第14話 お喋りする花【語り手:ガザニア】
3月1日。AM09:00。
美味しい。
その日の朝食に、まず抱いた感想はそれだった。
もちろん、オリーナさんの作ってくれた朝食である。
私たちはなんていい家主を持ったのだろう。
具だくさんのミネストローネに、外はカリッと、中はふんわりのパン。
たっぷりのバターは自家製だと言っていた。
田舎貴族であるとはいえ、貴族である実家と比べても遜色ない朝食だ。
「オリーナさん、おかわりー!」
気持ちは私と一緒らしく、満面の笑みでお代わりをする
「オリーナさん、私もお代わりを」
「はいはい、そんなに美味しいかしら?私はいい入居者を持ったわね!」
「誰でもこうなると思いますが?」
「それがダメなのよ。幽霊の作った物なんてって言われちゃってねえ」
「ここに住んでくれる人でも駄目だったのー?」
「そうなのよ。ここに住んでるのは家賃がタダだからで、お金がたまったら引っ越すっていう人ばっかりでね。根性無いわよねえ」
「根性無いねー」「私もそう思う」
「だから、あなた達が来てくれてとっても嬉しいわ。久しぶりに腕がふるえるもの」
「わたしたちの方こそ、無償でここまで………できることがあれば何でもやります」
「そうだよ。何でも言ってね!」
「そうねー。もっとレベルが上がったら上階のお掃除をお願いするかも」
「レベルが上がらなきゃダメな区域なんだ!?」
「そうなのよー。それまでは1階と地下階のお掃除をお願いするわ」
「それならどうにでもなるね!」
「そうだなガーベラ。喜んでやります!」
「あらあら、あなたたちって、本当にいい娘ねぇ」
その後しばし黙々と食事が続いた。
「ふぃー。お腹いっぱい。ガザニアちゃん、今日はイシファンの古森?」
イシファンの古森は、イシファンの森の奥にあるダンジョンだ。
しばし、調査の手が入っており、解放されていなかったのだが………
ちょうど、私たちがカッパーに上がると同時にカッパーからの開放が告げられた。
なので、丁度いいとばかりに、技量を上げるのに使用していた。
モンスターも、今の私たちだと強すぎず弱すぎずで、丁度良かったのだ。
だがちょっとマンネリになってきたな。
「今日は、久しぶりにクエストを受けに行こうと思うんだがいいか?」
「あ!いいね。どんなクエストがあるのかな!」
「確か、アイアンの頃よりたくさんあったな。食事が終わったから準備しよう」
「うん、ごちそうさまでした、オリーナさん」
「本当にごちそうさまでした」
「いいのよ。はいこれ、昼食のおにぎり」
「「ありがとうございます」」
用意をして、書城グリモワールから出て、町の西北へ。
気にしてなかったので記してなかったが、ギルドまでは結構遠いのだ。
書城グリモワールは町の東北にあるからな。
ギルドに着いて、2人でクエスト掲示板を見に行く。
カッパーの掲示板には多彩な依頼が出ていた。
色々見ていたが、ガーベラが一つの依頼を取り上げた。
「ガザニアちゃん、いきなり知らないダンジョンでのクエストは怖いから、これなんかどうかな?イシファンの古森で喋る花の採取だって!」
「花が喋る?知性があるのか?イシファンの古森の未踏破地域か?」
「うん、そうみたいだね。依頼者はジェニー商会の支店長、ランブラン子爵だよ」
「いくつ取ってくればいいんだ?無理やり引き抜いて持ち帰るのは嫌だ」
「サンプルとして、1つだけだね」
「そうか………花に拒否された時は、素直にそう言う事にして、受けるか?」
「うん、そういう事にしよう」
私たちは、エトリーナさんの受領印を貰って、ギルドを出た。期間は一週間だ。
商業地区で、大きな鉢を買ってから、いつもの道へ。
歩き慣れた道を通ってイシファンの森のゲートまでたどり着く。
この分だと昼食は、イシファンの古森の手前ぐらいになるな。
ゲートをくぐってもう慣れっこの戦闘をこなし、イシファンの古森のゲート前へ。
「この辺で弁当にしようか」
「おにぎりおにぎりー」
今日のお握りは、うめぼし、肉そぼろ、しゃけだった。
さて、イシファンの古森のゲートをくぐるか。
ゲートをくぐり、私は地図帳を取り出す。
しゃべる花は未踏破地域に生えているものと思われるので、行ってない方向に進むことになる。何があるか分からないので、できるだけ用心が必要だ。
実際、今までは遭遇してなかった、青い狼の群れに遭遇した。数は8頭。
ガーベラが『物理個人結界』を覚えてなければ、到底対応しきれなかった数だ。
その上、自分たちの中の「悪魔の血」を呼び起こして戦う羽目になった。
使えば使うほど「悪魔の血」は強くなっていくので多用したくないのだが………
「ねえ、ガザニアちゃん。あのレベルの敵がもう一辺出てくるようなら、未踏破地域に行くのはもっと先にした方がいいと思うの」
「そうだな、また遭遇しなければいいんだが………そうなったら諦めよう」
「アラ、慎重ですのね、いい事ですわよ」
「「!?」」
2人で思わず周囲を見回す。声の出どころは―――
「コチラですわ、お二人さん」
出所は、少し離れた所にある赤いチューリップだった。
「あなた―――なのか?喋ったのは?」
赤いチューリップはワサワサと葉を震わせる。何かの感情表現だろうか。
「ワタクシから声がしているはずよ、お嬢さん?」
「他にはいないのか?」
そうきいたら、このエリアのあちこちから―――
「いるよ」「いるわ」「お喋りじゃないだけ」「他にもいっぱいいるよ」
と、声がした。木の上からもだ。
戸惑いながら、わたしはここに来た目的を、花たちに話した。
「ワタクシは行ってもよくってよ。ここは閉鎖的でうんざりしているの」
「適切な世話方法とかを自分で言えるか?」
「モチロンですわ」
「もし、商品価値があるという事で、冒険者がここに来たら、どうする?」
それは大丈夫だと、花たちは口々に言った。
咲いていたくない時は、自分たちは種に戻れるのだという。
「今も種に戻っている人?達もいるのか」
「会話したくない方々は地下深く潜ってしまっておりましてよ」
「なるほど………なら、えーと、チューリップさん、あなたを連れていくね!」
「土ごと鉢に入れて下さいましね。土は多めに取って下さい」
「よいしょ、よいしょ………これでいいか?」
「土を枯葉で覆って下さいまし」
「えーと、こんな感じ?」
「よくってよ」
花たちを見回すと、皆興味深げに鉢の方向を向いている。
「サヨナラ、チューリップ」「ワタシモイクカモ」「サヨナラ」「サヨナラ」
「辛気臭いこと。ワタクシは新たな旅立ちをするのですわ!」
「ええと、とりあえずバイバイ。また来るかも?」
「その時は頼む」
「バイバイ」「バイバイ」「バイバイ」
私たちはチューリップさんを持って、この花園エリアから出た。
幸い帰りには未知の敵とは遭遇しなかった。
が、当然というべきか、既知の敵とは遭遇した。
なので、チューリップさんの鉢をかばいつつ戦闘する。
かなり疲れたが、イシファンの古森のゲートに辿り着く。
その後はイシファンの森を通って帰りのゲートへ。
その後、結構遠いギルドに帰る。
長い道のりで、私たちはくたくたに疲れていた。鉢もあるしな。
ちなみに鉢は私が抱えている。ガーベラでは持久力が足りない。
ギルドに到着して、チューリップさんを見せて会話してもらうと、私たちの仕事は終わりだ。今回はギルド預かりの依頼なので、ギルドから終了印をもらう。
「チューリップさん、元気でね!」
「大丈夫ですわ、オホホホホ」
チューリップさんとはそれで最後だった。
だが、わたしは彼女なら、貴族に気に入られて逞しくしていると信じている。
ガーベラも同じ考えのようだ。
あと、ギルドの噂で、喋る花の採取のクエストがあったと聞いた。
その花たちも元気ならいいのだが。
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