第29話 下請けクエスト?2-②【語り手:ガーベラ】
10月12日。PM14:00。
うー。装備のまま寝たから体が痛い。
魔力も回復しきってないからダルイ。
「ねー、ガザニアちゃん、体がだるいよ。どうしても行かなきゃダメー?」
「私もしんどいが、エトリーナさんに約束したんだ。依頼人を呼び出しまでした以上、どうしても行かなきゃダメだろう」
「やっぱり?そうだと思ったよ」
「………なら聞くんじゃない」
「えへへー」
「ほら、服装を直して。行くぞ」
オリーナさんは、いつもと時間が違うのにオニギリを持たせてくれた。やったね。
いつものように、オニギリを食べながら冒険者ギルドへ向かう事ができた。
「エトリーナさーん、来たよう!」
空いてたエトリーナさんのカウンターにガザニアちゃんを引っ張って向かう。
「お疲れ様」
「はい!これ依頼の品ね」
「はいはい、チェック………大丈夫ね。なら終了印………と。依頼者はあそこのベンチに座ってる、冴えない顔色の男よ」
「ガザニアちゃん行ってらっしゃい!」
「ああ………」
ガザニアちゃんは依頼者と話をしに行った。
あたしは後ろに下がって待ってる。
あたしは話はしないけど興味はあるので聞くだけ聞いてる。
バガルは、パーティで一緒にシルバーランクに上がった人だった。
あたしとガザニアちゃんが同時に上がったのと同じ要領だね。
けど、そのパーティは、異常発生した魔物に殺されてしまったらしい。
バガルは盗賊で、逃げ切る事はできたけど、心に傷を負ってしまった。
敵を見ると怖くなって逃げ出してしまうんだって。
でも冒険者以外の仕事をする気もなくて………
それで依頼を受けて、それを下請けに出してたみたい。
でも長く続かないのは分かっていたそうだよ。
ガザニアちゃんはしっかりしろ、と彼を叱咤激励し、力を貸すと言い出した。
自分たちが依頼に同行するから、それでこなして自信をつけろというのだ。
バガルは大分ビビッてたようだけど、簡単なものから、というガザニアちゃんの言葉にうなずいた。内心では復帰したいと思ってるみたいだね。
「自分たち」が依頼に同行、てことはあたしもだよね、何だか楽しそう。
ガザニアちゃんの後ろで話を聞いてたんだけど、自己紹介しろと言われた。
「ガザニアちゃんの妹でガーベラです。魔術師/シーフだよ」
「あ、ああ。俺はシーフのバガル。よろしく頼む」
「よろしくねー」
「よし、では今からイシファンの古森の最奥まで行って帰ってくるぞ」
「ちょっと前までの定番の修行コースだよね、それ」
「我々が慣れていればバガルが安全だろう?」
「それはそうかもね」
あたしたちはバガルを挟むようにして、イシファンの森へ向かう。
雰囲気でバガルが緊張しているのが伝わってきた。
ガザニアちゃんはバガルにサフランとパプリカを紹介している。
「意志とか持ってたりはしないよな?」
「残念ながらそこまではいかない」
話してるうちにイシファンの森が見えて来たね。
バガルは、イシファンの古森に入る前のイシファンの森でもモンスターを見ると硬直した。「頑張れ!」と、ガザニアちゃんにどつかれて再起動。
顔を引きつらせながらだけどモンスターを仕留める手さばきは、さすが熟練のシーフだね、先輩と言って問題ない感じ。
イシファンの古森に入った後は、やや強力なモンスターに尻込みしていたけど、またガザニアちゃんの叱咤激励で、勇気を出したようだ。
そして最奥には―――ここのボス「古代のでかぶた」が待っている
今日は、前衛にバガルを置くので、サフランとパプリカの出番はない。
「えっ、ちょっ、マジで前衛!?」
「同じシーフの妹でも前衛を務めるぞ。私が倒すまでの間時間稼ぎをしろ!」
「うわぁぁぁ、こうなりゃやけだぁ―――!」
バガルは古代のでかぶたの前面に立った。足が震えている。
あたしは、バガルが足を滑らせそうになったり、尻もちをついた時に、魔法で手助けする係。しっかりしなよ、年上でしょー?
いつもより長引いたが、戦闘は終わった。
ドロップ品の「でかぶたの毛皮」はバガルにあげる。
敵を倒してドロップ品を得ることの楽しさを思い出してもらいたいんだそうだ。
ちなみに道中の敵のドロップ品はお互い均等に分けたよ。
バガルは遠慮してたけど………一応役には立ってたからいいと思う。
「回ってリハビリに使うダンジョンはあと二つだ」
「どこに行くんだい、ガザニアさん。俺はもうこれでいいんじゃないかと………」
「駄目だ。全然治っていないではないか。次は鬼の石切り場だな」
「モンスターがいつも盛りだくさんなダンジョンだな………」
「そうでないと、リハビリにならないだろう。最後はトラウマの地、輝きの水晶谷に行くつもりだが」
どうもバガルは、輝きの水晶谷でパーティメンバーを失ったみたいだね。
「輝きの水晶谷に行く………」
「そういうことだから、明日10:00に鬼の石切り場のゲート前でな」
あたしとガザニアちゃんは、バガルと別れ、書城グリモワールに帰った。
10月13日。AM08:00。
完全復活ー!
昨日のだるさはどこへやら、睡眠って偉大だね。
「ガザニアちゃん!今日はバガルを鬼の石切り場に連れていくんでしょ?」
「えらく元気だな、ガーベラ?まあその通りだ。身支度をしよう」
「今のあたしが元気なんじゃなくて、昨日の元気がなかったの!」
「イシファンの古森に行ったのはまずかったか?」
「あそこぐらいなら大丈夫だと思ったから、何も言わなかったんだよ」
「そうか、ならいいんだ。身繕いをすませよう」
あたしたちは身繕いをすませ、オリーナさんのオニギリを持って出発!
バガルは、ソワソワした感じで、鬼の石切り場前のスペースで待っていた。
「待たせたか?」
「いや、大丈夫だよ」
「今日もよろしくねー!」
鬼の石切り場のマップは出来上がっているので、真っ直ぐ最奥に向かう。
それまでに立ちはだかるモンスターたちを蹴散らすあたしたち。
バガルは昨日よりも格段に動きが良かった。
ちょっとは吹っ切れたんだろうか?
最後は本来のロック鳥よりは小さいという事で「ロック鳥ハーフ」と呼ばれている巨大な鷲のモンスターを倒してフィニッシュだ。
とは言っても空を飛ばれているので、ほぼ魔法で何とかしたんだけど。
バガルは短剣を投げているだけだったので、あまり手ごたえはなかったかもね。
ボス戦が終了してガザニアちゃんが明日は、輝きの水晶谷だと言った。
「だんだん怖くなくなってきた。あんたたちのおかげだよ。明日が終わったらパーティメンバーを募集して、復帰しようかな」
「それはよかった、頑張ろうな!じゃあ、また明日」
「明日ねー」
あたしとガザニアちゃんは、書城グリモワールに帰り、そしてまた日が昇る。
10月14日。AM08:00。
おはようと声を掛け合い―――珍しく同時に起きた―――身繕いをすませる。
またオリーナさんのオニギリをほおばりながら、輝きの水晶谷へ。
「「「おはよう」」」
「調子はどうだ?覚悟は決まったか?」
「調子はいい、けどまだ気分は良くないな」
「当然の事だろうな………とりあえず、行ってみよう」
「「了解!」」
輝きの水晶谷はまだマップが埋まっていない。
なので、マップを埋めるようにあちこちを歩き回る。
バガルはあまり役に立たなかった。
「あいつはあの時の………」
といって脂汗を流して、動きを止めてしまうのだ。
ガザニアちゃんが𠮟咤激励し、あたしが後頭部をどついて、ようやく動く。
敵の群れが出てきたら、どうするんだよーと思っていたら、出た。
ここで逃げたらバガルの悪夢の追体験だ。
戦って、勝たなきゃいけない。サフランとパプリカも出動!
バガルは固まっているが、逃げないだけマシだろう。
あたしたちはあえて何もしない。バガル自身で動いてもらわないとね。
戦闘はかなりの苦戦だった。
あたしの魔力が切れたのが大きい。仕方ないのであたしも前線に立つ。
「うおおおお!」
同じ盗賊の、しかも女の子が前線に立ったことがきっかけだと思う。
バガルが叫び声を上げて、あたしの前に立った。
強いじゃん!
剣を召喚して、それで戦い始めたのだ。
それは、一流の剣士の技だった。
ガザニアちゃんとバガルとパプリカも前線に出たことによって戦いは安定した。
あたしとサフランは、中衛からチクチクと削っていく―――
戦闘が終わった。
だああ~っと、全員がその場に崩れ落ちる。
ガザニアちゃんがまだ息を整えながら
「どうだ………トラウマは克服できたか?」
「………まだ思う所はあるけど、少なくとももう下請け依頼は出さないと思う」
「そうか………十分だ」
「よかったねー。でもこれ以上遭遇しないうちに早く帰ろうー。気絶しそうだよ」
「ああ、そうだな、急いで帰ろう」
結局2回ほど遭遇したが、あたしたちはバガルと別れ書城グリモワールに帰った。
その後バガルは、ソロの冒険者として名を上げていくことになる。
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