第26話 下請けクエスト?1ー①【語り手:ガザニア】

 9月15日。PM18:00。


 私は、オリーナさんから料理を習っていた。

 ちなみにガーベラは部屋で魔導書を読んでいる。

 どうも料理は全く覚える気がないらしい。

「あたしは結婚しないで、次の「あたしたち」に引き継ぐんだし、いいじゃない」

 というのがガーベラの言い分だが………

 「性に合わない」というのが本音だろう。

 私たちは、普通の人間よりはずっと長い生涯(3000~3500年)を生きるので、覚えておいて損はないと思うんだけどな。


 それに私は森に留まらず本家であるオルデノクライム侯爵家の当主になる。

 森にとどまって独身を貫く可能性の高いガーベラの言い分も分かるが、私は子供はできなくても一度くらい結婚するし、こういう事もできた方がいいと思う。

 もっとも、普段は使用人の仕事を奪ってはダメだから、特別な時だけだろうが。

 まあ、まだしばらくは一緒にいるんだ。

 私が覚えて、食べさせてやるのもいいかもしれないと、考えを切り替えた。


 思考に沈みかけた顔を上げると、今日の料理について料理オリーナさんが話している所だった。ちなみに今日のメニューはチキンステーキだ。

 まずい、ちゃんと聞いてないと分からなくなる。

「ガザニアちゃん、ボーっとしてるけど、ちゃんと聞いてた?」

「すみません、もう一回お願いします………」

「チキンの下処理の仕方は………で、特製ソースのレシピは………よ」

「はいっ!メモしました!」

「うふふ、イサナとの訓練じゃあるまいし、固くならないでね」

「は、はい」


 調理はうまくいったと思う。鳥の皮がパリパリにならなくて焦ったが………

 それ以外はレシピの通りにできた。

 出来上がったチキンステーキを、食堂に運ぶ。

「いい匂いがする~」

 ガーベラが、匂いに釣られて部屋から出て来た。

「来たのなら、スープとサラダを運ぶ手伝いをしてくれないか?」

「いいよ~。オリーナさん、手分けしよう」

 3人で賑やかに準備をして、食卓が出来上がる。

 いいものだな、多分この修業時代にしか経験できない………

 いかん、今日は感傷に浸り気味だな。

 さあ、食事だ!


「おいしー。何でチキンのステーキなのにこんなに美味しいのー?」

「それはオリーナさんのレシピがいいからだな」

「ありがとう。ガザニアちゃんはいい生徒よ。ガーベラちゃんはいい子にしてた?」

「いい子で勉強してたよー。最上級魔法の勉強」

「うふふ、最上級魔法はとっても難しいから頑張ってね」

「ほんと、いつ習得できるか分からないぐらい難しいよー」

「覚えるならどれから覚えたい?」

「えっとねえ………」


 和やかに話は続き、私の料理と同じく、オリーナさんがガーベラの師匠である魔法の話題になっている。

 そうそう、一緒に勉強して私も上級魔法を使えるようになった。

 適性があるのは光属性だけだがな。

 ガーベラなどはオリーナさんのおかげで全ての上級魔法をマスターしたのだ。

 でないと昇級試験には受からなかった可能性が高いのだから感謝しないと。


 そう、私たちはシルバーランクになったのだ。

 それで解放されたダンジョンにはもう行ってみた。

 「ラグザの古戦場」と「輝きの水晶谷」だ。新しい修行場にしている。

 

 ラグザの古戦場はいつからか分からない時からフェアリー族が戦争をしている。

 フェアリー族と言っても小人という感じだ。

 羽は生えてないし手のひらサイズでもない。二頭身の小人だ。顔は子供。

 何故か死傷者がほぼ出ない(異様に頑丈で回復力が高い)ので、戦争は終わらない。

 聞くところによると最後の犠牲者は100年前、食あたりによるものだそうだ。

 ラグザの古戦場は彼らにより東の部族エリアと西の部族エリアに分かれている。

 どっちにいようが、流れ弾が飛んできて危ないのが欠点だ。


 輝きの水晶谷は綺麗な所だった。

 エリアのもの全てが綺麗で半透明な水晶でできているのだ。

 水晶が各エリアを階段状につないで、フロアが形成されている。

 今までのダンジョンと違い、メルギス族と呼ばれる住民がいる。

 褐色の肌に独特の刺青をし、ここでは希少な毛皮を持つ獣の皮を纏った人たちだ。

 「先住民に配慮すること」と、ギルドからはきついお達しがあった。

 以前流血の惨事があったらしいが、詳しくは教えて貰えていない。

 だが危険なダンジョンモンスターを間引くことは奨励されているので問題ない。

 メルギス族には、普通の毛皮を持つモンスターを狩ったら、おすそ分けするようにしている。他の冒険者はどうか知らないが、私たちは良好な関係である。


 この二つのダンジョンの様子をオリーナさんに教えたりしつつ、夕食は和やかに終わった。各自夕食後の時間を過ごす。私は食後の片付けだ。

 と、いっても汚れものに片っ端から『キュア』をかけていけばいいだけなのだが。

 ちなみに、光属性にしか魔法適性がない私でも『生活魔法』は使える。

 『キュア(洗浄)』は生活魔法だから使えるわけだ。


 ガーベラは、オリーナさんに魔法の講義を受けている。

 最上級魔法か………どんな魔法があるのか興味があるな。

 今度覗かせてもらおう。


 そして夜は更け―――次の日。


 9月16日。AM08:00。


 朝、私はガーベラを起こしていた。また魔導書の上に寝落ちしている。

「起きろガーベラ!シルバーランクになって初めてクエストを見に行く日だぞ!」

「うにゃーん………あ、また寝落ちした?首が痛いよう」

「まったく………顔を洗いに行くぞ!」

「はーい………よかった、魔導書にヨダレはないや」

「借りものなんだからそれだけはよしてくれ………」


 そう、ガーベラの持っている魔導書の一部は借りものだ。

 持ってるというのは語弊があるな、寝る前にすべて元の位置に戻すからな。

 つまり、書城グリモワールの本なのである。

 元に戻すのと、朝もう一回持って来てもらうのは、オリーナさんが貸してくれた「お手伝いオバケ」という魔道具で自動で持って来てもらうのだが。

 その本にヨダレはよした方がいいと思う。

 ああ………まあ『キュア』で綺麗にできはするのだが。

 本人が写本した本なら問題ないのだがな。

 確か上級魔法の魔導書は全て写本したと言っていたはずだ。


「ガザニアちゃん、これは最上級魔法の書の写本だから大丈夫だよ」

「最上級魔法も写本を始めてたのか………大変だな」

「あたしには、神様の気まぐれで呪文が決まる方が大変だと思う」

「それは、信仰心によって決まるのだから仕方ないだろう」

「属性魔法は自分の好きな物選べるもんね。勉強はいるけど」

「私の使う回復魔法もそれは同じだ。神聖魔法も、個人の切磋琢磨がいるから無条件じゃないんだぞ。私はイサナ殿との訓練の結果、神殿で祈ったら『蘇生』を賜った」

「それすごいよね、死んだ人の蘇りだなんてさ」

「そうそう使う場面が無ければいいと思っている」

「うん、そうだね………顔洗い終わったよ」

「じゃあ部屋で着替えよう」


 着替え終わった私たちは、いつものようにオリーナさんが作ってくれた1人3個のオニギリをお供に、西北にある冒険者ギルドに向かう。

 今日のオニギリの中身は、海苔の佃煮、しゃけ、ウメボシだった。

 いつもの事だがギルドに着くまでに全部食べ切ってしまう。

「しかし、書城グリモワールの御用商人は謎だな。オニギリの中身は大半が東洋の物だと思うのだが………よく仕入れられるな」

「あたしもそれ思った。どうしてるんだろうね」


 などと言っている間に、冒険者ギルドに着いた。

 エトリーナさんは………空いているな。挨拶をしてクエスト掲示板を見に行く。

 シルバーのクエスト票は………これか。

 しばらく二人で票をめくって眺める。

「ガザニアちゃん、これどう?最初としてはお手ごろだけど」

「「ランファンの花」の調達依頼?輝きの水晶谷か………まあいいんじゃないか?」

「じゃあ、詳細を聞きに行こうよ」


 私たちはエトリーナさんのカウンターに向かうのだった。

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