第27話 下請けクエスト?1ー②【語り手:ガーベラ】

 9月16日。AM10:00。


「ああ………これねえ。他の冒険者の下請け依頼だけどそれでよければ受ける?」

 クエスト票を提出したあたしたちにエトリーナさんが言った言葉がそれだった。

「下請け?」

 ガザニアちゃんがピンと来ないらしくて首をかしげる。あたしもだ。

「自分が受けた依頼を、依頼として掲示板に貼りだす事よ。依頼人は自分にしてね」

「そんなことをして儲かるのか?」

「少しはね」

「自分でやった方が得すると思うんだけどなあ」

「下請け依頼出した方にも事情があるからね………」

「そうか………何か事情があるなら、受けるか?ガーベラ」

「普通の依頼とあんまり変わらないね、受けちゃおうか」

「あなた達がいいなら私は処理するだけよ、はい受領印」

 受領印を貰って、あたしたちはカウンターを離れた。


「行くのは輝きの水晶谷だね。ランファンの花かあ」

「何か問題があるのか?」

「幻惑効果のある花粉をまき散らすんだよね。材料買って帰って防毒マスク作った方がいいかも。あ、サフランとパプリカには必要ないよ。鉄だもん」

「なら採取をこのサフランとパプリカに任せるというのは?」

 サフランとパプリカは、特に何も言わなくてもあたしたちに随伴している。

 あたしは生あったかい笑顔になった。

「この2人に戦闘以外での繊細さは期待しちゃダメだよ」

「何?どうなるんだ?」

「引っ掴んでぶちぶちぶちっ、てなる。ハサミとかは教え込まないと使えないよ」

「そうなのか………確かに武器も教え込んで使えるようになったな」

「そーゆーこと。防毒マスクの材料買いに行こうね」


 材料は木と、複数種類の布、たくさんの薬草と魔法の触媒。

 わっさりと買い込んで、あたしたちは書城グリモワールに帰った。

 あたしは早速防毒マスクの作成に入る。

 ガザニアちゃんはオリーナさんと一緒に、晩御飯の支度をするそうだ。

 すっかり料理は、ガザニアちゃんの趣味になっちゃったなあ。

 あたしも覚えておけば役に立つのかもしれないけど、性に合わないのだ。

 だから、晩御飯までには出来上がらないけど、防毒マスクの作成に集中する。


 PM19:00。

 ガザニアちゃんが呼びに来たので、晩御飯を食べに行く。

 夕食はビーフストロガノフだった。

 故郷のシュバルツヴァルトでも、食べた事のある北方料理だ。

「………まだ出て来て1年ほどなのに懐かしい味だね。おいしい」

「そう?よかったわ」

「再現がうまくいって良かった」

「このレシピはガザニアちゃんから貰ったのよ」

「故郷から、料理のレシピを持ち出してきてたんだ」

「そうなんだ。なんだかここで食べると新鮮~」

 3人で談笑しながら懐かしい味を味わった。


 そのあと、あたしは防毒マスクの作成に戻った。

 材料を組み合わせた後は、呪文を唱え―――長いんだ、これ―――ると、防毒マスクがそれっぽい形に出来上がっていく。

 魔道具の不思議だよね、これ。

 防毒マスクを完成させた後は、ベッドに潜り込んで寝た。

 先に寝たガザニアちゃんを起こさないようにそーっとね。


 9月17日 AM08:00。


「………ベラ、ガーベラ!」

 ガザニアちゃんの声で起きるあたし。定番だね。

「今日は輝きの水晶谷に行く日だぞ!起きろ!」

「うにゃーん、昨日は遅かったんだもの、もう少し寝かせて~」

「まあ、確かに頑張っていたな………2時間待つ」

「ありがと~」

 ベッドの上でゴロゴロするあたし。

 ガザニアちゃんは顔を洗いに行ってしまった。


 AM10:00になり、あたしも身繕いを終えてシャキッとした。

「はい、ガザニアちゃんの分の防毒マスク」

「ああ………あの材料で作ったとは思えない出来だな」

「最後に魔法をかけてるもの。立派でしょ?」

「そうだな。びっくりだ」


 さあ、輝きの水晶谷に出発だ!

 町の南東に向かって行進だよー。

 オリーナさんのオニギリを食べながらだけど。


 番人に挨拶してから、輝きの水晶谷に通じるゲートをくぐる。

 まぶしいけど、全てが水晶でできてて綺麗だなぁ。

 でもその水晶の上に花や草が咲いているのは不思議な光景かも。

 遠くには森もあって、メルギス族の人たちはそこに住んでいる。

 今回の目的、ランファンの花はそれとは別方向に咲いている。

 ………と、クエスト票に書いてある。


 ガザニアちゃんが地図ノートを取り出した。

「まだ、輝きの水晶谷には未踏破地域が沢山あるからな」

「今日はこっちの方向を埋めることになりそうだね」

 地図ノートを覗き込んであたし。

「ここのモンスターは手ごわいからな………気合入れていくぞ」

「サフランとパプリカは、戦闘態勢を取らせておくね」


 ここのモンスターは書城グリモワールのモンスターと違い実体がある奴ばっか。

 クリスタルゴーレム、クリスタルビースト、水晶の核を持ったスライム、水晶でできた翼人、水晶の盾を持って呪文を飛ばして来る影人。

 サフランとパプリカより硬い魔物がいないのが救いかな。

 これらの魔物が散発的に襲ってくる中、ランファンの花のありかに近付いていく。

 途中で道に迷ったりもした。方向感覚を狂わせる霧が出ていたから。

 地図でおかしい事に気付いて、何とか抜けたんだ。

 疲れたー!


 疲れた疲れたと(あたしだけ)言いながら、ようやく花園を発見。

 ランファンの花は白い花弁に紫の縁取りがある綺麗な花だ。

 クエスト票によると………要求されてる花の数は30個。

 あたしとガザニアちゃんは、防毒マスクをつけ、手分けして花を摘みだした。

 もちろんサフランとパプリカは「待て」の状態である。


 花は摘んだら、大きな紙袋に入れる。

 帰りの道で花粉をまき散らすわけにもいかないからね。

 けど、異変が起こった。

 どうも花粉をまき散らし過ぎたらしい。

 千鳥足のモンスターの群れが、こっちに向かって来るのだ。

 迎撃の準備だ。


 結論から言うと、あたしとガザニアちゃんの勝ち。

 花粉にやられて千鳥足になっているモンスターなんかにやられるわけないのだ。

 でも、魔力はもう残ってないよー!

 あたしたちはそれ以上の遭遇を避けるために、急いで入口に戻った。

 他のモンスターには遭わずにすんだ。


 その日は一度、書城グリモワールに帰った。

 2人共疲れ切っていたからだ。

「2人とも、酷い顔。お風呂に入って来なさい、晩御飯の準備はしておくから」

「はーい………」「はい」

 あたしたちはオリーナさんの好意に甘えることにした。


 2人でお風呂に入る。

「なあ、ガーベラ」

「何、ガザニアちゃん?」

「あの魔物の群れは何だったんだ?花が呼んだのか?」

「そんなロマンチックなものかなあ。花粉の影響でパーになってただけだよ」

「パーって………お前なあ」

「もしかしなくても、あたしたちが獲物に見えるようになってたみたいだけど」

「そうだろう。あの花の花粉には、そんな作用があるのか?」

「ないよ。花が意識でもしない限り」

「だから花が呼んだのかと言ったんだが」

「さぁ~?この花を研究する人が解明することでしょ?」

「………そうか」


 あたしたちは美味しいご飯を食べて、ゆっくり眠った。

 花の入った袋は部屋の隅で完全封印(袋の折口をロウで閉じた)だ。


 9月18日 AM08:00。


 今日は依頼を受ける気が無いので、平服で冒険者ギルドに向かう。

 オリーナさんのオニギリを食べながら、ギルドに着いた。

 エトリーナさんが空くのを待って、花を提出する。

「開けて確認するなら、はい、防毒マスクをどうぞ」

「ありがとう。確認はしなきゃいけないのよね………」

 ほどなく、確認が済んで、あたしたちは終了印を貰った。


 そして納品したのを確認したかのように、カウンターに近付く男が一人。

 受付から袋を預かって去っていった。

 あれが下請け仕事を出した人かあ。

 まあ、もう関わらないならそれでいいかな。


 あたしたちは書城グリモワールへの帰路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る