第13話 昇級試験:使い魔を探せ【語り手:ガーベラ】

2月13日。PM12:00


 このエカルドの町にも、貴族階級があるらしい。

 今日エトリーナさんの説明で初めて知ったよ。

 まあ、貴族と言っても豪商がその位を買ったりして貴族になった感じらしいけど。


 今日あたしたちは、昇級試験のために冒険者ギルドに来ていた。

 オリーナさんに、あたしたち宛の封書が届いて、そこに今日ギルドに来るように書いてあったんだ。そこでまずは、とこの町の貴族の説明を受けた。

 なんでも、北地区の真ん中あたりが貴族街らしい。

 通った事すらないや、アッハッハー。


 で、昇級試験に関係のあるのは「ランブラン子爵」という人だ。

 何と、バン君のお父さんである。奇遇ー。

 何でもランブラン子爵は、魔女の恨みを買ってしまったんだとか。

 仕入れてた「魔除けの人形」が効果のないものだと知って取引を止めてしまったんだって。不良品を売った魔女の自業自得だと思うんだけど、逆恨みって怖いね。


「それで、昇級試験にそれがどう関係してくるんですか?」

 ガザニアちゃんがエトリーナさんに聞く。

「うん、で、その魔女がランブラン子爵を逆恨みしてね?ランブラン子爵だけならまだしも、商会の要職にある人達を呪ってるのよ」

「え、呪いって相手の顔知ってて、位置特定もできてないと難しいんじゃ?」

「その魔女は、そんなに商会の内部に詳しかったのか?」

「まさか。そんなに長い付き合いでもなかったようだし。恐らく使い魔を通して人物の把握をしてるんじゃないか?って、ギルドの顧問魔術師は言っているわ」

「ああ………顔と位置だけならそれでイケるね」

「おかげで商会の人がみんな体調不良でね?ランブラン子爵が一番ひどいけど」

「もしかして、使い魔を捕まえろ!っていうのが昇級試験なのー?」

「そういうこと。魔女本人の居場所を特定するのに時間がかかりそうだから、とりあえず押さえておこうってことでね?魔女の討伐は他のランクの人がやるから、あなた達には使い魔の確保だけお願いしたいのよね」

「でも魔女は要職にある人の顔をもう見てしまってるのでは?」

「記憶って薄れるでしょ。使い魔がいないと覚えてられないと思うのよね」

「ああ………なるほど。納得した。大した魔女ではないんだな?」

「ランブラン子爵によると、二流だって話」

「わかった。使い魔は何匹だ?」

「え?普通一匹じゃないの?」

「魔女によっては複数持ってるんだよー」

「うーん、試験としては全部っていう事になるわねぇ」

「うわ。1匹だったらいいな。了解だよー」

「試験内容、了解しました。行ってきます」


 あたしたちは、書城グリモワールにいったん戻った。

 実家から持って来たアイテムで、任意の相手と通信できるアイテム「空間の翔玉」を使うためだ。通信相手は魔女で、あたしたちの魔法の師匠でもある人。

「アンリ師匠ー。聞こえますかー?」

((あら………お姫様おひいさま方じゃありませんか、どうされました?))

「うむ、かくかくしかじかでな。何か知らないかな?」

((エカルド付近で二流の魔女?………ああ、いますね。小物ですわ))

「使い魔について何か知らないー?」

((カラスと黒猫ですわ。見つけ方は………お姫様おひいさまがたの『特殊能力:魔力視』をお使いになれば早いかと。普通の動物とは明らかに魔力が違いますもの))

「ああ、なるほど。あれが使えるのか」

((その魔女は魔力だけは強いですが、使い魔は関係ないでしょう))

「ありがとう!アンリ師匠!」

 通信は終了した。


「北の住宅区で張り込みかな?」

「その前にギルドで被害を受けてる人たちの家が書いてある地図を貰わないと」

 事情を話すと、ギルドですんなりと被害者の家にマークのついた地図が貰えた。

「今日はどこに行く?」

「重症だと記載されている貴族の家を回ろう。3人だな」


 そういうわけで、居住区:北地区に来た。目的の人の家を監視する。

 もちろん、カラスと猫を警戒したよ。

 『特殊能力:魔力視』で周囲を見回す。

 2人目の人の屋敷に到着した。

 うーん、成金趣味で、あんまり好きにはなれないな。

 1人目の人の家の方がまだ上品だった。


 ちなみにガザニアちゃんは盗賊のスキルなんて持ってないので、あたしがカモフラージュした。今は植え込みに同化している。

 あたしも植え込みの中にひそんでいたんだけど………

 猫としては異常に、魔力の高い黒猫が敷地内に忍び込んでいくのが見えた。

 アレだ!

「『中級:光属性魔法:ルーンロープ』!」

 植え込みカモフラージュを解いたガザニアちゃんが拘束呪文を放つ。

 これがあるから、離れて待っててもらわずに、カモフラージュしてたんだよね。

 あたしも一応「下級:無属性魔法:バインディング」を放つ。

 一応効いたみたい。

 だけど、ガザニアちゃんの中級魔法の方が信頼性高いんだよねえ。

「捕まえたね。冒険者ギルドってまだ開いてたっけ?」

「22時だぞ。閉まってるだろう」

「なら、物理的にぐるぐる巻きにして、つぎのカラスを探そうか?」

「そうだな、それがいい」


 2月14日。AM08:00。


 残りの、重症者の屋敷と軽症者の屋敷を回った。

 けど、カラスは見つけられなかった。

「猫が捕まったから引き上げちゃったのかな」

「多分そうだろう。もう朝8時だ。ギルドも開いているし、猫を預けよう」

 あたしたちは、ギルドの受付に猫を提出した。

「耳栓と目隠しをしてあるから、魔女にこっちの様子は伝わらないと思うが気を付けてくれ。位置は分かるはずだからな」

「ありがとう!なら昇級試験は合格ね!精査してからだけど………」

「いや、使い魔は2匹―――あとカラスがいるはずなんだ」

「そうなの?その情報はどこから?」

「詳しくは言えないが、知り合いの魔女に聞いたんだ」

「知り合いに魔女?ふーん、さすがアーデルベルクの血統ね」

「うちの家を知ってたの?」

「私は知らなかったわ。ギルドマスターが詳しかったのよ」

「まあ、それならそれでいい。私たちはカラスを捕まえに行く。昇級はその後で」

「律儀ねえ。黙ってても良かったのに」

「そんな詐欺みたいな真似はしたくないよ!だから行ってきます!」

 エトリーナさんは笑顔で送り出してくれた。


「よく考えたらカラスも鳥じゃん。鳥目だから夜間引っかからなかったんじゃ?」

「………言われてみればそうだ。途中で気付けばよかったな」

「このまま徹夜で朝昼の見張りするー?」

「それしかあるまい。重症者の死なないうちに、使い魔は回収したいからな」

「おっけい。じゃあまた植え込みに変装だね!」

「………イヤだがしょうがないな」


 PM15:00。

 重症者の屋敷3件目で、屋敷の窓辺に止まる不審なカラスを見つけた。

 『特殊能力:魔力視』で見ても怪しく光っている。間違いない。

 植え込みから遠いので、魔法を使うには距離拡大をしないといけない。

 あたしたちは念話で

((ガザニアちゃん、あそこまで距離拡大して魔力持つ?))

((『ルーンロープ』ならギリギリ大丈夫だ))

((じゃあ、やって!あたしも『バインディング』を飛ばしとく!))

 ガザニアちゃんは植え込みの中で。

 あたしは忍んで行きながら呪文を唱える。


 ガザニアちゃんの『ルーンロープ』がかかって―――カラスが落ちた。

 あたしはそれをキャッチして、素早くガザニアちゃんの所に戻った。

 それでも警備兵に見つかったのだが、ギルドの認識票のおかげでなんとかなった。

 身分証明書って大事だね。


 あたしたちは物理的にぐるぐる巻きにしたカラスを持ち、冒険者ギルドに戻った。

 魔法には制限時間があるので、さっさと物理的に拘束したのだ。

「おかえりなさい、これが2匹目なのね。使い魔を精査して、本物だと判断されれば昇級だから、拠点で知らせを待っててちょうだい!」

「はーい!」「分かりました」


 2~3日後に知らせが来て、あたしたちは見事昇級したのであった。

 やったねブイ!

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