第24話 悪魔の事情?①【語り手:ガザニア】

 8月20日。AM15:00。


 私たちは「イシファンの古森」で訓練していた。

 今の敵はエンシェントウルフ。

 イシファンの古森固有の敵で、普通の狼の3倍もあるものが、群れで襲って来る。


 今回訓練に来たのは、ガーベラがオリーナさんの指導のもと上級魔法をコンプリートしたからだ。30日程で、本当にマスターできたのか?

 ん?ランクアップのクエストならまだ来ていない。待っている状況だ。


「『上級:無属性魔法:物理個人結界 範囲×2』!」

 ガーベラの声が私の耳に届く。

 よし、これで奴らの攻撃のほとんどは無効化される。

 それでも攻撃を避けながら、私はエンシェントウルフを狩っていく。


「『上級:風属性魔法:サンダーフィールド』!」

 ガーベラが敵の後衛を一網打尽にする。ナイスだ。

 ガーベラはオリーナさんに習って、上級魔法をコンプリートしている。

 今は最上級魔法に取り組んでいるようだが、非常に難しいそうだ。

 ともあれ、私は前列のエンシェントウルフを倒しきり、後列の生き残りに向かう。

 その後は作業だった。とどめを刺して回るだけで良かったのだ。


「ガーベラ、上級魔法の攻撃魔法の威力は凄いな」

「あたしも改めてびっくりしてるところ。でも併せてやった魔力増幅訓練が功を奏したのか、あんまり魔力消費が無いのが不思議ー」

「自分で不思議がっててどうする………」

「でもこれ、詠唱に結構かかるから、前衛がいないと成り立たないよ」

「そこは私に任せてくれ。サフランとパプリカもいることだしな」


 そう、今日はサフランとパプリカを連れてこなかったのだ。

 あくまで私たちだけで、どこまでやれるかの訓練だからだ。

「そうだね、ガザニアちゃんだけでもこんなに心強いんだもん。みんながいれば楽勝だよ!あ、エンシェントウルフのドロップ品、回収しなくちゃ!」

「今言う事がそれか?まあ、いつもの事だから回収するが………」


 私たちは普段クエストをしてない時、こうやって稼いでいるのだ。

 エンシェントウルフは毛皮と牙がいい稼ぎになる。

「今日は、またオリーナさんにお香を買っていってあげようか?」

「ああ、今日の稼ぎでそれぐらいはあるしな」

「よっし、じゃあ、冒険者ギルドへ行こ―う!」


 冒険者ギルドに入ると、エトリーナさんが手招きをしている。

「こんにちは、とりあえず買取をしてくれないか?」

「ああ………エンシェントウルフね。ちょっと待ってね………」

 少しの間億に引っ込んでいたエトリーナさんが、お金の袋を持って戻ってきた。

「はいこれ。20匹で金貨10枚よ」

「ありがと!ところで何か用事なの?」

「あなた達のランクアップクエストが出たんだけどね………断ってもいいのよ?」

「何なのか聞くまでは断れないな」

「そうね。端的に言うと相手は悪魔なの―――その排除がクエストよ」

「………悪魔の種類は?」

「分からないわ。鬼の石切り場で、モンスター、冒険者問わずに暴れているの。悪魔だってわかったのは、寸前で逃げた冒険者が瘴気がしたと報告して来たからね。もちろん調査に人も出したけど、結果は同じよ」

「受けて、調べてみてから断る事ってできる?」

「できるけど、ランクアップは白紙に戻ってやり直しよ」

「うーん、それでも受けてみようよガザニアちゃん」

 (悪魔には縁があるし?関わるのがいい事かは分からないけど………)

「そうだな………わかった」

「本当?無理しないでね。期間は1ヶ月よ。期待してるわ」

「わかりました。ガーベラ、取り合えず書城グリモワールに帰ろう」

「はーい。エトリーナさん、またねー!」


♦♦♦


 書城グリモワールに帰ってきて、美味しい夕食をいただいた。

 今日はミートソースパスタとスープとサラダだ。

 本当に、オリーナさんは料理上手だな。


 部屋に帰った私たちは、イザリヤ叔母様と連絡を取る事にした。

 ガーベラと手をつないで、意識を集中すると、頭の中に声が響いてきた。

((どうした、ガザニア、ガーベラ))

 私たちも心の声で応じる。

((悪魔の討伐がランクアップクエストになってしまいました))

((倒しちゃってもいいのか、倒せる相手なのかが知りたいの))

((ふむ、その辺りにいる悪魔は………いた。魔帝庁(役所)からの人界滞在許可を取ってない。魔界的に違法だな。魔女の召喚でもない。倒すというより魔界に叩き返してもらいたいが………戦魔だな。戦いなしには終わらないだろう。下級悪魔の中でも中級寄りだが、倒せない相手ではなかろう))

((話は通じます?))

((勝った後なら通じるだろう))

((何か他に情報ないですかー?))

((そうだな、風属性の悪魔だから地属性で攻撃するのがいいだろう))

((なんで、ここに来たんでしょうね?))

((戦魔領の気候が極端すぎると文句を言ってたそうだから、その辺かもしれんな))

((そうなんですか?))

((今の戦魔領は、火山地帯か凍てつく平原のどっちかだ。凍てつく平原は大分マシになってきているんだが………ダメな者はダメかもしれんな))

((分かりました、記憶しておきます))

((用件は以上か?))

((はい、これで失礼させていただきます))

((またね、イザリヤ叔母様!))


「私たちでも何とかなりそうだな」

「うん、でもポーション類とかの準備は入念に、だね」

「明日は準備に使おう」

「さんせーい。じゃあもう寝ようか」

「ああ、下級戦魔は呪文に弱い事が多い―――上級はまた別物だが―――から、ガーベラが準備万端でないと困る」

「ガザニアちゃんの神聖魔法も通じるでしょー?」

「………言われてみれば。幽霊にしか通じない感覚だったが悪魔にもイケるのか」

「そうだよ、だからガザニアちゃんもゆっくり寝てね」

 そうして私たちは眠りについた―――


 8月21日。PM13:00。


 訓練を終え、お昼ご飯を食べた私たちは、商業区に来ていた。

 MP回復ポーションを20個(二人で持てる限界)買い込む。

 HP回復ポーションは、私の魔法があるから今回はいい。

 お互いに3つづつ持ってるしな。


 目を引いたのは『属性防御の腕輪』だ。風属性の物が欲しい。

 結構高かったが、私たちは稼いでるので問題ない。

 2つ買って、早速装備した。

 買い物はこれ位か?書城グリモワールに帰ろう。


 帰ってきたら、ガーベラが「風属性防御の腕輪」を強化するから貸してと言う。

 普通に貸したが………大丈夫だろうな?


♦♦♦


 そろそろ夕ご飯という頃に、ヘロヘロになったガーベラが戻ってきた。

「えへへ………「風属性防御の腕輪」から「風属性無効化の腕輪」にランクアップ!させたよ。褒めて褒めてー」

「それは………本当に凄いな、よーしよしよし」

「えへへー。何だか小さい頃を思い出すね、ガザニアちゃん」

「お前は私の後ろにいつもくっ付いて来ていたな」

「自分と同じ生き物がガザニアちゃんしかいないと思ってたんだよ。あとで、村人と私もそんなに変わる事はないから大丈夫だって思えたけどね」

「その通りだな、私たちは魔に少し近いだけで、普通の人間と変わらない」

「だよねぇ。さあ、ご飯を食べに行こう!」

「そうだな、ガーベラ。オリーナさんが腕によりをかけて作ってくれてるぞ」

「わーい!」


 こうして対戦魔の準備は整ったのだった。

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