第41話 ゴールドランクへ①【語り手:ガーベラ】

 5月2日。AM08:00。


 あたしたちは早起きしてエカルドの町の港に来ていた。

 この町は冒険都市であると同時に港町、貿易の町だ。

 物ならジェニー商会で買えるので、今まで市には来てなかったんだけど。

 異国の品をいち早く探すなら、早朝のここだってダンカンさんに聞いて、興味本位で見に来てみたのだ。

 色んなものがあるなぁ。

 衣服、アクセサリー、香辛料、絵や彫像、小物に護符なんかも。


「凄いなぁ、ガザニアちゃんは何を見たい?」

「異国の武具なんかは無いのかな?」

「ない事はないと思うけど………さすがに色気がなくない?」

 ガザニアちゃんの性格は分かっているけど、ここは女の子らしくいきたいところ。

「ん?じゃあ何を見るんだ?」

「服とかアクセサリーでしょ!」

「そういうものか?」

「そーゆーもんでしょ」


 ガザニアちゃんは勢いで押し切ったので無問題。

 あたしは、ガザニアちゃんを引っ張っていく。

 そして服やアクセサリーを売っている店に来た。

 ラインナップは、南国の交易品らしく露出度の高い服と、派手なアクセサリー。

 ガザニアちゃんは多少引いているようだけど、あたしは気に入った。

 試着してみて、ガザニアちゃんに感想を聞く。


「いやその………貴族としてどうかと思うんだが?」

「ガザニアちゃんは頭が固いなぁ。未来の旦那様もこれぐらい大胆な方が喜ぶって」

「ヘソ丸出しで、お腹が冷えそうだ………私はグリューエン皇国のオルデノクライム家の当主になるんだぞ?北方には向かない格好だと思うんだ」

「シュバルツヴァルトの当主も、グリューエン皇国の貴族だけどね。まあいいや、なら、どんなのがいいの?」

「ううーん、もうちょっと露出度の少ないものなら………」

「じゃあこれだ!」


 あたしは、露出度が少ない代わりに、ぴったりとしたボディラインを出す服装をガザニアちゃんに押し付ける。

 渋々試着しに行ったガザニアちゃんだけど、凄く似合っていた。

 さすが鍛えぬいているガザニアちゃん、余分なお肉がない。

 いやまあそれはガザニアちゃんほどではないにしても、あたしも鍛えてるけど。

 それは盗賊としての鍛え方なので少し違う。

 とにかく体にフィットする服は、ガザニアちゃんに似合っていた。


「体のラインが丸見えなんだが………スカートはゆったりしていていいけど………」

「確かにそうだけど、上半身だけじゃない。ショールもあるから羽織ればいいよ」

 ガザニアちゃんは黙ってスカートの生地とお揃いのショールを身につけた。

「次はアクセサリーだね」

 アクセサリーは様々な色の物があり、一番多いのは金色(金色は塗料)で、じゃらじゃらしたネックレスやイヤリング。腰に巻き付けるものもあった。

「あたしはせっかくだから、金色のネックレスと腰飾り、イヤリングにしようかな」

「お前は派手でも似合うからいいよな………私は、このトパーズのネックレスとイヤリングにしておく。服の色(橙)とも喧嘩しないしな」

「似合うよ、ガザニアちゃん」

「お前の方が似合ってると思うよ、ガーベラ」

 あたしたちは、試着したものを買って、書城グリモワールに帰るのだった。


 5月3日。PM12:00。


「ガザニアちゃん、ガーベラさん。ダンカンさんがお見えよー」

 あたしたちが中庭の温泉と桜から遠い位置で訓練をしていると、壁からオリーナさんが現れた。ダンカンさんか………今度は何かな?


 あたしとガザニアちゃんがリビングに行くと、もうダンカンさんがお茶とお菓子でもてなされていた。

 あたしたちも、ダンカンさんの対面に座り、お茶とお菓子に手をつけた。

 ………手をつけたのはあたしだけか。

 ガザニアちゃんは、ダンカンさんに用件を聞いている。


 ダンカンさんは、用件を端的に話し出した。

「そろそろ、ゴールドランクへの試験を受けないか?課題は緊急の依頼でね、今を逃せばしばらくゴールドランクへの試験はないだろうな」

「どんな依頼なんです?」

「そこそこ腕の立つ魔女の討伐だ。何度も下級悪魔の召喚に成功している」

「それだけで冒険者ギルドは動きませんよね?」

「そうだ、その魔女―――男だが―――は、上級悪魔の召喚に手をつけようとしている。街で買った魔法薬がそれを指し示している」

「上級悪魔なんて召喚されたら、あたしたちじゃ手に負えないよ!」

「だから、それまでに魔女を討伐して欲しい」

「わかりました。どうする、ガーベラ?」

「召喚に成功されたら、魔女の命令によるけどあたしたちも被害を被るよね?」

「召喚失敗する可能性もあるが、悪魔の知恵によってはそのまま野放しだろうな」

「下級悪魔しか召喚した事のない魔女なんて、上級召喚に成功するとは思えないね」

「ダンカンさん、召喚されようとしてる悪魔の種類ってわかります?」

「いや、買って行った魔法薬の種類を記した書類ならあるが」

「「その書類、下さい」」

「では?」

「「ゴールドクラスへの試験、引き受けます」」

「良かった。詳細を記した書類と、クエスト票はこれだ」

「「ありがとうございます」」

 ダンカンさんは、お茶を飲み干して(多分)ギルドへ帰って行った。


「ガザニアちゃん、魔法薬の分析をお願い。あたしは魔女(男)の情報がないかどうか、盗賊ギルドに聞きに行ってくる」

「わかった、気をつけろよ?」

「思えばここに来てから、登録を済ませただけで一回も利用してないもんね。まぁ、大体の作法は分かるから大丈夫、心配しないで」

 そう言ってあたしは、町の北―――スラムへと向かうのだった。


 スラムにいつもの装備で向かう訳にはいかないので、ボロボロに偽装してある衣服を着て盗賊ギルドへ向かう。顔も泥でちょっと汚くした。

 路地へ入り、しばらく歩く。看板も何もない建物の木戸、その中が盗賊ギルドだ。

 入ると、横並びのカウンターが4つ目に入る。

 カウンターには何も書かれてないが、あたしは盗賊ギルドのルールを知っている。

 最初のカウンターの小男に金貨を1枚放り投げる。

 金貨をパシッと受け取った小男は一言、

「何が欲しい?」

 と聞いてきた。最初のカウンターの役割は「客の割り振り」なのだ。

 割り振ってもらうには今やったみたいに対価が必要だけどね。

 払わない場合、自分でカウンターを選ぶしかない。

「魔女の情報が欲しい」

「………一番奥のカウンターに行け」

「ありがと」

 多分、危険な情報を扱っているカウンターなんだろうな。

 あたしは素直に一番奥のカウンターに向かう。


「普段は下級悪魔しか召喚しないけど、最近上級悪魔の召喚をしようと動いてる男の魔女。何か情報はある?」

「金貨2枚だ」

 あたしは黙ってカウンターに金貨を置く。

「権魔系の召喚をする奴に、そういう奴がいる。それ召喚用の魔法薬や魔法陣に使う染料をよく町に買いに来るようだな」

「魔法薬とかの購入資金は、どこからきたか見当つく?」

「多分、召喚した悪魔からだろう」

「それで時々下級悪魔を召喚してるのかあ………せこいな」

 魔法陣や召喚に使う材料は、町で買うものの方が少ない。

 自然の中で採れるものも多いから、召喚に使うお金より召喚で得られるお金の方が多いというわけだ。

「最近、奴隷を買ったぞ。安い犯罪奴隷だが………」

 顔が険しくなるのが自分で分かった。

 人間の生贄は、上級悪魔召喚以外では滅多に使わないからだ。

「あと、住処はエカルドの町の外だ。近隣の森を転々としている」

「そう、わかった。それで全部?………全部だね。ありがとう」


 猶予はあんまりないかもしれない。

 あたしは急ぎ、情報を伝えるために書城グリモワールに帰るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る