第33話 剣の墓標【語り手:ガーベラ】

 1月1日。AM11:00。


 新年だ。

 南の大国「カルドセカリナ帝国」では、新年は家族で過ごすものらしい。

 私たちの出身である北の大国「グリューエン皇国」では1日から3日間お祭りなんだけどな。村のみんなでやるお祭りは年に一度の楽しみだったなぁ。


  だけど、家族でご馳走を食べてまったりするこっちの新年も悪くないか。

 この場合の家族はガーベラだけでなく、オリーナさんも含まれる。

 すでに彼女はカルドセカリナ帝国での「お母さん」だ。

 故郷で「お母さん」と言えたのは、メイド長のシリカだろうか。

 イザリヤ叔母様は、どっちかというと「師匠」って感じだからなあ。


「オモチが焼けたわよー」

 オモチとお皿が幽体じゃないので、壁を通過できないから普通にドアを開けたオリーナさんが、をお皿に乗せてやってきた。

「「ありがとうございます!」」

 オモチというのは、カルドセカリナ帝国発祥の物なんだそうだ。

 村にも広まっていて、薬草がモチ生地に練り込まれているものが普通だったなあ。

 スープなんかに入れて食べていたね。

 でもこれは白いオモチで、カルドセカリナ帝国ではこっちが普通なんだそう。

 サトウジョウユで食べる。

 甘じょっぱくてすごくおいしい。

 そのほかにも、きなことか、アンコロ餅とかもGOODだ、おいしい。

 オゾウニとかいうスープにも入ってくるのだが、これもおいしい。

 なんかあたし「おいしい」しか言ってないような?


 そんな事を考えていると、オリーナさんがお酒を持って来てくれた。

「え、飲んでいいの?」

「何言ってるの?成人してるじゃない?」

「あ………そうか。故郷ではみんなまだ子ども扱いして来たからなぁ」

「そうだな「成人したてなんて子供と一緒だぁ」とかオババも言っていたな」

「あら、じゃあお酒、飲んだ事ないの?」

「「ないでーす」」

「じゃあ、一度飲んでみない?これはカルド酒っていって、新年のお祝いには定番だけどちょっときつめのお酒だから、葡萄酒にしましょう」


 結果、後日聞いたところによるとあたしは笑い上戸な事が判明した。

 後日というのは、笑い疲れて寝てしまったからだ。

 ガザニアちゃんはかなり強いらしいが普通に酔うそうだ。

 イザリヤ叔母様はどうなんだろう………気になる。


1月2日。PM12:00。


 この三日間は休みって決めているので、こんな時間に起きても誰にも怒られない。

 いや、怒るのなんて今はガザニアちゃんしかいないけどさ。

 昨日と同じく美味しいご飯三昧でした!


1月3日。PM12:00。


 今日はハネツキで遊ぼうという事になった。

 人数合わせで6階のボス、イサナさんも参加だ。

 ハネツキは、ラケットの役割をする装飾された木の板で、羽の生えた木の玉を打ち合って応酬し、先に落とした方が負け。

 負けると1回に1個、顔にユカイな落書きをしていいというおまけつき。

 よって、お互いに魔力を使った激しい応酬になった。

 組み合わせはあたしとオリーナさん、ガザニアちゃんとイサナさん。

 いい年してみんな本気になったねー。

 落書きされてない人はいないって惨状になったよ。

 え?幽霊の顔にどうやって落書きするのか?

 魔力を濃く通したスミを用意しました。魔力が張り付くって感じ?

 もちろん誰に使うスミも、簡単に落ちるものにしたよ?

 この日は、他の人の顔を見る度、落書きを思い出して笑えたなあ。

 この町での、そして書城グリモワールでのいい思い出になったよ。


 1月4日。AM11:00。


 あたしたちが休暇ボケを治すために6階を一巡りし、1階に帰ってきたら。

「あなたたちー。指名依頼でクエストが来てるわよー?」

「えっ、指名依頼?誰から?」

「ギルドマスターからよ。詳細はクエスト票を見てね」

「ギルドマスターだって!?どんな依頼だろう………」

 あたしたちはクエスト票をあらためた。


 ギルドマスターの古い仲間の墓標が輝きの水晶谷にあった。

 それは古い剣だったのだが、ラストイーター(金属を錆びさせて食べてしまう魔物)のせいで、墓標が失われてしまった。

 なので、模造品にはなるが、新しい剣を墓標に立てて欲しい。

 君たちの実力ならできると信じている。

 剣と、そこまでの地図を同梱する―――


 ちなみにラストイーターはでっかいダンゴムシみたいな魔物。

 単体でいる事は極めて少なく、大きな群れで行動する。


「以上だね。オリーナさん、剣は届いてるの?」

「ええ。これよ。結構重いんじゃないかしら」

「本当だ………重厚な剣だな。私が背負おう」

「地図も、ガザニアちゃんのと照合してみないと」

「そうだな………なるほど、ここに抜け道があるようだ」

「期限は1週間か―――今日はもう訓練で消耗してるから、明日だね」

「そうだな、明日朝一番で出よう」

「おっけー」


 1月5日。AM08:00。


 あたしとガザニアちゃんは、次の朝気持ちよく目覚めると、顔を洗って身繕いもすませる。指名依頼だ―――頑張るぞ!

 オリーナさんから、オニギリを貰って食べながら輝きの水晶谷に向かう。

 輝きの水晶谷のゲートをくぐると、いつもながらの幻想的な風景。

 風景が全て水晶でできている。

 ほとんどは薄い青にも見える透明な水晶で、ところどころに薄紅や黄色の水晶。

 土着の原住民族、メルギス族の住むエリアを除けば、全てのエリアは階段状になった水晶で四角く切り取られてエリアを構成している。


 あたしたちは、ガザニアちゃんの地図に従って移動を始めた。

 もちろんモンスターは出るが、輝きの水晶谷にはよく訓練で来るようになっているので、連携や相手の癖や傾向なんかはバッチリだ。

 油断はしないけど、あたしたちは順調に進んでいった。


 そして問題の抜け道に来た。ここからは慎重に行く。

 なぜなら、ラストイーターがまだとどまっている可能性が濃厚だからだ。

 ガザニアちゃんの装備―――あたしも少し―――が危ないし、駆除しないまま墓標の剣を捧げても無意味だろう。

 要は、ラストイーターとは戦わなくてはいけない、そこで―――

「『上級:無属性魔法:物理個人結界 範囲×2』!」

 これで、ラストイーターの攻撃が通る確率は下げられた。

 抜け道を抜けると―――そこはラストイーターだらけだった。


 すごい勢いでガザニアちゃんの装備に群がろうとするラストイーター。

 ガザニアちゃんは、剣でまとめて薙ぎ払う。

 剣は金属ではないので普通に通用するようだ。

 あたしも、攻撃しないと。広範囲型の魔法は―――

「『上級:風属性魔法:サンダーフィールド』!」

 あまり強い魔法じゃあないけど、群れとして強くても個々で弱いラストイーターを駆逐するのには最適な魔法だと思う。

 ガザニアちゃんの薙ぎ払いと、あたしの魔法で、ラストイーターはみるみる減っていった。全滅までは骨が折れそうだけど………


 見える範囲のラストイーターは駆除した。

 あとは、隠れてるのを殲滅するだけ。

 1匹残したら倍以上に増えるモンスターだから徹底的に駆除したよ。


「じゃあガザニアちゃん、剣を捧げよう」

「ああ、前のが刺さってたのはこの穴だな………よっ」

 無事に剣は捧げられた。

「「安らかに眠って下さい」」


 これでようやく帰還できる。

 クエスト票を持って、冒険者ギルドに行こう!


 冒険者ギルドに着いた。

 エトリーナさんは空いているので、カウンターにクエスト票を提出した。

「達成しました。成否確認をお願いします」

 今回は物証とかが無いので、ギルド職員の成否判定を待たなければいけないのだ。

「ええ、任せて。成功を確認したら、宿まで終了印入りのクエスト票を届けるわ」

「よろしくー」「よろしくお願いします」


 お任せして、あたしたちは、書城グリモワールに帰るのであった。

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