第30話 人食い鬼の大量発生【語り手:ガザニア】

 11月1日。PM21:00


「ふぅー」

 湯船に浸かって、思わずため息が漏れる。

 ここは書城グリモワールの浴室。

 一応ここも城なので、大浴場だ。

 まあ、湯をどこから引いてきてるのかが、全くの謎なのがちょっと難だ。

 温泉のような気はするのだが。

 でも、浸かると気持ちいいのは確かなので、これは聞かない方がいいだろう。


 ガーベラは私と交代で、髪と体を洗っている。


 私は自分の体を見て思う。

 故郷から出て来てから、ビックリするほど筋肉がついたな、と。

 女性としては思う所がある。腹筋は割れてていいのだろうか?

 だが、これがわたしだし、未来の旦那様には諦めてもらうしかないな。


 ガーベラの方を見る。

 ガーベラは筋肉のつき方が違う。しなやかで、ネコ科の動物のようだ。

 ちょっとうらやましい、などと思っていると。

 ガーベラが「とっかーん」と言って湯船に飛び込んできた。うわっぷ。

「髪がまた濡れるだろう、飛び込むな」

「こんな大きなお風呂だとやっちゃうよねー」

「毎日の事だろうが!」


 ちなみに実家での風呂は、猫足の個人用の湯船に、メイドが温水を入れてくれるというものだった。解放感は書城グリモワールのほうがはるかに勝っている。

 だからといって飛び込んでいいというものではない。

 やるなら、自分一人で入っている時にして欲しいものだ。

 ………などと、ガーベラに説教を終えた私は、再度湯に浸かった。


「決めた!あたし、故郷に帰って家を継いだら公衆浴場を造るよ!」

 反省してないな。だがその発言は民にとってはいいかもしれない。

「………あの辺、温泉なんかあったか?」

「湧水の宝珠に、加熱の紋章、冷却のゲートあたりの材料があればいけるよ!」

「純水を加熱した風呂になるのか。材料の心当たりはあるのか?」

「もう幾つか入手してるけど………細かい事は魔導書を読まないと。必要そうな所は写本しないと後々困るかなー」

「具体的なんだな、それならいい、応援しよう」

「ガザニアちゃんがオルデノクライム家に行くまでにできるよう頑張るね!」

「ガーベラ………そうだな、オルデノクライム家にいけば滅多な事でシュバルツヴァルトには帰れなくなるからな………ありがとう。楽しみができた」

「どーんと、まかせといて!」

「ああ」


 その後、風呂から上がった私たちは、ネグリジェに着替えて休むのだった。

 暖かくフカフカなベッドで眠れるのは幸せ、だな。


 11月2日。AM08:00。


 書城グリモワールも秋が深まって来たと思う。

 景色は全く変わらないので、主に気温だが。

 それはともかく、ガーベラを起こさなければ。

「ガーベラ、起きろ!冒険者ギルドへ行く日だぞ!」

「にゃー。起きたよう。今日は寒いねえ」

「ああ、秋も深まってきたな」

「この城の風景は季節不明な夜のままだけどね。雷とか鳴ってるし」

「その上、窓の外を無害だがゴーストの幻影が飛ぶしな」

「まあ、出かけちゃえば普通に秋を感じるでしょ」


 私たちは身繕いを整えて、オリーナさんにオニギリを貰って城を出た。

 しばらくオニギリを食べながら歩いていくと、紅葉が綺麗な通りがあり、それを見物しながら、私たちは冒険者ギルドへ向かった。

 シュバルツヴァルトは針葉樹ばかりで、紅葉する木がなかったから珍しいのだ。

 去年も気付いてはいたのだが、あまり気に留めなかったな………


 冒険者ギルドへ着いた。

 エトリーナさんのカウンターに人が並んでいたので、挨拶せずにクエスト掲示板を見に行く。何かあるか、と見ようとしたら。

「お二人とも、ギルドからのクエストを受けてくれませんか?」

 と、声がかかる。誰かと思えば受付青年のオリーだった。

「ギルドからのクエストなら文句はないが………私たちでいいのか?」

「お二人の実力なら、大丈夫だと思いますよ。それに今回は他のパーティにも頼んでいます。敵の数が多い上に強いですから」


 オリーの説明してくれたクエストの内容はこうだった。

 3日前から、鬼の石切り場にて、オーガ人食い鬼が増殖し始めた。

 ダンジョンの仕組みが時々起こす、大増殖だと思われる。

 もう先発の冒険者は駆除に向かっているが手が足りない。

 おそらく今居るオーガを倒しきれば、大増殖は終わると思われる。

 ………ということだ。


「ええと、地図って描いてますか?」

「あるぞ」

「ああ、良かった。描いてない人が多いので説明に困るんですよ」

「そうなのか、それで?」

「あ、はいはい、地図の………この区画に行って下さい。持ち場です」

「この区画のオーガを倒したらいいのー?」

「そうです、よろしくお願いします」

「心得た」「任しといて!」


「さて、連戦なら魔力回復薬を買っていかないとね」

「そうだな、私も持とう。いつでも渡せるようにな」

 私たちは、魔力回復薬を買ってから、その足で鬼の石切り場に向かった。


 すでに鬼の石切り場内は、乱戦になっていた。

 無数のオーガのドロップアイテムと、それ以外の魔物も出ているらしく、他の魔物のドロップアイテムが足元にゴロゴロと転がっている。

 ガーベラがサフランとパプリカを戦闘モードに切り替えている。


 入口の戦況は安定していそうだったので、私たちは持ち場に向かう。

 向かう途中ではぐれオーガに襲われたが、それぐらいなら一蹴できた。

 問題は、持ち場に着いてからだった。

 数が多い。

 相手どれる数を軽く超えている。


「『上級:無属性魔法:物理個人結界』!」

 ガーベラが私に防御の術をかける。

 幸か不幸か、オーガたちには目の前の私たちしか見えていないようで、私たちの脇を抜けて、他の冒険者の持ち場に行こうという気は無いようだった。

 サフランとパプリカはもちろん、ガーベラも円陣を組んで戦う事になった。


「ガーベラ!前線にいても魔法は放てるな!?」

「もちろん!そのために魔法の発動体が指輪なんだから」

「よし!とにかくに数を減らしてくれ!私は目つぶしをするから、目はつぶれよ」

「了解!なら密集してる所に適当にぶっ放すよ。覚えたての最上級魔法!」

「ちょっと待て!?この辺を焦土に帰る気じゃないだろうな!?」

「多分そこまでは行かない!練習不足だから!」


 不安を覚えながらも私は『神聖魔法:ホーリーライト』をかける。

 円陣の中心で爆発する閃光。

 それに目が潰れたオーガたちを、サフランとパプリカと一緒に狩って行く。

 さすがのオーガも、鉄の塊の2人を殴ったら拳の方が痛いようだった。

 私は避ける。避けられなければ結界に守られつつ盾を掲げる。

 そうしているうちにガーベラの魔法が完成した。


「『最上級:火属性:ファイアーストーム』!!」

 戦場となったフロア全体に、強烈な炎の嵐が駆け抜ける。

 文字通り焦土になってるじゃないか!?

 と思ったが、ガーベラの技量では半分ほどしか焼けてないようだ。

 だが、敵は半分ほどに減った。

 私たちは、魔力回復薬を飲んでいるガーベラを合わせて欠けはない。

 逆襲の始まりだった。


 回復したガーベラの魔法支援もあり、私たちはオーガを全滅させることができた。

「はあ、はあ、はあ、もう一匹だって無理だ。腕が上がらない」

「ふう………あたしも魔力回復薬を使い切りました!まだ体は動かせるけどさ」

 幸い帰り道のオーガは掃討されていた。

「悪魔の血を使わなくて良くて、良かったな」

「使うほど悪魔に近付くからね」

「ああ。ともあれこれで後は、終了印を貰うだけだ」

「ギルドに向かって出発ー。歩きたくないけど」

「同感だ」


 私たちはギルドで終了印を貰ってから、書城グリモワールに帰った。

 これほどギルドと各ダンジョンが離れているのが恨めしい日もなかった。

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