第40話 模写する聖域②【語り手:ガザニア】
メルギス族の聖域で起こった死亡事件。
長老さんの話を要約する。
その事件は聖域である神殿の南の廊下で発生した。
その廊下の中間の辺りで、ショック死・心臓麻痺としか言えない症状で倒れて死んでいる人(神官と参拝者)が、立て続けに4人見つかったという。
長老さんは、その場所に変わった所は特にないように思う、という事だった。
強いて言えば、神殿の廊下でもその廊下が一番古いということぐらいだそうだ。
私たちは長老さんの許可を取り、聖域の中を探索させてもらう事にした。
聖域の神殿の中。
基本的にここも水晶でできているのだが、細工師がいい仕事をしている。
どこかの大神殿などと比べても遜色ないような、壮麗な内部になっていた。
少なくともエカルドの神殿はどこもここに負けているな。
私たちの故郷?多神合同神殿でしかも小さかったから問題外だな。
私たちは、内部を見物しながら問題の廊下に辿り着いた。
「ガザニアちゃん、特に変わった所はないね」
「そうだな。強いて言えば、年季のせいか壁の水晶が磨かれ過ぎて、鏡のようになっているということぐらいか?他には特に………」
「………ガザニアちゃん!」
「どうした、ガーベラ?」
「今、水晶の鏡の中のあたしたち、笑わなかった?」
「?」
私が鏡を注視すると、鏡の中の私たちは、どんどんこっちに迫って来て………
鏡を通り抜けて、もう一組の私たちが実体化した!
そんなバカな!と思ったが、ガーベラには心当たりがあったらしい。
「これ「ドッペルゲンガー」だ!姿を写しとる魔物!遭遇すると死ぬっていう!」
実体化した私たちは、こちらを見て何やら不思議そうにしている。
私たちが死なないからか?
「それで死者が出てたのか!?だが私は何ともないぞ?」
「仮説はあるけど………一時撤退!作戦を立てよう!」
「ガーベラがそう言うなら、分かった!」
私たちは走ってその場を後にした。
ドッペルゲンガーたちは追って来ず、私たちがある程度離れると消えてしまった。
メルギス族の集落に戻った私たちは、長老さんにドッペルゲンガーの事を説明し、何とかするまで神殿を立ち入り禁止にしてもらった。
私たちは一度書城グリモワールに帰って、ドッペルゲンガーについて調べる。
解決の糸口がつかめ次第、戻って来ますと言って、私たちは輝きの水晶谷を出た。
書城グリモワールに帰りついた私たち
手分けして魔物の情報が書いてある本を調べていく。
ドッペルゲンガーの情報が書かれている本に当たるといいんだが………
4月21日。PM12:00。
徹夜で本を読み、気がつけば12時………本の読み過ぎで頭が痛い………
ガーベラも目にクマを作っているが、まだ本を読んでいる。
もう私は読む気力がないが、ガーベラが今読んでいる本はドッペルゲンガーの研究書だそうで、読み終わるまで寝ないとガーベラは言っている。
さすがだガーベラ。
だが、すまないが、私は先に寝させてもらう………
PM17:00
「ガザニアちゃん、起きて、起きてってば!」
「う………ん」
私は、ガーベラに起こされて目を覚ました。
時間は………もう夕方か、ずいぶん寝てしまったな。
ガーベラは目にクマがある………寝てないんだな。
考えてみれば、私がガーベラに起こされるなんて初めてかもしれない。
「ドッペルゲンガーについて色々分かったよ」
「基本的な事は、私の読んだ文献にも記されていたが―――」
「うん、それも含めておさらいしよう」
「まず、ドッペルゲンガーとは鏡に宿るか不定形の魔物で、鏡に映るか視界に入った生命体を模してその姿を取る………でいいな?」
「うん、それでいいよ。あそこには鏡と呼んで差し支えない水晶の壁があって、不定形の魔物はいなかったから、あたしたちを写し取ったのは後者だね」
「それで、写し取った者に攻撃してくる種と、写し取った姿を見せる事で殺せる種がいる………というところまでは私の調べた本にも書いてあった」
「うん、そう。これも後者だね、直接攻撃はしてこなかったでしょ?」
「でも、私たちは死んでいないぞ?」
「その理由を調べるために、あたしは頑張ったんじゃない」
「理由が分かったのか?」
「文献からの推測だけど、あのドッペルゲンガー達はそこまで高位のドッペルゲンガーじゃないんだと思う。写し取れる種族に制限があるんだよ。多分、人間だけじゃないかな?あたしたちは人造とはいえ人間だけど、同時に半悪魔でしょ?」
「魔の部分を写し取れなかったから、私たちは無事だったと?」
「文献による説明を要約すると、そういう結論に行きついたよ」
「なら、魔の血を発動して戦えば、勝てるか………」
「気軽に使いたくないけど、そういうことになるだろうね」
「仕方ないな………解放しなくては勝てないようならそうしよう」
「サフランとパプリカは攻撃命令しても混乱するから連れていけないね」
「ああ、仕方ないな。とりあえず全部明日だ。もう寝ろガーベラ」
「言われなくても寝るよぉ。疲れたー。おやすみなさいー」
4月22日。AM11:00。
私たちは、メルギス族の居住地に戻って来ていた。
長老の家に行き、調べた事を報告する。
私たちが半魔という事は伏せ、希少な種族の血を引いているとだけ言ったが、その他はみんな本当の事だ。
「本体は鏡と一体化しているので、倒すには鏡状になっている水晶の壁を破壊する必要があると思います。許可を貰えますか?」
「仕方あるまい、許可しよう。確認のため、本当は誰か同行させたいが………」
「その人が写し取られてしまうのを、阻止できるとは思えません」
「じゃろうな、冒険者ギルドから来たあなた方を信頼することにする」
しくじったら、冒険者ギルドにも累が及ぶな………きっちり退治しなくては。
長老の許可を得たので、聖域である神殿に入る。
今は人気がないのを確認し、先日ドッペルゲンガーが出た場所の水晶鏡のある場所までやってきた。私たちの姿を映した鏡から、私たちそっくりな姿が出てくる。
戦闘開始だ。
しばらく素の状態で戦う。
それで分かったのだが、魔の血を発動しない状態では、やはり完全な互角だった。
というか物理個人結界と魔法個人結界をお互いに張るので攻撃が通じない。
「ガーベラ、悪魔の血を発動させよう」
「しゃーなし、だね」
私たちは、悪魔の血を活性化させる。
自発的とはいえ無理に発動したので、発動させて纏うオーラは、悪魔種が定まっていないことを意味する黒だ。
だが、この血の発動状態では全ての能力は10倍に跳ね上がる。
力に任せて切り裂いたドッペルゲンガーは、信じられないという顔をしていた。
ドッペルゲンガーを倒した。
その時点で私たちは血の発動を素早く止める。
長い事発動していると魔界に誘われるからだ。
「後はこの鏡を壊さないと!」
「わかった、とうっ!」
壁面の鏡状の部分で、ドッペルゲンガーが出て来た部分を叩いてヒビを入れる。
何かの、声にならない悲鳴が聞こえてきたような気がした。
「あとは、ほかの壁面鏡がおかしくなってないか見回りかな?」
ガーベラにうなずいて、鏡になっている壁面を巡回する。
何度か往復して念を入れてチェック。
「異常なし、だな」
「そうだね。長老さんに報告しよう!」
その後、長老さんに報告すると、調査の人を聖域に派遣するから案内してくれと言われて付き添ったり、冒険者ギルドへの報告などがあったりした。
それから丸2日、確認作業して、ようやく終了印が貰えた。
もう魔の血の発動はしたくない。
なので、これでもうドッペルゲンガーが出ないといいのだが。
ガーベラによると、珍しい場所に住みついた結果なのでないと思う、との事だ。
私はもう2度と遭遇したくない。
私たちは書城グリモワールに帰ってゆっくり休むのだった。
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