第17話 モフモフの大群【語り手:ガーベラ】
4月24日。PM12:00。
「はっ!はっ!はっ!」
がつっ!がつっ!がつっ!
「ダメだ!ウッドゴーレムならともかく、ストーンゴーレムに刃は通らない!」
「これならどう?ガザニアちゃん。『下級:無属性魔法:ウィークポイント』」
「おお………核が見える。あそこを割れば!」
ばきいっ!ずむっ!
あたしの作ったストーンゴーレムは石くれになった。
「協力ありがとう、ガザニアちゃん。聞きたいんだけど、これがアイアンゴーレムだったらどうしてた?」
「剣では無理だ!光魔法か神聖魔法で何とかしてた」
「でしょー?あたしたち前衛が足りないからさ、ちょっと出費しても良くない?」
「鉄か?」
「うん、そう。資材屋さんでさ、人間2人分ぐらいの鉄。金貨15枚ぐらい」
「そんなに高くはないな………前衛が増えるのは有難いし………」
「2体作って、片方には槍を持たせて中衛。あたしが中衛と後衛兼ねて………」
「………うん、なるほど。いいな。買おう、鉄」
♦♦♦
さっきの様なやり取りをし、あたしたちは商業区外れの資材屋さんにやってきた。
なんで外れなのかと言うと、売れないからではない、資材はかさ張るからだ。
「アイアンゴーレムの材料として、鉄が欲しいんです。上等なものじゃなくて構いません。鉄の部分だけ抜き出して結合しますから不純物があっても大丈夫」
「ええ!?そりゃ本当かい、お嬢ちゃん。一度ゴーレムにして解除したら鉄100%が残るのかい?」
あ………うん、そういうことになるねえ。
あたしが頷くと
「もし、それやってもらえるなら、料金はタダでもいいぜ!」
「えーと、ガザニアちゃん、どうしよう?」
「店主、膨大な量とかではないのだろうな?」
「そんなに多くはない………と言っても小山にはなってるな」
「では、ガーベラの魔力と、魔力を供給する私の魔力が尽きるまで、ということで」
「どれぐらい持つんだい?」
「んーと、人間大のゴーレム2体+8体+10体で………人間18人分ってところです」
「それなら、代金払ってもらうよりは得だな!頼んだ!」
「はぁーい」
案内された鉄置き場で、あたしはくず鉄に魔法をかける。
「(事前準備の呪文)『上級:地属性魔法:アイアンゴーレム×2』!」
まず、人型2体が現れる。これは呪文にアレンジを入れて、球体関節人形のように作りこんだもの。滑らかな動きが期待できる。これはあたしたちの。
ついで、8体の、不格好なマネキンみたいなアイアンゴーレムを作る。
不純物は落とせてるからこれでいいと思う。
あたしが『分解せよ』と言ったら、純粋な鉄になってゴロゴロと転がった。
あとは『トランスファー・メンタルパワー』で魔力供給を受けて10体作った。
それももちろん分解する。代金の支払いはこれで終わり。
「また来いよー」
ご機嫌な資材屋さんのご主人。
おかげで、あたしとガザニアちゃんはへとへとだよぅ。
作ったゴーレムは命令に従ってついてくるから、持たなくていいのが救いかな。
魔力回復のポーションを飲んで、少し回復した。
「これ、前衛と中衛の見分けをどうやってつける?武器だけだと分かりにくいぞ」
「あ………武器もいるよね。槍と斧でどう?で、見分けるには色を塗ろうよ」
「ジェニー商会に寄って行こう。色は『生活魔法:ダイ』でつけるか?」
「そうだね。色は………何色にする?」
「目立った方がいいからな………赤と黄色かな?」
「うわ。非戦闘時は魔術師のローブでもかぶせておかないと悪目立ちするよ」
「もちろん普段は隠すつもりだ」
その後回復した魔力で2体を染めた、派手だなあ。
それからジェニー商会で斧と槍と灰色のローブを手に入れた。
4月26日。AM08:00。
「ガーベラ、起きろ。今日はギルドに行く日だぞ」
「うにゃあ~。そうだったね。イエローとレッドも連れていく?」
「昨日一日である程度連携を覚え込ませた。邪魔にはならないだろう」
「じゃあ、そういうことで」
ちなみにイエローとレッドは一応、名前。
分かりやすさ重視という事でつけられたので、こういう酷い名前なのだ。
ゴーレムに感情はないからいいんだけど、でなければ抗議されそう。
ちなみに斧を持つのがレッドで、槍を持つのがイエローね。
あたしたちは身繕いを済ませ、オリーナさんにお弁当を貰って、ゲートを出た。
お弁当を食べながら冒険者ギルドへ向かうんだけど………
ローブからのぞくゴーレムの顔に、みんなギョッとするんだよね。
うん、のっぺらぼうだからね、仕方ないよね。
「ガザニアちゃん、今日は帰りにジェニー商会で仮面を買って帰ろう」
「ああ、激しく同意だ。なにやら恥ずかしい」
冒険者ギルドへ着いた。エトリーナさんに挨拶してクエスト掲示板を見に行く。
今回は、戦闘できて、この2人?の性能をチェックできるのがいいよね。
どれがいいかなーっと………これはどうかな?
「増えすぎたイシファンの森のコボルドを間引いて下さい」
「どう思う、ガザニアちゃん」
「良いんじゃないか?この2人?がいなくても確実に勝てる見込みがあるし、性能チェックには丁度良さそうに思う」
「OK、じゃあこれね。エトリーナさーん」
エトリーナさんが空いているのを確かめてカウンターへ。
「ああ、これね………魔法を使って来る個体もいるそうだから油断しないでね」
「はーい」「分かりました」
「ところで………その人?たちは………その、何なの?」
「アイアンゴーレムに着色したものです」
「前衛不足の解消に作ったの」
「ああ………なるほど。斬新な発想ね………」
「今日が実戦デビューです」
「そう、頑張ってね」
エトリーナさん、引きつっていたけど最後は平常心だったな、さすが。
あたしたちは、ちょっと痛い視線を浴びながら、イシファンの森へ到着した。
「イシファンの森はもう庭だよね。しらみつぶしに撃破していこう」
コボルドは、2頭身でもこもこの、ちょっと可愛いモンスターだ。
「討伐した証に、尻尾を切り取って持って行くのを忘れずにな」
「抜け毛でべったりになりそうだね」
「考えが及ばなかったが、確かに」
コボルドの討伐は順調だった。
連携もうまくいき、戦闘の中で動きを修正する命令を飛ばせたほどだ。
ガザニアちゃんの突き一発で、的確にコボルドの心臓が穿たれる。
その横から攻撃しようとしていたコボルドを、レッドが薙ぎ払う。
アイアンゴーレムだけあって、単純な力だけならレッドが上だね。
技量も、これから学んで行けば、結構な戦士になるかもしれない。
さて、最後のフロアだ。
「今まで魔法使いはいなかったから、ここで出てくると思った方がいいね」
「ああ、気をつけよう」
「先に魔法をかけておくよ『上級:無属性魔法:魔法個人結界×2』」
「よし、突入だ!」
そこには、30匹ぐらいのコボルドが隊列を組んで待機していた。
高い切り株に乗った、杖を持ったコボルドが、杖をふりふり命令を下している。
『中級:火属性魔法:ファイアーボール』が飛んできた。
下級の魔法しか飛んで来ないと思ってたからびっくりだよ!
でも上級の結界があるあたしたちと、体が鉄な2人には通じないんだな。
あたしは短剣に『エンチャントウェポン(威力増大)』をかけて頭を狙う。
クリティカルヒット!
短剣は、多分本人も自覚がないままに魔法使いコボルドを殺した。
さあ、後は掃討戦だね。
♦♦♦
PM07:00。なんだかんだ言って、数が多くて掃討するのは大変だった。
指導者を失って逃げるコボルドを追いかけるのは大変だったのだ。
なので、結構遅くなってしまった。
ギルドはまだ営業しているので、大量のコボルドの尻尾を抱えて受付へ。
「狩ってきました~」
「あらあら、大量ね」
「全ての区画を、回って来ましたので」
「ありがとう。これで大繁殖は抑えられるでしょう。尻尾は預かるわ、次にギルドに来た時に報酬を渡すから、忘れないでね。はい、終了印」
ギルドを出たあたしたちは、ジェニー商会に向かった。
すぐに店員さんがこちらに向かって来る。
事情を話した案内役のお姉さんは、終始にこやかだった。
プロだなあ………などと思いつつ、お姉さんの提案を聞く。
戦闘するなら、普通の仮面より、戦士の面頬はどうかと言われた。
顔全体を覆うものと部分を覆うものがあるけど、今回は前者だね。
「うん、いいんじゃないかな。イエローとレッドも、顔だけ肌色に変えといたらちょっと見た感じじゃ分からないよ、きっと」
「面頬か………オリエンタルだな。だけど格好良くて良さげだ」
「イエローとレッドは、戦闘中はローブを脱いでるから間抜けだけどね」
「それを言うなよ………部分鎧でも装備させて雰囲気出すか?」
「本体の方が頑丈だから、意味ないと思う」
「そうだな………」
結局、あたしたちは面頬を購入し、イエローとレッドに装着させたのだった。
さあ、お家に帰ろう!
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