第34話 ラグザの古戦場の巨木【語り手:ガザニア】

 1月26日。PM13:00。


 ギルドマスターの昔の仲間の墓に、剣を捧げるクエストをこなして20日ほど。

 私たちはクエストをいくつかこなし、いつものように訓練も重ねていた。


 今日は中庭に、試しに温泉を作ってみたいというガーベラに付き合う。

 オリーナさんは、快く中庭を貸してくれるそうだ

「えーと湧水の宝珠に、加熱の紋章、冷却のゲートは揃っているから………」

 ガーベラがぶつぶつと呟いている。

「ゴーレム作成の応用で、深い穴を掘ってそこに湧水の宝珠に加熱の紋章を組み合わせたものを投下して………と」

「ガーベラ、湧水の宝珠と加熱の紋章だけだと、湧き出てくるのは純水だろう?温泉の効能とかはつけないのか?」

「大丈夫だよガザニアちゃん、ちゃんと各種効能を付け加える魔道具も作った!」

「………こういうことには、労力を惜しまないな、お前は」

「ふっふーん。というわけで、比較的手軽にできた「炭酸水素塩泉の宝珠」投下!」

「どんな効能のある温泉になるんだ?」

「主に美肌の湯、清涼の湯かな。肌の不要な角質をとったり、毛穴の汚れをとったりする効果があるんだよ。女の子2人の住まいなんだしこれがいいと思わない?」

「なるほど………それは嬉しいな」

 でしょー?と言いながらガーベラは、ゴーレム作成の応用で、地面を温泉の湯船の形に凹ませ、岩石でコーティングする。

 そして、宝珠二つと紋章の入った穴は、鉄の格子をはめ、取れなくした。

「流れ出る温泉水を、溝を作って川の方に誘導してー。途中に冷却のゲートを設置」

「ああ、元から中庭にある川に合流させるのか」

「そっ。これで完成!故郷に帰ってもうまくできるね」

「今回は少人数用だが………大人数でも作り方は似たようなものか」

「うんっ!帰るまでに大人数用の魔道具も揃えておかないとね」

「勤勉だな………普段の訓練や勉強に支障がないならぜひ頑張ってくれ」


 その後は、実際に入ってみようという事になった。

 バスタオル一枚になり(寒い)そーっと足を入れて、慌てて抜く。

「ガーベラ、熱すぎだ!」

「あれー?加熱の紋章の紋章に呪文で鑑賞するね………これでどう?」

 これから出てくる湯だけでなく、温泉全体に干渉したらしい。

 私はもう一度そーっとあしをいれる………これは………

「ぬる過ぎではないかと思うぞ」

「再度干渉、これでどう?」

「うん、熱めの温泉という感じになった」

「よっし、入れるぞー!」

 ガーベラが湯船に飛び込んだ。

 あつー!?と叫んでいるが………私は熱めの温泉と言ったからな。

 その後は、オリーナさんやイサナさんまで入りに来て―――幽霊がどうやって入るのか?服の部分の幽体をはがして湯船につかると、温度だけは感じるんだと。

 にぎやかになった温泉は、今後活用されていく………のか?

 中庭は広いので、私たちの訓練の邪魔にはならないが。


 1月27日AM08:00。


 今日、目覚めて身繕いをすませた私たちは、輝きの水晶谷に訓練に行く予定だったのだが―――。その前に冒険者ギルドから使いが来た。

 曰く、ギルドマスターから依頼したいクエストがあるので、冒険者ギルドまでご足労願えないか?詳細はギルドで話す、という。

 私は別に構わない、ガーベラを見ると頷いたので、使者に了解の意を告げる。

 使者は深々と頭を下げて帰って行った。


 その後、いつものようにオリーナさんにオニギリを貰って冒険者ギルドへ向かう。

「そういえば、ギルドマスターってどんな人だろね?」

「女性だと、エトリーナさんが言っていたような気がするな」

「へぇー。強いかな?」

「それは、元ゴールドランクらしいから強いだろう」

「あたしたちも今はゴールドランク目指してるもんね。会うのが楽しみだね」

「そうだな」

 そんな他愛ない会話をしてるうちに、冒険者ギルドに着いた。


 エトリーナさんのカウンターが空いていたので話しかける。

「エトリーナさん、ギルドマスターからの呼び出しでギルドに来たんですけど」

「ああ、話は聞いてるわよ。2階の応接室に案内させるわ」

 私たちはギルドの職員に案内されて、豪華な応接室に案内された。

 多分、貴族や豪商などの相手をする時のために豪華なのであろう。

 応接室の窓辺には、金髪で長身の30代後半ぐらいの女性が立っていた。

「あなたたちが、ガザニアさんとガーベラさんね?」

 私たちがうなずくと

「この間は、仲間の墓をありがとう」

「依頼でしたから。能力も足りていましたし、当然の事です」

「そう言える冒険者は案外少ないのよ?色々調べさせてもらったけど、あなた達は信用できる、と私は判断したの」

「そうですか、ありがとうございます………と言えばいいですか?」

「お礼は要らないわよ」

 彼女は苦笑して、依頼を引き受けてくれればいいの、と言った。

「分かりました。依頼とは?」


 依頼とはラグザの古戦場の真ん中に生えている、巨木の調査だった。

 冒険者ギルドがすっぽり幹に入りそうなほどの巨木で、威容を誇っている。

 当然私とガーベラもその存在は知っていたが、調査とは?

「あれはね、ラグザの古戦場を維持している木なのよ。フェアリー族があそこで合戦を始めて長いけど、その間に流れ弾なんかで少しずつ傷ついてる。そのダメージを確認して、目に見えるダメージがあったら回復を施して欲しいの。ラグザの古戦場を維持するためにね。長期的なケアは報告に基づいてこちらでやるから」

「枯れてたりする所とかはお任せで、枝が折れてたりしたら治癒したらいいんだね」

「そうね、流れ弾のダメージの修復なんかもお願い」

「だってさ、ガザニアちゃん」

「承りました」

「じゃあ、クエスト票を渡しておくわね。大事な任務だからよろしくお願い」

 真剣な表情のギルドマスターに、私たちは頷いて引き受けたのだった。


 そのまま、ラグザの古戦場に向かい、昼過ぎには到着した。

「あたしが『フライト』で、ガザニアちゃんを抱えて、巨木を回りながら上昇していけばいいよね?ていうか、それしかないかも」

「ああ、それしかない。わたしは回復魔法を使わなければいけないだろうし」

「じゃあ、巨木の所まで行こうか」

 

 近づいてみるのは初めてだが、本当に巨大な木だな。

 根元を巡る限り、ほとんど壁のようだ。

 だが、砲弾のめり込んだ跡がある………自然治癒したようなので私は必要なさそうだが、上の方には治癒しきってない傷があるかもしれないな。

「『フライト』!ガザニアちゃん、抱えるよー」

「ああ、木を周回しつつ上昇していってくれ」

「おっけー」


 ギルドマスターの懸念は当たっていたと言わざるを得ない。

 砲弾によって木がかなり傷ついていたのだ。

 ガーベラが『念動』で砲弾を摘出、私が『治癒魔法:大回復』を施す。

 枯れてしまっている所とかはお手上げなので、ノートに場所を書いておく。

 だが、これ、合戦をやっているフェアリー族を何とかしないと、どうしようもないのでは?とも思うが、とりあえず今は対処療法だ。

 木の最上部に到達した―――ここは健康そうだな。


 木を登る過程で、虫の魔物などと戦闘もあったが、全部魔法で落とした。

 そのせいで木が傷ついた部分は、もちろん癒しておいた。

 ひたすら魔力が必要な依頼だったな。


 依頼をこなして冒険者ギルドに帰ると、エトリーナさんからもう一度応接室に行って欲しいと言われた。予想していたので頷く。ガーベラはどうでもよさそうだ。

「ただいま帰りました。巨木の状況はこのメモの通りです」

「ありがとう、これで巨木の修復にかかれるわ。終了印を押すわね」

「ありがとうございます」

「これから、あなたたちに頼みごとをする事も増えると思うわ。そうそう、名乗ってもいなかったわね、ごめんなさい。私の名前はサネカよ」

「わかりました、サネカさん………でいいですか?」

「もちろんよ、そう呼んでもらって構わないわ」

「ではサネカさん、今後ともよろしくお願いいたします」

「よろしくお願いしまーす」


 応接室を辞し、私たちは書城グリモワールに帰るのであった

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