第37話 争いの理由②【語り手:ガーベラ】

 3月12日。AM08:00。


 速攻で身繕いをすませ―――だって寒いんだもん―――冒険に行く用意が整う。

 今回は、あまり戦闘はしないと思う。

 けど、念のためサフランとパプリカには着いて来てもらう


 いざ、ラグザの古戦場へ!

 と、その前にオリーナさんがオニギリをくれる。

 有難い事である。美味しいし。

 オニギリを食べながら、ラグザの古戦場に辿り着いた。


 相変わらず砲弾の行き交うラグザの古戦場を、獲り合えず西に向かって進む。

 徐々に大砲の轟音が酷くなってきたので、耳をやられないように、耳栓をつけることにした。奥まで進むと、陣地が見えてくる。

 以外にも本格的な陣地だった。


「打て―!打て―!」

 ショーグンらしい、カイゼル髭のフェアリー族が、檄を飛ばしている。

 カイゼル髭とは言っても、顔が子供のフェアリー族には似合わない。

 しかも2頭身なので、余計だね。

「失礼、あなたが西の陣地のショーグンでいらっしゃいますか?」

「そうだぞ!ん?双子の女の人で戦士と盗賊の恰好………ああ、もしかして飛竜を片付けてくれた冒険者かな?」

 あたしの恰好からして、魔法メインだとはだれも思わないよねー。

「そうです。今日はお聞きしたいことが………」


 話を切り出してみると、ショーグンは、石造りの部屋にあたしたちを案内した。

 壁にはでかでかと「仏恥義理」と赤いペンキで書いてある。

「これこそ宣戦布告以外の何物でもないよ!僕もお返しに行ったけどね」

 いや、これで戦争に踏み切るとか。

 フェアリー族の頭は一体どうなってるの?

「これは東の陣地のショーグンに話を聞かないといけなさそうだね」

「………私もそう思う」

「明確な宣戦布告だと思うんだけどなあ」

「東のショーグンに話を聞いてから決めます」


 そういうわけで、あたしとガザニアちゃんは、東の陣地に向かった。

 西の陣地と似たような感じで受け入れられたあたしたち。

 東のショーグンに話を聞く。

「ええっ?宣戦布告なんてしてないよ。向こうからはされたけど」

「でも、西の陣地の部屋に宣戦布告された?部屋がありましたけど」

「うちにも宣戦布告された部屋があるよ」

 そう言われて見に行ってみると、同じような石造りの部屋に「夜露死苦」と書かれている。これ、どっちもどっちなんじゃない?

 さらにショーグンに話を聞くと、宣戦布告と取られているものは、イタズラのつもりで忍び込んで落書きしただけのものだという。

 仕方ない、西のショーグンに話をきこっか。


「ああ、その落書きなら、宣戦布告されたから、受けてやる!というつもりで落書きしに行っただけだよ。宣戦布告のつもり?そんなのあるわけないじゃないか」

 あ………頭痛い。

 あたしとガザニアちゃんは、双方のショーグンを転移の宝珠で中間地帯まで運んできて、話し合いをさせることにした。

 しばらく話をして誤解の溶けたショーグン達は、合戦をやめて町で暮らすという。

 部下の説得はあるが、それはショーグン達に任せるのがいいだろう。

 ただ、フェアリー族の居住地では、全員は受け入れられないだろう。

 その辺は、ギルドマスターのサネカさんに相談するように告げた。


 結果、両ショーグンが一緒に冒険者ギルドについてくることになった。

 別に構わないけど、このショーグン2人って双子みたい。

 フェアリー族の個体識別は難しい………。

 童顔で、フェアリー族の顔は似通っている上、二頭身、カイゼル髭。

(ガザニアちゃん、どっちがどっちのショーグンだっけ)

(緑の軍服が東、赤の軍服が西だ。覚えろ)

(ガザニアちゃんも服で判断してるんだね………)

(しょうがないだろう!)


 そんなこんなで、冒険者ギルドに着いた。

 エトリーナさんが空いていたので、ショーグン達と一緒に事情説明。

「了解。すぐにギルドマスターも行くと思うので、応接室に行ってくれる?」

「「わかりました、エトリーナさん」」


 応接室でお茶とお茶菓子を楽しんでいたら、ギルドマスターがやってきた。

 サネカさんは、ショーグン達に丁寧に頭を下げる。

 けど、合戦の真相をサネカさんに伝えると、絶句していた。気持ちは分かるよ。

「あの長い合戦は一体………」

「「サネカ殿、合戦を止めるとなると、ダンジョン外で長老の下につくことになるんだけど、我らの居住地はあるのかな?」」

「あ、ああ。確かに心配ですよね。大丈夫です。いつでも移住できるようフェアリー族居住地を大幅に広げて貰いました。あのあたりは平原なので、容易でしたよ」

「「そうか!じゃあ我らは荷物をまとめて引っ越すから!」」

 そう言って、今にも席を立とうとするショーグン達に、サネカさんはベテランのギルド職員を連れていくよう頼んでいた。

 確かに、居住地で訳の分からない騒動を巻き起こされても困る。

 同族だから大丈夫かな?


 終了印を貰って、書城グリモワールに帰ってからも、あたしはフェアリー族が気がかりだった。大人しくしているのかな?

 そこで、訓練に行くついでに、ガザニアちゃに様子を見に行こうと提案した。

 ガザニアちゃんも気がかりだったのか、同意してくれた。

 様子を見に行くと、居住地を5つぐらいに分けてお遊びの合戦をやっていた。

 得物は木の棒のみ。

 相手を泣かせて撤退させた方が勝ち。

 フェアリー族の長老は「面白いから」と放っておいているようだ。

 当然、普通のフェアリー族の生活基盤である、農地を耕す時間は派閥関係なしだ。

 フェアリー族は自給自足なので、その辺は長老が締めているらしい。


 その光景を見て、安心して訓練に行くあたしたち。

 場所はラグザの古戦場だ。

 フェアリー族がいなくなったラグザの古戦場に、どういう魔物が湧くのか気になったのだ。危険を考えて、準備は万全にして来てある。

 サフランとパプリカも連れて、警戒もしている。


 出現したのは、岩をもかみ砕くネズミの群れ、ロックゴーレム、ウッドゴーレム、巨大な鷹、ロックゴーレムの巨大な狼、巨大カマキリ。

 ゴーレムにはガザニアちゃんの「浸透撃」が派手に決まった。

 あたしも『ウィークポイント』で支援したので一撃だ。

 厄介だったのは鉄をも齧るネズミの群れ。

 ガザニアちゃんの鎧に群がって齧っている所を、氷魔法で一網打尽にしたけど、ガザニアちゃんの鎧は補修が必要な状態になってしまった。

 あたしに群がって来られたら、かなり危なかったかもしれない。


 巨大な鷹には、あたしが摑まれて持ち上げられたのだけど『フライト』で振りほどき、短剣で鷹の首を切り裂いて地面に帰還だ。

 巨大カマキリは、正攻法で倒した。

 終わってみれば、サフランとパプリカの出番がないという感じであった。


「今度から、ラグザの古戦場にも訓練に来れるね、ガザニアちゃん」

「質的には輝きの水晶谷とおなじぐらいだな」

「この先、新しいモンスターが出ないとは言えないけどね」

「そうだな………とりあえず、鎧の補修にジェニー商会に行こうか」

「あ、そうだね」


 ジェニー商会の鍛冶屋では、いっそ鉄の鎧から、オリハルコンの鎧にしたらどうですか?と提案されているガザニアちゃんがいた。

「ガーベラ、どう思う?」

「買えばいいじゃない。貯金はあるでしょ?足りなければ貸すし。戦力アップだよ」

「そうだな………なら足りない分は貸してくれ。ついでだ、オリハルコン性の剣も誂えて、ミスリルでコーティングもしてもらおうか」

 ミスリルは、幽霊にも有効なので、今の剣の代わりになるよね。

「ガーベラは、短剣をミスリルコーティングにしないのか?魔力切れに備えて」

「あー、それはあるかも。すみません、あたしの短剣もよろしく!10本ね!」

「へい、分かりました!」


 PM18:00。帰りながら、ガザニアちゃんと会話をする。

「今回は、手ごたえのある仕事だったな」

「そだね、ラグザの古戦場の状況を改善させて、フェアリー族もダンジョン外で暮らす事になったんだもんね」

「あとは、長老と話し合って、友好の場を設けるだけだな」

「うん、しばらく後になるだろうけど、頑張って欲しいよね」

「多分、成立パーティには私たちも呼ばれるだろうな」

「この町で、ドレスを新調しておく?」

「ジェニー商会だな」

「あはは、あそこにはお世話になりっぱなしだね」


 そんな会話をしながらあたしたちは遅い時間に書城グリモワールに帰った。

 なお、武具は2週間後に、出来上がったのを取りに行った。

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