第36話 争いの理由①【語り手:ガザニア】

 3月10日。PM15:00。


「はっ!はっ!はっ!」

 私はガーベラの『クリエイトマテリアル・ラージ』でできた鉄を素材に作られたアイアンゴーレム相手に、イサナさんの指導で訓練をしていた。

 ちなみに得物はウォーハンマーだ。

「駄目だ駄目!そんなやり方じゃアイアンゴーレムの防御は抜けないぞ!」

 イサナさんには、戦士がアイアンゴーレムの防御を抜くなら、防御力無視のダメージを与えられる「戦技」である「浸透撃」を習得するしかないと言われている。

 「戦技」というのは、戦士職の者が覚えられる魔法に似たスキルらしい。

 古代には普通に存在したそうだ。

 ………イサナさんって何歳だ?幽霊だから関係ないか………

 そういう意味では、イザリヤ叔母様の方が謎なのだし。


「やぁ、とうっ!」

 私はアイアンゴーレムを殴り続ける。

 だが、ちっとも効いている気がしないな。

「一度、見本を見せてやる!」

 イサナさんは、物質化させた剣を片手に、私と場所をチェンジした。

「はぁぁぁ!浸透撃!!」

 気合の声と同時に、アイアンゴーレムの片腕が切り落とされた。

 すごい。

 驚きながらも私は、イサナさんの体内の魔力の動きを感知していた。

 ガーベラの陰に隠れてるだろうが、一応私も魔法使いなのだ。

 魔力の流れを感知することは当然できる。

 しかもイサナさんは分かりやすく、大げさにしてくれた。

 魔力が見えないならともかく、見える私がこれでコツをつかめなければ能なしと言われても仕方ないだろう。頑張らなければ。


「はぁっ!」

 叩く。叩く。叩く。

 何回か試しの攻撃をして、私は「浸透撃」のコツをつかんだ。

「行きます!やぁぁっ!浸透撃!!」

 私のウォーハンマーは、アイアンゴーレムの左足を砕く事に成功した。

「見事だ!教えがいのある生徒だと楽しいな!」

 空中でイサナさんが腕を組んで笑っている。私は微笑み返した。

 すると、見物人をやっていたガーベラが声をかけてくる。

「アイアンゴーレム、修理?」

「ああ、復活させてくれ。掴んだコツをモノにしておきたい」

「あいあいまむ」

「なんで軍隊式の返事を………しかも棒読みで」

「修理完了でありますー」

「………まあいいか。魔力が尽きるまでやるから、適宜修理してくれ」

「あいあいー」

 突っ込むのは止めよう、これでも私の訓練に付き合ってくれてるわけだし。

 ごほん。今日、私は「浸透撃」を習得したのだった。


 3月11日。AM08:00。


 春は名のみの、風の寒さよ………か。

 もともと風の強い書城グリモワールではなおさらだな。

 要は、寒さが和らいでいないという事だ。

 廊下を通っての洗面所(脱衣所)までは冬将軍が健在である。

 毎朝の事だが、朝っぱらからボスモンスターに遭遇した気分だ。

 ガーベラと2人で猛ダッシュしてその廊下を駆け抜けた。

 洗面台から出てくる温かいお湯は癒しだな。


 その後―――これも寒かったが―――着替えて、身繕いをすませる。

 今日は輝きの水晶谷に訓練に行く予定だ。

 出現するモンスターのうち「クリスタルゴーレム」を「浸透撃」の実験に使おうと、昨日ガーベラと話して決めたのだ。

 が、準備していると、壁をオリーナさんが通過して現れた。

 扉からではないので、オニギリを持って来たわけではなさそうだ。

「あなた達に指名依頼があるって、使者さんが来てるわよー?」

「またですか?今行きます。ガーベラ、行けるか?」

「うん、大丈夫。今回は何だろね?」

「さぁ………またフェアリー族が絡んでるんじゃないのか?」

「それはありそうだね」

 ガーベラと会話しながら入口で待っているという使者さんの所に向かった。


「おはようございます。指名という事ですが、どんなクエストですか?」

「今回は、ギルドマスターのサネカ様が説明をされるということで………申し訳ないですがギルドまでご足労願えないですか?」

 私とガーベラは顔を見合わせる。

 どうする?どうするったって仕方ないでしょ。

 無言で会話した私たちは、了承の意を使者さんに告げた。

「分かりました。午前中に伺います」

「ありがとうございます。ではわたしはこれで………」

 使者さんは去っていった。


 使者さんが帰ると同時に、オリーナさんが出現する。

「今から出るんでしょう?はい、オニギリ」

「「ありがとう、オリーナさん」」

 貰ったオニギリを持って、サフランとパプリカの準備をしたら、書城グリモワールのゲートからダンジョン外に出る。

 そのまま、いつものルートで冒険者ギルドに。

 もちろんオニギリは歩きながら食べてしまっている。


 冒険者ギルドに入ると、エトリーナさんは埋まっていた。

 なので、オリーに声をかける。

 用件を告げると、慌てて奥の事務員さんに確認してから

「お待たせしました!応接室へどうぞ!」

 と言われた。まあいいんだが、修行が必要そうだな、彼は。

 エトリーナさんなら、確実に最初から把握していただろうし。


 応接室に行くと、ギルドマスターが待っていた。

「呼びたててすまないわね、あなたたち」

「あんまり気にしてないよ、それよりどういう依頼なの?」

「まあ、慌てないで座って。温かいお茶でも飲んでちょうだい」

 私たちは応接室のソファに腰かける。

 すぐに事務員さんが、温かいお茶を持って来てくれた。


「今回の依頼なのだけど………フェアリー族が2派に別れて、ラグザの古戦場で長い事合戦をしているのを知っているでしょう?」

「シルバーランクの冒険者なら、知らない方が珍しいと思います」

 横でガーベラがうんうんと頷いている。


「そう………それでね、あそこの最高責任者はショーグンを務めるフェアリー族なんだけど。フェアリー族の長老は、この事態を憂慮しているのよ」

 彼女はお茶で喉を潤してから、その先を語る。

「ショーグンたちに聞いて、争いの原因を探ってくれないかしら?」

「ショーグンは我々の訪問を承知しているのですか?」

「それは大丈夫。コネを総動員して賓客として迎えさせるわ」

「わかりました、それなら………」

「調査期間は3日よ。いい話を聞ける事を願っているわ」

「「了解しました」」


 応接室から出て。

「ガザニアちゃん、これ、冒険者の請け負う内容なの?」

「逸脱してはいないだろう、危険な事に変わりはないし」

「まあ、そうかな。今から行く?」

「いや、時間が中途半端だから、一旦書城グリモワールに帰ろう」

「じゃあ、あたしは転移の宝珠を作るから」

「転移の宝珠?」

「行った所にテレポートできる魔道具だよ。どうせ、東西のショーグンの所を行ったり来たりしないといけないでしょ?」

「かもしれないな、私はフェアリー族軍関係の書籍を読むことにする」


「なあ、ガーベラ」

「なにー?」

「この戦争って、敵の本陣にお互い宣戦布告をして始まったというんだが、どんな宣戦布告なのか、全く書いてないんだ」

「フェアリー族のことだし、大した宣戦布告じゃなかったんじゃない?」

「そうかもしれないが………本人たちに聞くのが一番だな」

「そうそう、明日出向いて、本人たちに直接聞くしかないでしょう」


 その日は、クエストの事をオリーナさんに話しつつ美味しい料理に舌鼓を打った。

 

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