。だが召喚者が無力となれば、自由に振る舞えるチャンスではないか。目撃者の貴様等は殺してやろう」

 そう言い終わるや否や、悪魔は『特殊能力:命令』を使った。

 内容は『這いつくばって自害しろ』

 体が勝手に動く。

 膝を折り、次いで剣を自分の喉元に持って行きそうになる。

 ふざけるな!体を怒りが支配していく。

 どうせ血を解放しなければ、この悪魔には勝てそうにないのだ。

 私は―――目の端で捕らえたがガーベラも―――衝動に逆らう事はしなかった。


 半魔の血を発動させた後は『命令』は効かなくなった。

 私たちのレベルが中級悪魔のそれに追いついた結果だ。

 最低でも同格、もしかしたらレベルで圧倒したかもしれない。

「貴様ら!人間の血が混じった卑しい半魔か!」

 中級悪魔の言葉に「激怒」の赤いオーラを纏った私たちが答えることはない。

 ただ臨戦態勢を取った。


 戦闘は至極簡単に片が付いた。

 権魔(権力欲を司る悪魔)であるらしい中級悪魔は、戦闘に慣れていなかったのだ。

 得意の『命令』や魔法はレベルの関係と結界で通用しない。

 最後には逃げようとした。

 だが、それを許さずに灰燼に帰すことで、戦闘は決着した。

 召喚される悪魔というのは基本、完全な本体ではない。

 なので悪魔は魔界で復活したはずだ。

 だが、もうこの召喚には応じられないのでひとまずは大丈夫だ。

 人界に自力で出て来て、私たちを狙う、なんてことが起こらないように願うが………そればかりは分からない。

 

 今回は疲れた………だが魔女(辛うじて生きていたので回復魔法をかけて縛った)を冒険者ギルドに連れて行かないといけないな。


 私たちの昇級は、魔女からの事情聴取の後という事になった。

 そういうことで、私たちは書城グリモワールに帰るのであった。

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