第39話 模写する聖域①【語り手:ガーベラ】

 4月18日。PM12:00。


 その日、あたしは上級魔道具作成の本を読んでいた。

 その中にある「黄金のアップルパイ」という魔道具があたしの興味を引いた。

 魔道具と言ってもちゃんと食べられる。

 特徴は、減らない(復元する)・腐らない・総合栄養食・とてもおいしい。

 これで作ろうと思わないはずがないよね?

 でも、これをあたしが作るのは難しい。

 まずは普通のアップルパイを、それなり以上に作れないといけない。

 でもあたしは料理は無理!

 そこでガザニアちゃんに「黄金のアップルパイ」を作ってとお願いする。

 治癒魔法が使えれば作れる魔道具だから、ガザニアちゃんにも作れるはずなのだ。


 で、今。

 あたしはアップルパイでお腹いっぱいで、リビングのソファーに倒れていた。

 てゆうかお腹苦しい。

 原因は、ガザニアちゃんがアップルパイを作るのが初めてだったから。

 アップルパイをそれなり以上に作れるようには、練習が必要だそうで………。

 その試作品を食べ過ぎてあたしは倒れたのだ。

 いや、美味しい事は美味しいんだけど、量が………


「ガーベラ、大丈夫か?今日はこれで終わりにするか………」

「まだ、求められてるレベルに到達しないの?最初のやつから普通に美味しいよ!」

 あたしは倒れたまま、ガザニアちゃんに向かって問いかける。

「すまん、まだオリーナさんししょうのOKは出てないんだ」

「うう………手のひらサイズのアップルパイだから、何とか全部食べたけど………」

「カルドセカリナ帝国ではリンゴは高価だからな、試作品だとそのサイズだ」

「でも、今日はもう無理ー!」

「味の評価も必要だからな。また明日にするか」

 「黄金のアップルパイ」ができる前に、アップルパイに飽きそう………

 でももう頼んじゃったし、ガザニアちゃんは乗り気だし。

 諦めて試食するしかないか………


 4月19日。AM11:00。


「今日の期待作だ」

 笑顔でガザニアちゃんがアップルパイを持って来る。

 今日は4個目だ。

 食べる。あれ、今までのよりサクサク感があって美味しいかも?

 リンゴの味も何となく違うような?

 ガザニアちゃんにそう伝えると、嬉しそうに頷いた。

「ああ、オリーナさんししょうのOKが出た作品だよ」

「本当!?」

「ああ、今回のパイ生地を作るのには勉強が必要だった。リンゴを煮る時間も変えたし………オリーナさんししょうが丁寧に教えてくれたおかげだな」

「じゃあ早速、黄金のアップルパイの材料を渡すね!」

 黄金のアップルパイの材料は魔力を内包した金と「黄金のリンゴ」「黄金の酒」

 「黄金のリンゴ」「黄金の酒」は魔道具作成で作れる物で、事前に作っておいた。

 そっちには料理の腕が必要なかったし。

「魔力を含ませた金と、黄金のリンゴと、黄金の酒だよ。成功させてね!」

「プレッシャーをかけるな、料理はともかく魔道具作成は苦手だ」

 とにかくやってみる、と言って材料を受け取ったガザニアちゃんはキッチンに去っていった。きっと成功するよね。


 18時になった。

「成功だ!出来上がったぞ!」

 あたしは、寝室で魔導書を読んでいたが、それを脇に置きキッチンへ急ぐ。

「うわぁ、本当に全部金色のアップルパイだぁ」

 出来上がったアップルパイは、素材の色だけではない黄金色に輝いていた。

「再生するか確認もしたいし、食べてみるか?」

「食べる、食べる!」

 すごくいい匂い。普通のアップルパイとは何か違う。

 ガザニアちゃんが切り分けて、お皿に取ってくれる。

 そして二人で食べる。

「「凄くおいしい!!」」

 あたしたちは2人で驚愕する。

 今まで食べたどんなものより美味しいかも。

 魔道具って凄いなぁ。


 4月20日。AM11:00。


 アップルパイは応接間の棚に常備される事となり、あたしたちは今日は書城グリモワールの中で訓練だ。監督はイサナさん。

 けど、広い中庭でアイアンゴーレムを相手に訓練していると、オリーナさんが壁を通り抜けて現れて言った。

「使者のダンカンさんが来てるわよー?リビングに通しておいたから」

 またか。

 ダンカンさんって忙しそう。

 冒険者ギルドの伝令なんて、そう多人数いないだろうし。

 しかも信用できるとなればなおさらだよね。

 前回はあたしたちの成果確認までやっていたし。

 まあそれはともあれ、今行きます、と二人で返事してリビングに向かう。


 リビングに到着。

 いつもとは違って、お茶とお菓子が出ている。

 ダンカンさんはちょっと居心地が悪そうだ。

 そりゃそうだよね、冒険者ギルドの伝令がリビングに通されてお茶とお菓子って、あんまりないと思うもの。

 でもそんな事は気にせず、対面に座って挨拶し、お茶を飲む。

 ガザニアちゃんは少し迷ったようだけど、あたしと同じことをする。

「………話をしてよろしいか?」

「「どうぞ」」

「といっても詳細はギルドマスターからなので私はそれを告げるだけなんですが」

 ああ、それだけなのにお茶とお菓子が出て困ってたんだ。

「すぐにギルドに向かいますけど、お茶とお菓子を召し上がっていって下さい」

「その間に、私たちは外出の準備をしてきます」

 ガザニアちゃんはそう言って、さっさと席を立つ。

 あたしはもうちょっとお茶とお菓子を楽しんでから行こうかな。


 その後、あたしたちはダンカンさんと一緒に冒険者ギルドに向かった。

 2時間ほどで冒険者ギルドに到着。

「応接室にどうぞ」

 そうダンカンさんが言い、あたしたちを先導する。

 応接室に入ると、そこにはもうギルドマスター、サネカさんがいた。

「2人共、久しぶり。わざわざ足を運んでもらって悪いわね」

 サネカさんが、あたしたちに声をかけてくる。

 案内のダンカンさんは、いつのまにかフェードアウトしていた。

「「お久しぶりです」」

「ええ。とりあえず座って。お茶を出すわ」

 サネカさんと対面で座って少しすると、事務員さんがお茶を持って来てくれた。

「今回の依頼なんだけどね、ちょっと難しいの」

「難しい?どんな風にですか?」

「「輝きの水晶谷」に住むメルギス族に謎の悲劇が降りかかっているのよ」

「謎の悲劇?」

「そう、最近、メルギス族の「聖域」に入った者―――主に神官が、立て続けに突然死を遂げていてね。ショック死の様なんだけど………原因が分からない。それで冒険者ギルドに原因解明の依頼が来たの」

 メルギス族は輝きの水晶谷の外の住人たち、主に冒険者と友好関係にある。

 その依頼だから、下手な者を送るわけにはいかない。

 そういう理由であたしたちなんだとか。

 うーん、期待が重いね。


「そういうわけなんだけど………引き受けてくれるかしら?」

「やってみます。いいか、ガーベラ?」

「うん、いいよー。とりあえず現場が見たいよね」

「ありがとう。なら紹介状を書くわ。メルギス族の長老に見せてちょうだい」

 あたしたちは紹介状を受け取り、今日中にメルギス族の住居に行く事にした。


「いつも素通りしてる区画だから、どんなところか興味があるな」

 ガザニアちゃんに同意。ちょっと観光気分かも。

 あたしたちは、輝きの水晶谷に向かって出発するのであった。


 輝きの水晶谷へ通じるゲートをくぐって、メルギス族の住むエリアの入口へ。

 はじめて気付いたけど、この先には普通の土もあるみたい。

 普通の土から、家の形をした水晶が生えているって感じ。

 長老さんの住んでいる家も、それは同じだった。


「すみません、冒険者ギルドの指名依頼を受けてきた者ですが」

 あたしたちは扉を開けてくれた老婆に紹介状を渡す。

「夫に見せてきます」

 どうも長老さんの奥さんらしい。夫婦そろって長生きなんだね。

「お待たせしました、どうぞ、奥へ」

 あたしたちは水晶でできた応接間………リビングかな?に案内された。


「よく来てくれたのぉ。是非、聖域の突然死の謎を解明してくれ」

 枯れ木の様なお爺さんが、あたしたちに事件のあらましを語ってくれた。

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