第18話 ビッグな「くま」退治【語り手:ガザニア】
5月9日。PM13:00。
「はっ!はっ!はっ!」
がつん、がごっ、ぐしゃっ!
私の、最近新しく買ったモーニングスターがいい音を立てる。
ガン、ゴン、バン!
叩きつけるような刃の構造の、イエローの戦斧もなかなかだ。
お互いにフォローし合えるので、連携も様になってきているのだろう。
アイアンゴーレムだとは到底思えない学習能力だ。
ちなみに、戦っている相手もゴーレムだ。こっちはロックゴーレムだがな。
後ろから、イエローの槍と、ガーベラの援護が来る。
ガーベラの援護は『ウィークポイント』の呪文だ。
これは模擬戦なので『ウィークポイント』の呪文のタイミングは遅めにしてある。
とはいえ、支援を受けた私は、レッドより早くロックゴーレムを倒す。
ゴーレムに『ウィークポイント』の支援はいるか?
答えは精神に作用する魔法が効かないので無駄だからいらない、だ。
よって、イエローとレッドの2人がかりでも、私より倒す速度は遅くなる。
こういう敵が出た時は、とどめは私がさした方が良さそうだな。
「お疲れ様、ガザニアちゃん」
「大した事はない。ロックゴーレム3体での模擬戦に移ろう」
「了解。前衛にイエローも加えて、あたしが後衛だね」
そう確認を取って、ガーベラは『クリエイトゴーレム×3』を唱える。
アイアンゴーレムを作るより負担は軽いらしく、ガーベラは余裕の表情だ。
まず今回は初手から『ウィークポイント』が飛ぶ。
支援を受けて、私はロックゴーレムを3回殴っただけで倒した。
次にイエローが相手しているロックゴーレムに『ウィークポイント』がかかった。
それも私が横から割り込む形で倒す。
イエローの槍ではロックゴーレムを傷つけるのが精いっぱいだったのだ。
レッドは善戦している。
『ウィークポイント』で核の場所が見えていれば、もう倒しているのだろうが。
そこまで期待するわけにはいかない。私がとどめを刺した。
「ふう、今日はこんな所か」
「今度、例の資材屋さんでアイアンゴーレムの材料の鉄を買いに行こうよ」
「アイアンゴーレム相手に模擬戦か?ふむ、確かに強敵とも戦った方がいいな」
「でしょ?ダンジョンで出ないとは限らないんだし」
「そうだな、その通りだ。対策は立てておくべきだろう」
そんな会話のあとは、武装を解いて、魔導書を読んで過ごす。
ガーベラはまた上級呪文を覚えたらしい。
何でも『上級:水属性魔法:ブリザード』という広範囲魔法と、『上級:風属性魔法:轟雷』という対個人に威力の高い攻撃を落とす魔法なんだとか。
ちなみに私は『治癒魔法:大回復』と『治癒魔法:範囲回復』を覚えた。
神聖魔法は、今までと変わらない。託宣が下りてきてないからな。
それにしても、この環境は本当に勉強にぴったりだな。
5月10日。AM08:00。
「起きろ、ガーベラ。今日はギルドに行く日だぞ」
「うーん、起きてるよぉ。まだ眠いけどねー」
「顔を洗ったらしゃきっとする。顔を洗いに行くぞ」
「はーい」
顔を洗った私たちは、いつものごとく身繕いをして、出かける準備を整えた。
オリーナさんが朝食にオニギリの包みをくれたので、有難く受け取る。
例のごとく、食べながら歩いていく。
だが、イエローとレッドがやはり目立っている。
まあ、素のままの状態より面頬をかぶった今の格好の方がマシだが。
「ねえ、ガザニアちゃん。2人はやっぱり鉄の色に戻さない?いつまでたっても違和感があってさ………全身タイツの人みたいで。」
「ガーベラがそうしたいのなら、そうしよう。見分けは面頬を見ればいい」
「体型もイエローは女性型、レッドは男性型にするよ。見分けつきやすいでしょ?」
「ああ………なるほど。あとはカツラをかぶせるか」
「いいね!となると名前も考えないとなあ」
「まあ、諸々は今回受ける依頼を終わらせてからにしよう」
「おっけー。じゃあ早いところ冒険者ギルドへ行こー!」
♦♦♦
冒険者ギルドに着くと、エトリーナさんは対応中だったので挨拶せずにクエスト掲示板を見に行く。何があるだろうか?
ひょいっとめくった他の依頼の下に、その依頼はあった。
「ビッグくま出現中!」
「ガーベラ、これ………」
「ええっ!くま!?」
「イシファンの森で、アイアンでは太刀打ちできない「くま」が出現するらしい」
「あの「くま」じゃないよねえ………?」
「もし、あの「くま」だとしてもだ。わたしたちは、あの恐怖を乗り越えるべきだ」
「う、うん。それはわかるけど………」
「わかるなら「けど」というな。このクエスト、受けるぞ!」
「そ、そうだよね………!わかったよガザニアちゃん!」
勢いに任せてカウンターに向かい、エトリーナさんが手が離せないようだったので、初めて他の職員(男性)に受領印を貰った。
「普通の5倍はある熊です。普通サイズの熊を2頭連れているそうです」
「シュバルツヴァルトの「くま」よりマシだな」
「うん、ちょっと安心した………」
「安心しないで下さい。気を付けて下さいよ?」
「はーい」「はい」
イシファンの森についた。
今日はコボルドの時と同じように、しらみつぶしにエリアを回っていく。
「ビックくま」が出没するエリアが定まっていないのがその理由だ。
探していると、スライムや狼、数は少ないがコボルドに遭遇するが、今の私たちなら一蹴できる脅威度だ。自分たちの成長を実感する。
奥まった一角に入った時だ。
殺気!
ガーベラも感じ取ったようで、殺気の発生源から距離を取る。
「イエローとレッド!戦闘準備!」
ガーベラに言われて、アイアンゴーレムたちも動き出す。
そして、森の奥から現れたのは、普通の5倍、いや控えめに言って6倍はある「ビッグくま」だった。小さめに伝わっていたのか。
しかし、シュバルツヴァルトの「くま」よりマシだろう。
「ビッグくま」は「普通のくま」を2匹連れていた。
「イエローとレッド。1匹づつ、大きなモンスターの両脇のモンスターを担当!」
イエローとレッドが動き出す。私も動いて「ビッグくま」の前に立つ。
意識を剣に集中させると、残っていた恐怖心が無くなっていくのを感じる。
大丈夫、倒せる相手だ。
戦闘は、イエローとレッドは優勢、私がやや劣勢で始まった。
「ビッグくま」は驚くほど速く、手数も多かった。
爪爪牙の猛攻に、私は受けに回ってしまっていた。
そこをガーベラの呪文が助けてくれた。
新たに覚えたと言っていた上級呪文「轟雷」だ。
まるで天然の雷のように降ってきたそれを受けて「ビッグくま」が棒立ちになる。
そこを狙って私は首に剣を振り下ろした。
信じられないことに「ビッグくま」は首を半ばまで切られても戦闘を続行した。
心臓に剣を突き立て、頭蓋をモーニングスターで砕きようやく止まったのである。
すさまじい生命力だった。
シュバルツヴァルトの「くま」もこうなのだろうか?
あの時万が一にも戦ってなくて本当に良かった。
確実にこちらが死んでいただろうからな。
「ビッグくま」の首を討伐の証拠として頭陀袋に入れた私たちは、帰路についた。
冒険者ギルドに帰って、男性の受付にそれを見せる。
男性は、予想以上の大きさに絶句していたが、立ち直って終了印をくれた。
「これで、森に帰る時「くま」にあっても大丈夫だな」
「どうだろう………?あれは次元が違う気がするんだけどー?」
そんな事を言いながら、帰りに資材屋に寄った。
前回と同じく魔力が空になるまでアイアンゴーレムを作る羽目になりながらも、アイアンゴーレムを作る材料を無料で手に入れたのだった。
私たちの魔力が向上していた分、資材屋は得をしたな。
さあ、書城グリモワールに帰ろう。
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