第31話 秋の味覚討伐?【語り手:ガーベラ】

 11月16日。AM15:00。


 ガザニアちゃんとオリーナさんと、あたし。

 3人だけのおやつの席で、オリーナさんが唐突にこんなことを言い出した。

「もうすぐ秋も終わるわねえ………その前に紅葉狩りと秋の味覚採取に行かない?」

「オリーナさん?このダンジョン、城と中庭がエリアなんじゃあ?」

「それともオリーナさん、この城から実は出れたり?」

「城からは出れないわよー?実は書城グリモワールには隠しエリアがあるの。名付けて夜の四季庭園!修行に使うには繊細なエリアだから言ってなかったの。去年教えてあげようかとも思ったんだけど、外で十分だろうと思って。でも今年は私が行きたくなっちゃったからー」

「そんなところがあったんだー!隠し庭園、行きたい!」

「あると知ってしまったら………行きたいな。外の景色は街中の景色だし」

「そう言ってくれるなら明日お弁当持って行きましょうね」

「お弁当は手伝います」

 あたしは料理は苦手だから、ピクニックの準備でもしてよっと………あれ?

「秋の味覚採取っていうのは?聞き逃すところだったよ」

「栗と銀杏。お芋畑もあるわ」

「カゴとか手袋とかスコップとかトングとかブーツってあるの?」

「あら言われてみれば。私は全部念動でやっちゃうから必要なくて」

「やっぱり?あたしは今日のうちに、ジェニー商会に行って必要物を買って来る!」

 そういうと、オリーナさんは拍手して「よろしくね」と言った。

「意外と気が付くんだな」

「ガザニアちゃん、普段は気がつかないって言ってる?」

「そういう訳でもない、冒険では助かってる」

「ならばよし」


 あたしは、お財布とよそ行きの服―――この町に来てから買った。お気に入り―――を引っ掴んで、ジェニー商会に向かう事にした。


「栗拾いの道具と、芋掘りの道具と、ピクニックの道具をください!」

「かしこまりました」

 必要物を伺いにやってきた店員さんの笑顔は、微塵も揺らがなかった。

 いや、揺らがせようと思って言った訳でもなかったんだけど。

 稼ぎになりそうもない品を多数言ったから、揺らぐかと思っただけで。

 あたしの感情を読んだかのように店員さんは、

「普段、ギルドを通じてドロップアイテムの買取を多数させて頂いてますから」

 と言った。なるほど、冒険者はそれだけで「お客様」なのねん。


 あたしは、トング、ブーツ、軍手、カゴたくさん、ピクニックバスケット、レジャーシートなどなどを持って帰宅した。

 帰宅………そうなんだよね、今はここがお家だ。


「まぁまぁ、ピクニックバスケットまで!明日はこれがいっぱいになるまで作りましょうねぇ、ガザニアちゃん」

「気が利くな、ガーベラ。明日は期待しているといい」

「はーい!準備して待ってる!」


 そして翌日………11月17日。AM10:00。

「秋の隠しダンジョンにしゅっぱーつ!」

 あたしは上機嫌でオリーナさんから指し示されたゲートに足を踏み入れた。

「ガーベラ!幽霊だ!」

 え?あ、ホントだ。視界いっぱいにポップしてる。

「あらー。使ってないうちにあふれちゃったみたい。成仏させてあげて?」

「分かりました!『神聖魔法:ホーリーピュアサークル 範囲拡大×5』!」

 2階ぐらいの幽霊の強さしかなかったみたいで、幽霊はみんな溶けて消えた。

 まばゆい光で視界がふさがれたのもつかの間、あたしの目の前には本来の景色が広がっていた。紅葉の庭園。

 少し離れた所には、銀杏並木、栗の林、芋の農園などがある。

 そして、各所にあたしたちもお馴染みの「お手伝いオバケ」が配置されている。

 お手伝いオバケは魔道具なので成仏しなかったんだね。

「ふう………疲れた」

「ガザニアちゃんがお疲れみたいだから、まず食事にしようよ!」

「うふふ、そうね、そうしましょう」


 ピクニックバスケットにキッチリと入っていたサンドイッチは超おいしかった!

 ローストビーフと粒マスタード、レタスが挟まれているのがお気に入り。

 ああ、でも海老カツが挟まれてるのにも浮気しそう。

 野菜サラダも捨てがたい。

 

 昼食はあっという間に過ぎた。

 お店で一番大きなピクニックバスケットだったんだけどなあ………


「さあ、秋の味覚を採取しましょー」

 そうだ、それがあったんだった。

 ここで色々採取しておけば2人がいろいろ作ってくれるはず!


「まずは栗拾いね」

「はい」「はーい」 

 栗拾いは初めてだ。故郷シュバルツヴァルトは針葉樹の森だからね。

 しばらく南に来ただけでこんなに違うものなんだなあ。

 アーデルベルク家を継いだら、滅多な事ではできなくなる体験だろう。

 だから、今を思い切り楽しむ。

 栗はイガのついたまま拾うらしい。ブーツは気の回し過ぎだったみたい。

 イガを取る時はオリーナさんの念動で取るそうだ。

 ガザニアちゃんは無属性魔法に適性がないから『念動』使えないしね。

 そう言ったら、私がブーツを有効活用するよ、と苦笑まじりに言い返された。

 うん、そうしといて。


 銀杏拾い、芋掘りと満喫して、成果を見せあいつつ休憩。

 ちなみに成果は全部かごの中。お手伝いオバケたちが持ってくれてる。

 その視界に、変なものが侵入してきた。

 歩くキノコ。エリンギに手足がついたような。

 そいつはそこら辺を歩き回っては、ふしゅー、と胞子をまき散らしている。

 ええと、こいつも秋の幸ですか?

「大変、オオアルキダケ―――俗称ファンガスダケだわ!えいっ!」

 違ったみたい。そのキノコはオリーナさんの魔法で丸焼けになった。


「ああ、やっぱり城中に発生してる~!10年に1度あるかないかなのに!」

 精神集中して、顔を上げたオリーナさんの第一声がそれだった。

「あなたたち、城を回って駆除してくれないかしら?」

「いいですよ、どんな敵です?」

「とにかく胞子が厄介よ。吸い込むとファンガスダケになるわ。時間はかかるけど」

「それなら、ランファンの花の時に使った防毒マスクを使えばいいよ」

「そうだな、オリーナさんそれ以外は?」

「意外と攻防共に強い事かしら………でも集団では出ないから。あ、あと胞子で汚れた本を綺麗にしてくれると助かるわ。『キュア』で取れるから」

「わかりました、行こうガーベラ」

「あいあいさー」

「わたしはサーじゃないぞ」

「………あいあいまむ?」

「………もういい(額を押さえて天を仰ぐ)」


 城中回って「掃除」して回るのはこれが結構大変だった。

 ガザニアちゃんのマップを見ながら、しらみつぶしに探していく。

 とっとことっとこ歩き回るので、マップを逆戻りする羽目になる事も。

 魔導書の棚の所で、胞子をまき散らしてるのを見た時は、ちょっと殺意がわいた。

 だからって、あたしの攻撃力でむやみに突っかかってもダメージにならない。

 でも、サフランとパプリカの参戦は見送った。

 こいつ、物理ダメージを受けると胞子を撒くんだもん!

 ガザニアちゃんに盾になってもらって、あたしが倒すのが一番安全ぽい。

 あたしたちは防毒マスクをつけてるんだけど、本の被害が………ね。

 『アイスボール』連打で氷漬けにして、砕くのが一番無難な倒し方かな。

 もちろん途中から魔力回復薬のお世話になるよ。


 最後のファンガスダケは、イサナさんの居る屋上にいた。

「おお、来たか。こいつはちょいと強いぞ。協力しようじゃないか」

「動きを止めたいんです。ガーベラが氷漬けにしますから」

 でっかいサイズのファンガスダケだ!ボスだね。氷漬けにできるかな………?

「できるのかい?」

 できないとは言えないなあ………

「やってみます」

「じゃあ、ガザニア、アタシに合わせな!」

「はい!」


 魔力回復薬を飲んでも心もとない………

 失敗するわけにはいかない………もっと魔力を!

 そう思ったら自然と「悪魔の血」が目覚めた。良くない事だ。堕天が近づく。

 あたしの全身は青く輝き、指の先まで魔力に満ちた。

 ガザニアちゃんの顔がこわばる、何か言おうとしている。

 でも今はこのままやるしかない。発動させるのは初めての術だ。

「『最上級:水属性魔法:アイスコフィン』」

 氷の棺が、一撃でボス・ファンガスダケを氷に封じた。

 そこであたしの意識は暗転する―――


♦♦♦


 部屋のベッドで目覚めたあたし。

 ガザニアちゃんが心配そうにのぞき込んでいる。

「………やっちゃったね」

「………お前にだけ、負担をかけ過ぎた」

「あたしもセーブが効いてなかった。もっと魔力をって思っちゃった」

「………堕ちるなよ、ガーベラ」

「その気はないよ。明るくいこう?」

「そうだよな。わかった。私ももう寝る」

 それを聞いてあたしももう一度寝ることにした。


 見る夢は、明日「秋の幸」に囲まれているところでありますように―――

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