第35話 絆をつなぐ第一歩【語り手:ガーベラ】

 2月15日。PM14:00。


 温泉を作った中庭の、まだまだ空いてる大きなスペースで。


 ガン、ガン!

 がららっ。

 ガツン、ガツン!

 ばきいっ!


 ガザニアちゃんは、1体のロックゴーレム相手に善戦していた。

 ウォーハンマーで。

 言うまでもなくガザニアちゃんの普段の得物はツーハンデッドソード。

 いわゆる大剣であった。

 でもガザニアちゃんは、剣が通用しにくい相手が出て来た時に備えて、打撃武器も修練したいらしい。あたしもメイスぐらい練習しようかな?

 でもその時は、クレイゴーレムとかからでいい。

 いきなり、あたしの援護(『ウィークポイント』)なしでロックゴーレムとか。

 あたしなら絶対に嫌である。


 そんな事を考えているうちに、ガザニアちゃんがロックゴーレムを倒した。

 両足を破壊して、行動不能に追い込んだのだ。

「1体だと、物足りないな。ガーベラ、2体出してくれ」

「ひょえー、ガザニアちゃん、本気?」

「ああ、ウォーハンマーは思った以上に使いやすい」

 ガザニアちゃん、パワーファイターだからなぁ。


 ちなみに、ウォーハンマーとは鎚状の柄頭を備えた打撃用武器である。

 戦鎚せんついと呼称されることもあるみたいだね。

 とにかく、ごっつい武器であることには変わりない。

 狭い所での戦闘に備えて、ショートソードも装備しているガザニアちゃんは、完璧な重戦士だ。まさか回復を一手に担う回復魔法使いでもあるとは思わないだろう。


 そして、あたしは豊富にある瓦礫を使って、再度ロックゴーレムを作る。

「ガザニアちゃんに全力で攻撃!」

 そう命令を下しておいて、あたしはメイスの制作を始める。できるのかって?

 できるんだな、上級魔法の『クリエイト・ラージ』を使えば。

 普通の質の物なら問題なく作成できる。

 高品質の物は無理だけど。

 使いこなせる様になったら、ジェニー商会に頼んでいいものを作ってもらう予定。

 あたしは『クレイゴーレム作成』を使った後、あたしに攻撃するよう命ずる。

 さあ、『ウィークポイント』を使わずにどれだけやれるかな?


 あたしとガザニアちゃんのチャレンジは、成功に終わったと言っていい。

 でもやっぱり『ウィークポイント』があったほうが格段に楽だけどねー。

「でも、核のない固い魔物もいるから打撃武器の訓練はしておいた方がいいと思う」

「そうだね、でもとりあえず慣れるまで、メイスはサブウェポンだなぁ」

「イサナさんに教えて貰おう」

「ああ、イサナさんに使えない武器はないってオリーナさんが言っていたね」

 あたしたちは、今度イサナさんに師匠役を頼もうということで一致した。


 2月16日。AM08:00。


 あたしとガザニアちゃんはほぼ同時に起きた。

 おはようを言うと、寒いのを我慢してベッドから抜け出し、浴室までダッシュ。

 冬の書城グリモワールの廊下は凶器だよ!

 温かいお湯の出る洗面台が有難い、どこからお湯が来てるのかは謎だけど。


 その後、やっぱり寒いのを我慢しながら、身繕いをすませる。

 今日はラグザの古戦場に訓練に行く予定だ。

 と、そこに壁をすり抜けてオリーナさんがやってきた。

「指名依頼を持った使者さんが来てるわよー?」

「え、指名依頼ですか?ちょっと前にこなしたばっかりですけど」

「わたしは知らないわよー。使者さんに聞いてみたらー?」

「そりゃそうだね、ガザニアちゃん、使者さんの所に行こう?」

「そうだな、そうしよう」


 ギルドの紋章の入った鎧を着た使者さんは、どうやらギルド職員らしかった。

「ギルドマスターからの依頼です。説明を聞いていただけますか?」

「説明を聞いたら断れない?」

「できれば引き受けて頂けると………」

「仕方ないね、ガザニアちゃん。説明を聞こうか?」

「よほどのことがない限り断らないので、説明をお願いします」

「はい、実は………」


 彼の説明はこうだった。

 ラグザの古戦場に飛竜の群れが現れた。

 飛竜は、合戦をしているフェアリー族の両陣営を脅かしている。

 ギルドマスターは、フェアリー族と人間の友好を望んでいるので、そのとっかかりとして、その飛竜を人間が倒す事を望んでいる。

 で、飛竜退治にあたしたちに白羽の矢が立った。

 簡単に言うとそういう事だ。

 ちなみに飛竜とは最下級の竜族で、小さいワイバーンの様な外見をしている。

 

「うーん、飛竜単体では大したことがないんだが………」

「群れっていうのが厄介だね」

「ああ………物理個人結界で何とかなるかな?」

「飛竜は魔法使って来ないから、物理個人結界で有利にはなると思うよ」

「後は飛んでるから、魔法で落とすか………」

「そだね、そうなると思うよ。弓じゃ装甲貫けそうにないしね」

「方針は決まったな。なら引き受けるでいいか?」

「うん、何とかなるでしょ」


 あたしたちは、使者さんに引き受けると告げた。

 使者さんはあたしたちに頭を下げて、クエスト票を渡してくれた。


 その後、オリーナさんがオニギリを持たせてくれ、あたしたちは出発した。

 もともとラグザの古戦場に行く予定だったので装備に変更はない。


 ラグザの古戦場にゲートから入ってみると、なんか静かだった。

 見ると、ラグザの古戦場の中央、巨木の周囲に飛竜の群れが舞っている。

 

 飛竜は音に敏感だ、というか音の発生源を襲う。

 大砲を撃つと、驚いた飛竜に襲撃されるので静かなんだろうと思う。

 あたしとガザニアちゃんはうなずき合って、取り合えず飛竜の元へと急いだ。


 飛竜が飛んでるあたりの真下に来た。

 サフランとパプリカに戦闘態勢に入るよう指示を出す。

 けど、あたしたちが静かなせいか、こっちに下りて来てくれない。

「仕方ないね、これをやっちゃうと一斉に襲ってくるからやりたくなかったんだけど、『拡声』の魔法をかけて叫ぼうか」

「『物理個人結界』は先にかけてくれよ」

「そうだね『上級:無属性魔法:物理個人結界 ×2』!」

 『物理個人結界』をかけた後で、『拡声』をかける。

 ただし普通の10倍の強さでかける。

 もちろんガザニアちゃんには耳栓をしてもらったよ。

「あ――――――――――――――――――!!!!!!!!」

 飛竜は、全部の個体がこっち向いた。

 と同時に、比較的近くにいた個体は墜落して来た。5体。

 狙い通りだけど、耳栓してたガザニアちゃんまで「音がおかしい」と言っている。

 魔法が(普通の術式だと)10倍までしか拡大できなくて良かったかもしれない。

 でないと何倍でかけてたかわからないからね、えへ。


 下降してくる飛竜と戦闘が始まった。

 残った飛竜は、30匹はいると思われる。

「はっ!やぁ!とうっ!」

 接敵した飛竜は、ガザニアちゃんが2~3撃入れると撃沈する。

「『最上級:火属性魔法:ファイアーストーム』!」

 接敵してない飛竜はあたしが広範囲魔法で落としていく。

 魔力の出し惜しみはなし。

 そんなことしてたら魔力が尽きるより先に死んじゃうからね。

 魔力回復薬はちゃんと持ってきているし。

 ガザニアちゃんに多数群れてきた時はさすがに、あたしもガザニアちゃんの援護に回ったけど、基本的には手分けして片付けることができた。

 サフランとパプリカには生き物の匂いがしないのか、あまり飛竜が寄って来なかったので今回はあまり役に立たずに終わってしまった、まあサポートだね。

 でも結果、10分もせずに戦闘は決着した。

 今回は倒した証拠に、飛竜の角を持って行かないとね。


 角を取ったら、ラグザの古戦場から出て、まっすぐ冒険者ギルドへ向かう。

 ギルドマスターに、終了印を貰わなくてはいけないからだ。

 受付で、エトリーナさん(空いてた)にクエスト票と物証を見せる。

 すると、すぐに応接室へ通される。

 応接室では、ギルドマスターが席から立って出迎えてくれた。


「ありがとう、飛竜の群れを何とかしてくれたのね」

「ちょっとキツかったけど、なんとかなりましたー」

「ゴーレムがいますけど基本的に2人なので、あまり多数の相手はきついです」

「ごめんなさいね、今度から考慮するわ」

「でも、今回のは何とかなったから、終了印をください」

「はいはい、ぽん、と」

「フェアリー族との仲をつなぐために、少しはお役に立てましたか?」

「ええ、交渉の窓口は開かれたと思うわ」

「それはよかった、では、私たちはこれで」

「またお願いすることがあると思うからよろしくね?」

「「わかりました」」


 応接室の扉から出ながら、あたしたちも強くなったなぁと実感する。

 ちょっと前なら、飛竜の群れに手も足も出なかったに違いないのだから。


 感慨深く思いながら、あたしたちは書城グリモワールへの帰路についた。

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