第15話 はじめてのワイバーン退治【語り手:ガーベラ】

 3月15日。PM13:00。


 書城グリモワールの中庭にて。

「やった『上級:無属性魔法:テレポート』の実験成功!」

 中庭の端から端までテレポートできたのだ。

「次はー、そうだなあ、あたしたちの部屋に『テレポート』!」


「ふぎゃ!」

 ん?ふぎゃ?部屋の中を見る限りあたしたちの部屋で間違いないはずだけど………

「あっ、ガザニアちゃんのベッドだ!」

 そう、ガザニアちゃんを下敷きにしていたようなのである。

「ちょっとしたズレだね、失敗失敗」

「何が失敗失敗だ。鎧を磨いていたら、急にお前が降って来たんだぞ」

「そういうのは、ベッドの上でやらない方がいいと思うの」

「………今後床の上でやる。何なんだ、温かくなってきたからと中庭に行ったと思ったらこれは?テレポートの呪文か?それともアポートの失敗か?」

「テレポートで、ちょっと位置がずれちゃっただけでーす」

「テレポートは精密にやらないと、石の中に転移したりするんだぞ?」

「それは、防止術式を呪文に組み込んだから大丈夫だよ」

「それで、私の上か。はあ」

「あははー。中庭に戻って、もう一回実験するね」

「もう私の上に降るなよ?」

 あたしはごまかすように『テレポート』で中庭に戻った。

 これはうまくいった。


 魔力切れになるまで部屋と中庭を往復していたら、コントロールは完璧になった!

 ちょっと、床に移動してたガザニアちゃんの鎧を踏んづけたりしたけど………

 ………誤差の範囲内だよね?


 PM18:00。夕食。今日はオムライスだ。大好物!

 それと、コーンスープとサラダだね。コーンスープも好き。

 野菜はまあまあ。でもオリーナさんの特製ドレッシングでいくらでもイケちゃう。

「あー。ここに引っ越してきて良かったぁ」

「わたしも面倒の見がいのある入居者さんが来てくれて嬉しいわ」

「他の入居者は食べようとしなかったんでしょ?それって絶対損してる!」

「私も同意する」

「うふふ、ありがとう」


 食事が終わったらリビングで勉強だ。もっと上級呪文を習得したい。

 『インパルス』はこの前習得したから、攻撃魔法以外………

 『クリエイト・ゴーレム』とかどうかな!?中庭で練習できるし。

 ガザニアちゃんに聞くと、壁が増えるのは賛成だということなので、決まり。

 あたしは早速、寝るまでの時間を利用して呪文式を読み解いていった。


「そういえば、ガザニアちゃんは上級魔法覚えたの?」

「うむ『上級:光属性魔法:ルーンバリアー』を習得した。個人結界系と合わせると強いぞ。魔・物理両方に効果があるからな。あとは治癒魔法をいくつか」

「練習してる姿を見かけなかったよ?」

「1Fにある大広間を利用している。あそこは本が無くてがらんどうだろう?」

「ああ、なるほどねー。時々ガザニアちゃんが行方不明になるわけだよ」

「大広間に来れば、大抵会えると思うぞ………そろそろ寝るか」

「うん、わかった………そうだね、寝ようか」

 あたしたちは、本を閉じて寝室に行き、眠りについた。


3月16日。AM08:00。


「今日はギルドに行こうか」

 起き抜けのガザニアちゃんの台詞で、今日の行動が決まった。

 でも、なにはともあれまず朝食だ。

 今日の朝食は、ミルクスープとフレンチトースト。

 甘い香りがたまらない!

 大盛りであったけど、あたしとガザニアちゃんは全部ペロッと食べきった。

「足りなかったかしらー?」

「「大丈夫、お腹いっぱいです」」

 あたしたちは、昼食にとオニギリの包みを貰った。やったね!


 書城グリモワールのゲートをくぐり、冒険者ギルドへ。

 ここの唯一の欠点はギルドに遠い事だけど、ダンジョンはすべてギルドから遠いらしいので仕方がない所だ。散歩だと思えばいいよね。


 冒険者ギルドに着くと、エトリーナさんに挨拶してクエスト掲示板を見に行く。

 あたしとガザニアちゃんは一つの依頼を同時に手に取った。

「ワイバーンの駆除………こんなのカッパーの冒険者がやって良いのか?」

「でも自信はあるよね?」

「ああ………エトリーナさんに聞いてみよう」


 カウンターにワイバーン駆除のクエストを持って行く。

「ああ、これね………反対意見も出たんだけど、カッパーの冒険者にも機会を与えるべきだろうって、ギルドマスターが言って。それで決まったの。それにワイバーンはまだ1頭だしね。群れを呼びに行かれる前に片付けたいのよ」

「そうか………なら、これを受けたい」

「分かったわ。あなたたちなら大丈夫でしょう。受領印よ」

「ササっと片付けて帰ってくるねー!」


 あたしたちはカウンターを離れて相談タイムだ。

「ダンジョンは「鬼の石切り場」初見のダンジョンだな」

「ワイバーンは中層あたりにいるんだね。動いてるかもしれないけど」

「巣を作るのは仲間が来てからだろうし………だが巨体だ。すぐ見つかる」

「そうだね、用心しながら向かおう!」

「ダンジョンのモンスターにも気を付けるんだぞ」


 町の西南の端に鬼の石切り場はあった。

 はじめてゲート横に歩哨の立っているダンジョンに来た。なんか新鮮。

 カッパーの認識票を見せて通してもらう。


 鬼の石切り場は、石の大地に巨石がゴロゴロ転がってる野外のダンジョンだった。

 巨大な彫像や、環状列石、石の鳥居なんかも見える。

 区画ごとに巨石で仕切られていて、マップは作りやすそうだね。

 なんて、マップ作るのはあたしじゃなくて、ガザニアちゃんだけどね!あはは。


 取り合えず中層辺りに向けて進んでいくと、豚頭の怪物―――オークが出た。

 正直イシファンの古森のモンスターに比べると、ぬるい。

 物理だけで、簡単に勝つことができた。

 困ったのは、石でできた犬の群れだ。

 刃が通らないので、魔法で倒すしかない。

「こんな所で、魔力消費したくないよー」

「魔力回復のポーションを飲んでおけ、私も飲む」

「これ使ったの初めてだよね?ちゃんと買い足しておかないとなあ」

「今度はメイスを用意してこないといけないな」

 愚痴を言いつつ、攻撃力は大した事のなかった石犬を撃破した。


 そして中層にワイバーンがいなかったので、周辺を探し回っていると。

「GYUOOOO-N!!」

 隣の区画で咆哮と、翼を動かすバッサバッサという音が聞こえた。

「近くにいたようだな!行くぞ、ガーベラ!!」

「ほいさっさー!」

「何だ、その返事は………」


 そんな事を言いながら、隣のエリアに到着。

 ゴロゴロ岩が転がる中心、ひときわ大きい岩の上にワイバーンがいた。

 岩の上にいられちゃ、物理攻撃が当たらない。取り合えず魔法だ!

「『下級:光属性魔法:ライトアロー』!!」

「『上級:無属性魔法:インパルス』!!」

 それから何度か魔法攻撃をしていると、ワイバーンは距離を詰めるために岩の上から下りて、こっちに突進してきた。

「『物理個人結界×2』!」

 あたしは2人に同時に魔法をかけた。結構難しいんだよ、これ?

「ガーベラ!ワイバーンの弱点は長い首だ!切り落とすぞ!」

「合点!」


 そうは言っても、なかなか切り落とすなんてことはできない。

 無数の傷が―――深手もあった―――ワイバーンの首についていく。

 巨体だけあって、失血死なんてものは期待しない方が良さそうだ。

「このままじゃ夜が明けちゃうよ!あたしが囮になる!ガザニアちゃんよろしく!」

 あたしはワイバーンの正面に立ちふさがり、短剣で目を狙う。

 軽い傷だったけど、場所が場所だけに痛かったようだ。

 ガザニアちゃんのことは意識の外にいったみたい。


「はぁああああ!!」

 ガザニアちゃんの鋭い気合の声。

 それと共にずばっという音が聞こえ、目の前のワイバーンの顔が沈んでいった。

 ずずぅんという音を立てて、ワイバーンの首が落ち、胴体が転げたのだ。

「やったあ!」

「だな。ドロップしたのは………核とワイバーンの角か。デカい角だな………」

「あたしの短剣みたいに、角は剣に加工してもらえば?」

「それもいいな………じゃあ帰ろうか」

「帰りに遭遇するモンスターがいないといいねー」

 もちろんそんな訳はなく、モンスターを退けながら帰るのだった。


 ギルドに帰るとエトリーナさんが笑顔で迎えてくれた。

「その角は、ワイバーンね!おめでとう!剣に加工する?」

「ありがとう。お願いします」

「核は買い取るわね」

 他のモンスターの分も合わせて、手持ちはそれなりの金額になった。

 今の手持ちは金貨40枚ぐらいかな。


 ギルドを出ると、ガザニアちゃんが言った。

「今回の報酬で、オリーナさんに何かお礼がしたいな」

「賛成。だけど幽霊だからねえ。何がいいかこっそり探ろう」

「そうだな、今日は帰るか!」

「帰りましょー!」


 あたしたちは、書城グリモワールの方角に向けて歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る