第19話 リザード三強者【語り手:ガーベラ】

 5月20日。AM08:00。


「おっはよー、ガザニアちゃん!………あれ?どしたの?」

「声が頭に響く………少し小声で喋ってくれ」

「んーと、もしかして二日酔いってやつ?」

「生まれて初めて酒を飲んだら、生まれて初めての二日酔いになった………」

「オリーナさんも止めなかったしね。同量を飲んだあたしは平気だけど!」

「もう酒は飲みたくないな………」

「ガザニアちゃんはうちの家から、グリューエン皇国有数のお家(侯爵家)オルデノクライム家へ養子に出るんだから、お酒飲む機会は多いんじゃない?森の中のアーデルベルク家と違って、今から耐性つけておいた方がいいよ」

「仕方ない………が、もうたくさんは飲まないぞ」

「それはいいと思うけど………うん、取り合えず顔洗いに行こ?」

「そうだな………」


 身繕いをおえて、ガザニアちゃんもマシになったみたい。

「今日はイエローとレッドに買ってきた装備をつけさせて、改造も施す日だよ?」

「そうだな………まず全身鎧から行こうか」

 鉄色に戻してあるイエロー(改名:サフラン)とレッド(改名:パプリカ)に、レザーの全身鎧を着せていく。

 サフランは女性型にしてあるので、女性型装備を。

 パプリカは男性型にしてあるので、男性型装備をそれぞれ着せる。

 手甲までつけさせたので、首から上以外は人間の男女に見える。


 そこで、あたしは2人のゴーレムに呪文を重ねがけする形で、人間の顔とよく似た造形を作りこんでいく。ガザニアちゃんは首から上を肌色にする係だ。

 人間っぽくなった所で、あたしが魔術の「合成」で作っていた「瞳」をはめこむ。

 ガザニアちゃんが、ちょっと思案してから、唇と頬に赤みをプラス。ナイス。

 あとは―――髪だ。男性用と女性用のカツラをかぶせ、接着する。

 それにレザーのヘルメットをかぶせ、最後に面頬をつけさせる。


「うん、これでちょっと見ただけなら人間と変わらないね!」

「もし故郷に持って帰れたら、イザリヤ叔母様に疑似魂を入れてもらうか?」

「そうだね、それだと本当に人間みたくなるかも。大事にしようね!」

「戦闘で万が一という事はあるが―――」

「これだけ呪文でいじくりまわしてたら『ディスペル・マジック(魔法解除)』で無に帰す可能性はかなり低いし、鉄の塊を核ごと潰せる相手もそうそう居ないだろうから―――警戒するべきなのは攻撃魔法ぐらいかな」

「お前の『魔法個人結界』で守れば解決だな」

「そうだね。ちょっと魔力喰うけど、あたしの魔力は日々のダンジョンでの訓練でまだまだ伸びてるから、そのうち気にならない程度になるよ」

「そうか、じゃあこのまま、訓練に行くか?敵に実体がないとサフランとパプリカの意味がないから書城グリモワールはダメだな。となると「鬼の石切り場」か?」

「そうだね、実体のあるモンスターしか出ないし、それで行こう!」

 あたしたちは今日一日「鬼の石切り場」で修業しで過ごしたのだった。


5月21日。AM08:00。


 次の日の朝。

「「おはよう、今日は冒険者ギルドに行く日だね(な)」」

 珍しくハモった。大抵どっちかがどっちかを起こすんだけどな。

 ガザニアちゃんがあたしを起こす可能性が高いのは………むにゃむにゃ。


 ベッドから飛び下り、スリッパを履いて、2人で顔を洗いに行く。

 もう五月だから冷水で洗うのが気持ちいいね。

 4月までは温水にしてたけど。


 顔を洗ったら装備を身につけ、身繕い完了!

 書城グリモワール管理人幽霊のオリーナさんに行ってきますを言う。

 すると、ギルドへの道すがら食べる様にとオニギリの包みを貰った。

 最近ではいつものこととはいえ、嬉しいなあ。


 書城グリモワールのゲートを出て、ギルドの方向に歩きだす。

 各ダンジョンから冒険者ギルドは均等に遠い。

 なので、オニギリを食べる暇は十分にある。

 今日は、ツナマヨ、たらこと、おかかだ。あたしはたらこが好き。


 ギルドに辿り着いた。

 フリーだったエトリーナさんにおじぎをしてから、クエスト掲示板を見に行く。

「なにがあるかな………修行に丁度いいやつがいい!」

「同感だな、強いモンスターの退治とか………」

「お、これはどうかな?」

 あたしが取り上げたクエスト票には「リザード三強者」と書いてあった。

 またイシファンの森にアイアンでは対応できないモンスターが出たらしい。

 聞いてみようという事になり、エトリーナさんの所に持って行く。


「ああ、これね………あなたたちなら大丈夫だと思うけど、ただでさえ強いハイリザードが3匹、徒党を組んで冒険者を襲って回っているのよね。ランダムエンカウントなら放っておくんだけど、狙われてるとなれば対処しないわけにもいかなくて」

「狙って来るんだ?イシファンの古森の方に行くカッパーの冒険者は?」

「アイアンと違って、カッパーの冒険者に死人はいないけどやられたわ」

「アイアンには死人が出たの!?」

「全滅こそないけど4パーティに死人が出ているわ」

「あたしたちも気をつけないといけないね」

「ええ、カッパーの冒険者も重傷者は出たから気を付けてね」

「わかった。それを踏まえた上で、このクエストを引き受ける。いいか?ガーベラ」

「いいよ!今までの修行の成果を見せるいい機会だよね!」

「実際あなたたちの能力はもうシルバーに近いと思うわ、よろしくね」

「頑張ります!」「任せてくれ」


 あたしたちは町の東北―――イシファンの森に到着した。

 ちなみに、書城グリモワールはイシファンの森の向かいだったりする。

 おかげで一番馴染み深いダンジョンだ。

 あ………書城グリモワールもダンジョンだったね。

 住んでると忘れるんだよね、最近ではゴーストも出ないし。

 蜘蛛も1階と地下のは単独で軽く撃破できるし。


 さて、あたしたちは例によって地図を取り出す。

 が、今回は敵をおびき出すために深部を巡回するのに使う。

 イシファンの森のモンスターは問題にもならないので、巡回の邪魔ではない。

 巡回していると、手前の茂みから矢が飛んできてサフランに当たった。

 当然サフランは意にも介さない。鉄のボディだもん。

 

 茂みからリザードマンの上位種、ハイリザードが3体出現した。

 普通のリザードマンの倍はありそうな体躯だ。

「SHAAAA!!」

 どうも人語は喋れないっぽいね。ちょっと残念。

 弓を持ったハイリザードが後衛、剣を持ったハイリザードと、槍を持ったハイリザードが前衛に立つ。何気にバランスがいい。

 こちらはガザニアちゃんとパプリカが前衛、サフランが中衛、あたしが後衛だ。

 どうも呪文使いはいないようなので、前衛には『物理個人結界』をかけておく。


 互角で始まった勝負だったけど、徐々にこちらが推し始めた。

 ガザニアちゃんの技量が、敵の剣使いを上回っていたのが大きいと思う。

 あとは『物理個人結界』で、相手の攻撃を一部無視できたのも大きい。

 そして戦局が大きく変わったのは、あたしの呪文が完成してからだ。

「『上級:無属性魔法:インパルス』!!」

 『インパルス』は強烈な衝撃波を敵全体に放つ術。

 これで敵は吹っ飛んで大きく態勢を崩した。

 すかさず追撃するガザニアちゃん、とあたしが追撃指示したサフランとパプリカ。

 これで、剣使いの首が文字通り落とされた。

 逃げようとする弓使いと槍使い。ふふーん、そうはいかないんだな。

「『下級:無属性魔法:スネア(括り罠)』×2」

 対象をすっ転ばせる魔法だ。こういう時には超有効。

 飛び掛かったガザニアちゃんが槍使いの首級をあげ、パプリカがやや遅れて弓使いの首級をあげた。3つの首はグロイけど証明のためだから仕方ない。

 3つの首と、こいつらの装備を頭陀袋に放り込んだものを、パプリカがかつぐ。


 あたしたちは、イシファンの森から出て、冒険者ギルドに向かう。

「サフランとパプリカは意図通り機能してるね」

「そうだな。いまは指示が必要な事も、自己判断できるようになっていくだろう」

「壊されないように気をつけないとなあ」

「いずれ疑似魂を封入する予定なんだから、当然だな」


 冒険者ギルドでは、エトリーナさんが空くのを待って首を渡した。

 さすがエトリーナさん。他の冒険者はギョッとしてるのに、首にひるまない。

「確かにハイリザードね。装備の方は買い取るわね」

 あたしたちは終了印と、報酬と、装備売却報酬を得た。


「今回は、修行の成果が出て良かったな」

「次はちょっと違う依頼にしたいけどね」

「そうか?ガーベラがそう言うならそうしよう」


 そうして、あたしたちは書城グリモワールに帰るのだった。

 温かいご飯が待っている。

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