第38話 きらめきの橋【語り手:ガザニア】

4月1日。PM13:00。


「どうだ、ガーベラ」

「………うん、うまく土壌に馴染ませる事ができたと思うー」

「そうか、これから春には中庭に桜の花が咲くな」

「万年夜で、雷まで鳴って、風も強いけどね」

「そのために、丈夫な苗に変えたんじゃないか」


 私たちが何をしているかと言うと。

 オリーナさんが中庭の温泉の側に、何か木を植えて欲しいと言ったのだ。

 それで植木屋に聞いてみると、桜の木が入荷しているとの事。

 季節的にも合うので、桜の苗を購入した。

 その桜の苗に、ガーベラが付与魔術を施して生命力を上げたのだ。

 植えた苗に『上級:無属性魔法:成長促進』を施し、土にしっかりと根付かせる。

 そして、そのまま成木になるまで『成長促進』する

 『成長促進』したら花も咲いた。これで、毎年花が見れるだろう。


 中庭の壁を通り抜けて、オリーナさんが様子を見に来た。

「まぁ。立派な木を植えてくれたのね」

「ほとんどガーベラの手柄です」

「ぶいっ!」

 Vサインするガーベラ。

「教えた魔法を使いこなしてくれてるのね、嬉しいわー」

「師匠の要望だったから、頑張ったよ!」

 ちなみに植えた桜は、強風にもめげずに花を咲かせている。

 ガーベラが生命力を上げた(限界まで強化したと言っていた)おかげだろう。

 ちなみに生命力の強化って人間にもできるのか?と聞いてみたら

「木より許容量キャパが低いから、強化しても大して上がらないと思う」

 と言っていた。残念だな。


「桜が咲いたから、今日のオヤツは桜餅ねー。ガザニアちゃん、一緒に作る?」

「是非!覚えたいです。グリューエン皇国にもホッポウザクラがありますし!」

「シュバルツヴァルトに桜はないからねー。あたしはお腹空かせて待ってるね」

「楽しみにしててねー」


 さて、桜餅を作る。作り方は―――(分量は省く)

 ・もち米をよく洗い、水と砂糖、食紅を入れて炊く

 ・桜の葉は塩漬け(今回は商人から手に入れたものを使う)にする。

 ・塩漬けにした葉を、水にさらして、その後しっかり水気を切る。

 ・もち米が炊き上がったら、少し潰す。

 ・小分けにしておいたあんこを、もち米で包む。

 ・あんこを包んだもち米を、桜の葉で包む。

 だいたい以上で完成だ。

 気になったら詳しく調べてみてくれ。

 

 私はメモを片手にオリーナさんを手伝う。

 オリーナさんに比べると不格好な気がするが………一応完成した。

 リビングに運ぶのはオリーナさんがやってくれたので、私はセンチャを淹れる。

 最初は苦さに戸惑ったが、センチャは甘味やオニギリによく合うのだ。

 センチャを運んでリビングに行き、ガーベラに渡す。

「ありがとー。なんか桜餅って春らしいお菓子だね!」

「私もそう思うが、書城グリモワールここは年中嵐なんだぞ」

 この環境で春を感じられるとは、私もガーベラも大分毒されたものである。


4月2日。AM08:00。


 私は目覚めて、気持ち良く伸びをする。

 窓の外は嵐だが、気温は春に変わっているので、朝から寒いという事はない。

 外に見える桜は、まだ花を散らしていない。異常に丈夫だ。

 そして、また本(今回は写本のようだ)に突っ伏して寝ているガーベラを起こす。

「ふにゃー。起きたよー。あ、本にヨダレとか………大丈夫だね」

「その心配をするなら、ベッドの中に本を持ち込むな」

「そうなんだけど、途中だとついね………」

 そして、うだうだ言いながらも私たちは顔を洗い、身繕いをすませる。


 今日はギルドに行く日だ。オリーナさんからオニギリを貰って出発する。

 ギルドに着くと、エトリーナさんが声をかけてきた。

「あなたたち、丁度良かったわ。ギルドマスターから指名依頼が出た所よ」

 顔を見合わせ、エトリーナさんのカウンターに向かう私たち。

「ギルドマスターに詳細を聞いてるから、今回は私が説明するわね」

 そう言ってエトリーナさんは、指名依頼の内容を説明してくれた。


 何でも、輝きの水晶谷のエリアとエリアをつなぐ階段―――「水晶橋」が一部崩落してしまったらしい。

 依頼とは、その橋をかけなおして欲しいということだそうだ。

 橋をかけなおすには「きらめきの渡し」というアイテムが必要だ。

 「きらめきの渡し」は金色の宝珠のような見た目の魔道具で、コマンドワードを唱えると、飴細工のように増殖しながら自在に形を変える。

 小規模な建物の建築にも使う事ができる優れものだ。

 

 この「きらめきの渡し」は、ガーベラだけでなく私も作れる。

 理由は光属性のアイテムだからで、オリーナさんが作り方を教えてくれた。

 もちろんガーベラも作れる。

「えらく簡単な依頼だね。指名依頼の意味あるの?」

「輝きの水晶谷に住むメルギス族からの依頼だから、下手な冒険者に任せたくなかったんじゃないかしらね。友好にひびが入ったら困るし」

「最近そういうのが多いなあ………あたしは構わないけど、ガザニアちゃんは?」

「私も構わない。とりあえず一度現場を見に行かないとな」

「現場までは、案内をつけるわ」

 案内というのは、書城グリモワールに来た事のある使者さんだった。

 名前をダンカンさんというらしい。

 彼の案内で、私たちは輝きの水晶谷に様子を見に行く事となった。


 ダンカンさんに連れられて到着したのは、輝きの水晶谷の奥地だった。

 確かに水晶でできた橋が崩落している区域が3カ所。

 ここも補強して欲しいと示された場所が2カ所。

 一度踏破した事のある区域で、地図には「足元注意!」と書いてある。

 なるほど、不安定な足場だと思っていたが、崩れかけていたのか。

「うわ、あたしたち通ったよねここ。あっぶなー」

「ふむ………作り直しと補強で「きらめきの渡し」が5つ必要だな」

「えーと、材料は魔物の核と水晶玉………普段から冒険者ギルドに売ってるの以外に、溜めてるのがあるから、ある程度はそれで間に合うけど」

「残りはちょっとここで狩りをして帰ればいいだろう。往路で結構手に入れたが」

「そうだね、普通に復路で出てくる魔物の核で足りそう。ここ深部だし」

 私たちは魔物の核を確保するため、狩りをしながら復路を踏破した。

 

 ダンカンさんと一度(彼は見届け人にもなるので明日も待ち合わせをした)別れジェニー商会で水晶玉を買った私たちは、書城グリモワールに帰り着く。

 オリーさんの作ってくれた夕食を食べたら、早速魔道具の作成だ。

 担当は私が2個、ガーベラが3個。

 私は滅多にやらない作業だったので手間取り、結局徹夜。

 ガーベラは3つ作ったのに明け方前に完成したようで、少しソファーで寝ていた。

 

 何はともあれ完成した。

 「きらめきの渡し」を持って、昨日の場所まで行かなくては。

 ダンカンさんとは、途中にあるトーナの噴水で待ち合わせだ。


 またオニギリを貰って、サフランとパプリカを連れ、出発。

 私は寝る暇がなかったが、仕方ない。

 ダンカンさんと合流して輝きの水晶谷に向かう。

 それから奥地に行くのだが、今回は地図から割り出した最短ルートを選択した。

 私もガーベラも、魔道具作成で魔力が少なくなっているので、戦闘を避けたのだ。


 最小限の戦闘で、崩落した橋のあるエリアまでたどり着く。

 崩落した所と補強する所を、ひとつずつ回り「きらめきの渡し」を使わなくては。

 

 崩落した場所で『構築せよ』と魔法言語で命じると「きらめきの渡し」は、術者の脳内イメージを読み取って、橋を構築していく。

 補強する場所でも大体同じような感じだ。

 出来上がったら、ダンカンさんと一緒に橋の上に立ち、飛んだり跳ねたりして強度を確認する。

 うん、いい感じだ、安定している。

 モンスターが出るのを待って、戦闘もしてみたが問題ないようだ。


 その後、無事に復路を踏破。

 輝きの水晶谷から出たところでダンカンさんにクエスト票を預けた。

 終了印を貰って、後日書城グリモワールに届けてくれるそうだ。


 私たちは書城グリモワールに帰って、思う存分寝ることにするのだった。

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