第22話 図書室に花を②【語り手:ガザニア】

6月24日。AM10:00


 本が大量に所蔵されている大広間には、花の海ができていた。

 ここしか入りきらなかったので、オリーナさんに許しを貰って運び込んだのだ。

 中心では、ガーベラがホアホアの花を10本、麻紐でまとめ、怪しい粉をかけて呪文を唱えている。これで50束だな。

「ああっ、もう魔力が限界!」

「なら、トランスファー・メンタルパワーしてやるから頑張れ」

「ガザニアちゃんの鬼ー!精神力より根性が尽きたの!一回休憩!」

「軟弱だぞ………と言いたいが、この数ではな………わかった、休憩だ」

「休憩するならスコーンを焼いたわよー?」

「オリーナさん?どこから聞いてたのー?」

「書城グリモワールでは、あなた達の部屋以外、全部を把握していてよ?」


 本当ですか、と驚きつつ、場所を移動してマフィンを頂くことに。

 机の上で「ふにゃー」とガーベラが溶けている。

 どうも頑張りすぎたようだな。

 クロテッドクリームをたっぷり塗ったスコーンを鼻先に置いてやる。

 すると、あーんと半分を一口にして、リスのように頬張っている。

 こういう時、妹だと思う。可愛いのだ。

 ガーベラは、スコーンを食べ終え、アップルジュースを一気飲みして復活した。


「ああー。半分まで来たけど、何でオリーナさん100個も発注したの!?」

「単に最上階の六階までの図書室が丁度100個だったからよ」

「もしかして6階まで置きに行くのは私たちの役目ですか?」

「5階、6階は単に敵が強くなるだけ。大丈夫だと思う。ボスは今寝てるし………」

「あたしは『エネルギーボルト』と『個人魔法結界』でサポートだね。ガザニアちゃん頑張れ!魔力回復薬は沢山持って行こうね!」

「その前に、花束を完成させてくれなければ、行く事もできんのだが」

「あぅぅぅぅぅ」

 ガーベラがまた溶けた。


 何とか気力を取り戻させたガーベラが、残りの花束も速いピッチで仕上げていく。

 おかげで、夜までには花束は100を数え―――

 ガーベラはあうーあうーと言いながら夕食を平らげたのだった。


 6月25日。AM08:00


 身繕いを済ませた私とガーベラは、伝承に聞く「さんた」の荷物のように袋に入れた花束と丈夫な花瓶を持って、書城グリモワールの制覇に出発した。

 ほこりの積もっている机を掃除しながら、花を設置していく。

 ちなみに花を持っているのがガーベラ、花瓶を持つのが私だ。重い。100個だぞ。

 3階までは敵が出てこないからいいが、4階からは花瓶を放り出しそうになった。

 もちろんちゃんと、後ろに退避させたがな。


 4階ではいつもの戦法でいけたので、新しい技は5階からだ。

 

 5階に辿り着いて、最初の敵に『神聖魔法:ホーリーライト』を試してみた。

 神々しい光が降り注ぎ―――敵は半壊だ。

 この魔法、目くらましにも使えるな………普通の戦闘でも使えるのは良い事だ。

 さて、半壊した所でガーベラが『エネルギーボルト』を打ち込み………全滅だ。


「ガザニアちゃんすっごーい!かなり強力な奇跡だね!」

「あ、ああ。私もびっくりしている」

「半魔でも人造人間でも、気にせずに頑張ってる事へのご褒美だよ」

「そ、そうかな。よせ、照れくさい」

「よーし、じゃあいけいけどんどん!次々行くよー!」

「馬鹿!調子に乗るな!地図を作りながらだ!」

「あっ。それがあったね、あははー」

「あははじゃない、まったく」


 ここ(5階)での一番の障害は蜘蛛だった。

 今回は関係ないのでは、と思うか?

 ところがオリーナさんに掃除もついでに頼まれたので仕方がない。

 私たちにオリーナさんに逆らうことはできそうにないな。


 とにかく蜘蛛だが、物凄く硬かった。

 見た目は銀色で細身だから脆く見えるんだが………脚で剣を受け止められたことで驚いた。ここは私がタンク(壁役)になり、ガーベラに撃破して貰うしかないだろう。

 固いモノには固いモノ。

 『中級:地属性魔法:アイアンスピア』を2回喰らい、蜘蛛は撃沈した。

 その程度で撃沈してくれて良かったよ。


 5階にはボスがいないとのこと、マップを埋めててもそれが裏付けられた。

「全部の部屋を回ったな」

「オリーナさんに聞いた通り、ボスはいなかったね」

「あのー。それなんだけど。6階のボスが目を覚ましちゃったみたい」

「私たちで大丈夫ですか、オリーナさん?」

 にゅっと床から出て来たオリーナさんに、動じない私とガーベラ。

「大丈夫だと思うわ、対戦相手を殺すような子じゃないから」

「それだと負けてるんですが?」

「大丈夫よ、勝てる見込みも結構あると思うわ。最悪、介入するから」

「ボスの部屋を回避して任務を遂行すればどうなんです?」

「出向いてくると思うから、止めた方がいいわ。怒らせない方がいいの」

「………わかりました。何とかやってみます」


 覚悟を決めて、6階に行く。

 ファントムクラスの幽霊がゴロゴロしていて、正直帰りたくなったのだが、新たな   『神聖魔法:ホーリーピュアサークル』は強かった。

 これが効かなかった場合『ホーリーライト』とガーベラで殲滅すれば問題しだ。


 掃除も続行なので、マップを埋めていく………

 正直、魔力回復薬を大量に持ってきて正解だった。魔力をばかすか喰う。

 この階の蜘蛛は、黄金に輝いていた。強度も上がっている。

 先ほどの銀の蜘蛛を倒した時の戦闘スタイルにするしかなさそうだな。

 背中から飛んでくる魔法は若干コワかったが、でも倒せた。


 黄金蜘蛛は、核と(これは他の蜘蛛も落とした)、鋭い脚だ。

 これで武器を作って貰ったら、サフランに装備させるのに丁度よくなるだろう。


 さあ、ボスの部屋だ。慎重に入る。

「おお、あんた達がそうかい?私はイサナ。オリーナに聞いて待っていてやったぞ」

 意外や、6階のボスは、プレートメイルをつけた女騎士だった。

 私の年齢では出せない色香が漂っていて、正直憧れる。

「わぁー。頼りになるお姉さまって感じ。何で書城グリモワールに?」

「以前のボスと相打ちでね。以来縛られているんだ」

「解放されたくないの?」

「消滅は、まだしたくないね。冒険者どもともっと遊んでいたいよ」

「そっかー」

「ああ、あんた達は強そうだ。そろそろ、行くよ!」


 高速で、イサナが動く。その剣を受け止められたのは訓練の賜物だろう。

「ほう?霊体でも切れる剣か!私の剣が切れるかな!?」

 わたしはイサナの剣を受け止めつつ、『ホーリーライト 威力×3』を放つ。

「効く!高ぶるねえ!」

 若干薄くなったものの、イサナは元気そうだ。援護は―――

「『上級:光属性魔法:ルーンアロー 威力×10』!!」

 私を避ける軌道で―――アレンジだろう―――光の刃がイサナに突き刺さる。

「ぐぁっ、こ、これほどの………」

 かなり効いたようだが、ガーベラは魔法は打ち止めだろう。

 ここに来るまでに魔力回復薬は使い切ってしまったのだ。


 そこから先は、激しい剣戟戦となった。引いては打ち、打っては引く。

 激しい攻防に、ガーベラも手が出せないようだ。

 だが、不利なのはイサナさんの方だ。

 彼女は剣も霊体。つまり私の魔法剣で削られる。

 最後には私が彼女の剣を折って―――試合終了となった。


「アッハッハ!カッパーの冒険者と聞いてたのにシルバーより強いじゃないか!」

「そう言って頂けて、光栄です」

「そこの嬢ちゃんも、連発する魔力さえあったら危なかったぜ」

「ありがとー。魔力強化が課題だよぅ」

「オリーナにはアタシから言っといてやる。美味しい飯が待ってるはずだぜ」

「やったー!ガザニアちゃん帰ろ!」

「対戦出来て、幸運でした。それではまたいずれ、お会いしましょう」

「おう!帰れ帰れ。帰りのモンスターにやられるなよ!」

「うっ………気をつけまーす」「お気遣い、痛み入る」


こうして1階に辿り着いた私たちは、美味しい食事にありついたのだった。

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