第20話 謎のうめき声【語り手:ガザニア】

 6月6日 AM06:00


 私は誰かが誰かと談笑する声で目を覚ました。

 この声は―――オリーナさんと、イザリヤ叔母様!?

 慌てて隣のベッドにいるガーベラをゆすり起こす。

「ガーベラ、ガーベラ!イザリヤ叔母様が来てる!」

「ふえ?」

「隣の応接室から聞こえてくる声だ!」

「あ………?ほんとだ………。誕生日祝いかな?」

「………え?誕生日?」

「今日、16歳になる日でしょー?忘れてたの?」

「忘れてた………」

「叔母様は多分、おめでとうを言いに来てくれたんじゃないかなあ?」

「言われてみればそうだ………私は何か至らないことでもあったのかと………」

「ガザニアちゃんは心配性だなあ………」

「と、とりあえず顔を洗って、晴れ着に着替えよう」

「うん、それがいいよね」


 顔を洗って、お揃いの青いドレスに着替える私たち。

 故郷から唯一持って来た、貴族らしいものだ。

 着替えた上で、緊張しつつ応接室の扉をノックする。

「「ガザニアとガーベラです」」

「あら?早いのね、どうぞ」

 オリーナさんの声に従って、扉を開ける。

 オリーナさんはいつも通りだが、ソファに座っている人がいるのが違う。

 そこには20歳代の外見で、暗い緑に金の縁取りがあるドレスに身を包んだ、長い金髪にスカーレットの瞳を持つ美女がいた。

「「イザリヤ叔母様!!」」

「二人とも、誕生日おめでとう」

 両手を広げる叔母様、そこに飛び込む私とガーベラ。

 しばし再会の抱擁だ。


「さあ、2人共、そこに立て。誕生日プレゼントがある」

「「はい(はーい)、叔母様」」

「ガザニアには魔法剣だ。非実体のものも切れる。当然普通の切れ味も保証する」

「ありがとうございます、叔母様!」

「ガーベラには魔法の発動体。サファイアの指輪だ。消費魔力を半分にしてくれる」

「うわぁ、ありがとう、叔母様!」


「うむ、2人共似合っているな。私の用はそれだけだから帰るぞ」

「叔母様ありがとー」「はい、ありがとうございました!」

「ああ、ではまたな」

「はーい、またね!」「はい!」

 イザリヤ叔母様は背後に闇を生み出し、そこに溶け消えるように消えていった。

 書城グリモワールって異次元空間では?

 イザリヤ叔母様にはそんな事、関係ないのかな………


 若干の寂しさを覚えながらリビングのソファに座ると、オリーナさんが

「愛されてるわね。2人の事、とても心配していたわよ」

「愛されているのは幼少の頃から知っています。会えてよかった」

「なんだか故郷に帰ったような気がしたよね」

「そうなのね、私は家族の記憶がないから羨ましいわ」

「え、オリーナさん、生前の記憶がないんですか?」

「そうなのよー。生活の知恵は覚えてるし、困る事はないけどね」

「えーと………」

「ああ、気を使わないで。朝ごはん、持って来るわね」

 オリーナさんは壁を通過して厨房へ行ってしまった。


 それから誕生日は一日、誕生日プレゼントに慣れるための訓練に費やした。

 位置が手頃なので、イシファンの古森に訓練しに行ったのだ。

 夕食まで訓練して、書城グリモワールに帰ると、オリーナさんが豪華な夕食を準備していてくれた。ローストビーフにロブスター。タラモサラダ、コーンポタージュ。

 オリーナさんにお礼を言って頂く。

「語彙が貧困で悪いのですが、凄くおいしかったです」

「あたしもそれしか言えないよー!」

 その後はゆっくり暖かい風呂に入って寝た。

 いい誕生日だったなあ。

 

 6月7日。AM08:00。


「ガーベラ、起きろ。今日はギルドに行く日だぞ!」

「うにゅう………はぁい、起きましたぁ」

 私たちは身繕いをすませ、装備を身につける。

 そしてオリーナさんが用意してくれた、オニギリを持ってゲートを出た。


 ギルドに到着した。エトリーナさんに一礼してクエスト掲示板を見に行く。

 何か目新しいクエストはあるかな………ん?何だガーベラ?

「これ、書城グリモワールに関するクエストだよ」

「何々………書城グリモワールの4階から得体の知れない声がして先に進めない?」

「エトリーナさーん。これ、何?」


「ああ、それ………そのままなんだけどね。声が呪力を帯びているらしくて、物理的に先に進めないらしいわよ。ちなみにクエスト出したのはカッパーの冒険者ね」

「私たちなら元凶に辿り着けるだろうか?」

「さぁー?やってみないことには何ともね………」

「じゃー、やってみるからとりあえず受領印くださーい」

「おいガーベラ、そんな適当な………」

「いいのよ、扱いかねてた案件だし」

「エトリーナさんがそう言うなら………」

 エトリーナさんは受領印を押すと、期限は1ヶ月ね、と言った。長い。


 私とガーベラは、トコトコと書城グリモワールへの帰路についた。

「オリーナさんに聞いてみようよ。何か知ってるかもしれないし」

「まあ、何か知ってはいそうだけど、あの人わりと適当だぞ?」

「そうだねー。でも何もないよりマシじゃん」

「まあ、それはそうだな………」


 書城グリモワールに帰ってきた。

「オリーナさーん?」

 管理人室を覗き込みながら、ガーベラ。ふわっとお香の香りがする。

「はいはーい。早いわね、どうしたの?」

「いえ、実はかくかくしかじかで………」

「あー。誰かあの子を刺激したのね」

「あの子って?」

「4階の資料室に住みついてる子よ。悪い子じゃないんだけど神経質でねー。ちょっと暴走してるだけだと思うから、痛い目を見せれば正気に返るわよ」

「戦闘は避けられないと。ゴーストですか?」

「ファントムっていうゴーストの上位種よ。暴走して強くなってると思うけど」

「取り巻きはいます?」

「ゴーストが集まってるかもねぇ。あ、通行不能の呪力は私が消してあげる」

「わかりました、ありがとうございます」

 

 私とガーベラは管理人室を後にして、自室に入った。何故かと言うと

「サフランとパプリカは役に立ちそうもないから置いていこうね」

「ああ、生命反応がないから標的を散らす役にも立たないし」

「物理攻撃無効だろうから、戦力にもならないしねー」

 ということである。


 という訳で、2人で4階にアタックだ。

 3階のマップはもうできている。

 ゴーストが邪魔をしてきたが軽い戦闘になっただけで4階に辿り着いた。

 ウォォォォォォという声?が階段を上ったあたりから確かに聞こえる………

 いつものようにマッピングする。

 だが、今回はマップを埋めずに、元凶の声の元に真っ直ぐ向かう事にした。


 声が聞こえてくる部屋(資料室)の扉を細く開けて、そーっと覗いてみる。

 すると部屋の奥の壁にべたっと張り付いた、巨大な赤ん坊の頭部が見えた。

 あの後ろは階段だな。

 周囲にはゴーストが舞っている。


(魔法で対応するしかなさそうだね)

(ターンアンデットは視界内すべてが対象だから、ゴーストはどうとでもなる)

(あたしはファントムに『エネルギーボルト』しかないかな)

(私が神聖火炎(セイクリッド・フレイム)で片をつけよう)

(ん。じゃあ今回はあたしが前衛で引き付ける)

(よし、頼んだぞ)


 そういうわけで―――

「こそこそ話止め!とっかーん!」

「不意打ち『神聖魔法:ターンアンデット 威力×2』!!」

 これで、ほぼ全てのゴーストが無力化された。

「『上級:無属性魔法:魔法個人結界 範囲×2』!」

 ファントムは『テラー(恐怖)』の叫びを繰り出して来るが、魔法個人結界に阻まれて私とガーベラには届かない。魔法が切れる前に畳みかける!

「『神聖魔法:神聖火炎 威力×3』!!」

 赤ん坊の顔が歪んで、また叫んだ。今回は衝撃波だ。少しダメージが来た。

「『下級:無属性魔法:エネルギーボルト 威力×10』!!」

 下級呪文でダメージを与えるためとはいえ、ガーベラのやつ思い切ったな。

 おかげでファントムは今の姿を維持できなくなりつつあるが、もう一度衝撃波を放って来た。今度は魔法個人結界が消え、衝撃波をもろに喰らう。

 かなり痛いが―――まだまだ!

「『神聖魔法:神聖火炎×3』!!トドメだ!」

「ORORO-N!!」

 ファントムは消え―――てはいないな、子供ぐらいの小人になり震えている。

 ―――と、タイミングよく壁を抜けてオリーナさんが現れ小人ファントムに言う。

「これに懲りたら、おいたしちゃダメよー?」

 オリーナさんに抱っこされて、泣きながらコクコクと頷くファントム。

「依頼完了、にしていいんでしょうか、オリーナさん?」

「ええ、この分なら当分は大人しいでしょう」

「それならいいんじゃない?依頼完了報告に行かなきゃね」


♦♦♦


「………というわけです、エトリーナさん」

「まあ管理人がそう言うならそれでいいかしら?また調子に乗った時はお願いね?」

「「わかりました」」

「じゃあ、依頼を出したパーティに代わって終了印を押すわね、ぽんっと」

「「ありがとうございます」」


「何とかなったな。あれを完全消滅させるのは気が引けたし………」

「これでいいと思うよ。蛙が鳴くからかーえろ」

「まだカエルのなく季節じゃないぞ?」

「分かってるって」


まあ、何はともあれ書城グリモワールに帰るか………

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