第11話 またも消えたトト【語り手:ガーベラ】

 2月1日。AM11:00。


 あたしは上級呪文を覚えるために、魔導書を睨みつけていた。

 もちろんただ睨んでるんじゃないよ、習得するためだよ。

 目当ての魔法は、上級呪文『魔法個人結界』と『物理個人結界』

 ダメージを無効化してくれる効果のある呪文だ。

 一定以上のダメージを受けると消えるけど、かなり持つ。

 2人しかいないあたしたちペアには、多くの魔物を相手にする時便利な呪文だ。

 上級呪文では真っ先に覚えたい呪文だ………とあたしは思う。


 唱えてみる。

「『上級:無属性魔法:物理個人結界』………」

 ばしゅううう………

「あうううう」

 失敗したあああ。


 もう一度、魔導書をよく読んで………

「『上級:無属性魔法:物理個人結界』!」

 かしーん。という音が立ったようだった。あたしの周りに不可視の壁がある。

 やった、成功だ!

 じゃあ次は………また魔導書をよく読みこんで………

「『上級:無属性魔法:魔法個人結界』!」

 きーん。という音がして、結界が発動。やった!

 とうとう初めての上級呪文を覚えたよ!


 がちゃ。丁度いいタイミングでガザニアちゃんがリビングに入ってきた。

「ガーベラ、なんだこの本の山」

「えへへー。聞いて聞いて。上級呪文を習得したよ」

「ほう、どんな?」

 あたしはガザニアちゃんに説明した。

「ほう………ガーベラにしては実用重視だな。助けてもらえそうだ」

「あたしにしてはって何よー」

「子供の頃を思い出しただけだ」

「もう15だもん。3月には16だね!」

「私も同じだがな………っと。私も神殿で祈って、新しい神聖魔法を授かったぞ」

「え?どんなの、どんなの?」

「『神聖魔法:ブレス』あらゆる行為の成功率を上げる奇跡だ」

「へぇー。それも実用的でいいじゃん」

「うん。お互い少し成長したな」


 あたしたちは、オリーナさんに成長を報告しに行った。

「まあ!おめでとう!今夜はステーキね。牛がいい?ワイバーンがいい?」

「ワイバーンはいずれ倒した時に、自分たちで持ち込みますから牛で」

「ワイバーンかぁ。今の私たちでいけるかな?」

「多分遠くはないだろう。まだまだ精進すればだが」

「そうだよね!そのうちね!オリーナさん、牛ステーキ楽しみにしてるよー!」

「任せておいて、腕をふるうわよー!」


 オリーナさんはステーキソースまで自作して、ステーキを作ってくれた。

 牛のステーキもすごく美味しくて―――ここに越してきて良かったと思った。

「そう言えばオリーナさん。ここに住みたいっていう人は他にいないの?」

「いないわねー。管理人の私が幽霊な時点でドン引きされるから」

「こんなに良くしてくれるのにー」

「まあ、彼らは幽霊の手料理なんてゴメンなんじゃないかしら?」

「チキンが多いおかげで私たちが得をしているな」

「そうだね!オリーナさんがいるだけでもお得だよね!」

「あなたたち………ありがとう。住んで貰ってよかったわ」

「オリーナさん、こんど料理を教えてくれないか、一応趣味なんだ」

「もちろんいいわよ。何にするか考えておいてね」

「あたしは料理は全くダメだから、食べる係ね!」

「「はいはい」」


 2月2日。AM08:00。


「ふああ………今日はギルドに行くんだっけ?」

「ううん………その通りだ。顔を洗いに行こう」

 幽霊の出る廊下を歩いて―――向かって来るのにはターンアンデット―――風呂場に向かう。お風呂場で、温かいお湯で顔を洗うあたしたち。

 やっぱり、ここに越して良かった。前のお家は冷たい水しか出なかったもんね。

 ただ、どういう仕組みで温かいお湯が出てるのか分からないけど………

 うん、気にしない!


 部屋に戻って、装備を整え、ギルドに行く準備をする。

 用意ができたから、オリーナさんに挨拶して―――お弁当を貰った―――書城グリモワールのゲートをくぐる。エカルドの町の東北に出た。

 町の北西にあるギルドまでは遠いので、あたしたちはお弁当を食べながら向かう。

 お弁当と言っても、オリーナさんは事情を承知しているから「お握り」なのだ。

 お米を握り固めたモノに味付けの具が入ってるというもので、物珍しい。

 具の名前はしゃけ、おかか、うめぼし。

 あたしはうめぼしが一番好きだな。ガザニアちゃんはしゃけらしい。


 なんてやってるうちにギルドに着いた。

 クエスト掲示板を見に行く………う~ん………あれ?

「ガザニアちゃん、ルルちゃんからまた猫探しのクエストが出てるよ?」

「何?またイシファンの森か?」

「そうみたいだけど、ちょっと違うくて。毎日イシファンの森に通ってるんだって」

「それは………モンスターにでも魅入られてないか心配だな」

「うん。そんな感じで依頼が出てる。どうしよう?」

「………乗りかかった舟だ、面倒見よう」

「了解。エトリーナさーん。受領印お願いしまーす」

 あたしたちは受領印を貰った。

「下水道とドブさらいが嫌なのは分かるけど、変な子達ねえ、あなたたち」

 というお言葉をもらってしまったが、気にしないことにする。


 噴水広場でしばらく待つと、ルルさんがやってきた。

 あたしたちを見て、ぱあっと明るい顔になった彼女はこちらに走って来る。

「引き受けてくれたんですか!」

「イシファンの森だし大丈夫だと思うけど、魔性の者に魅入られてたら大変だから」

「探して何してるのか突き止めて下さい!あの子がいなくなったら私………!」

「できる限りのことはする。噴水広場で待て。あ、夜になったら家に帰るんだぞ?」

「はい………よろしくお願いします!待ってます!」


♦♦♦


 噴水広場でルルさんと別れて、あたしたちはイシファンの森にやってきた。

 ここには番人もいないので―――置こうという話は最近あるらしい―――気楽に門をくぐる。さて、こんかいのトトの探し方だけど―――

「『ロケーション』が使えるね」

「どんな効果の魔法なんだ?」

「見知った人や物の大まかな位置を知ることができる魔法だよ。使うね」

 あたしが魔法を使うと、トトは入口からそう離れてない位置にいる事が分かった。


 あたしたちがその場に駆け付けると、まさに危機一髪だった。

 トトと、彼女が恐らく野生の猫との間に産んだのだろう子猫たちは、大蛇のモンスターに丸呑みされる寸前だったのだ。

「『上級:無属性魔法:物理個人結界』!いけー!ガザニアちゃん!」

「応!」

 

 ガザニアちゃんが、トトたちと蛇の間に飛び込む。

 新しい魔法は、ガザニアちゃんに蛇の牙を通さなかった。

 蛇は締め付けに移行してきたが、物理の結界なのでそれにも有効だ。

 あたしは、トトちゃんたちを退避させつつ、短剣を投じて目を狙う。

 目をやられても、蛇のモンスターの動きはあまり変わらなかった。

 そうか、舌だ!蛇だもん!

 トトちゃん達を退避させ終わったあたしは、蛇の口目がけて短剣を投じた。

 

 動きが滅茶苦茶になった蛇を、ガザニアちゃんが片付けるのは短い時間で済んだ。

 大きな牙と、魔物の核(スライム以外で初めて手に入れた)が戦利品だ。

 もちろん短剣は回収したよ!


 あたしたちは、トトちゃんと子猫たちを抱えて帰還の途についた。

 猫のオスは子育てには関わらないっていうし、森から連れ出しても大丈夫でしょ。

 幸いトトちゃんは(子猫が一緒なら)素直に言う事を聞いてくれた。


 スピード解決したため、まだ噴水広場にいたルルさんにトトちゃん達を見せる。

「トトと一緒に、うちで面倒見ます!」

 ルルさんの反応は予想通りだった。

 それがトトちゃんたちにとって一番幸せだろうとあたしも思う。

「頑張ってねー!」

 終了印を押してもらい、箱を持ってきて母子を入れ、運ぶルルさんに手を振る。

 彼女は大きくうなずいた。


 冒険者ギルドにクエスト票の提出と、蛇の魔物の報告と、戦利品を差し出す。

 すると、ギュエールバイパーという珍しい強い魔物だったという事が分かった。

 牙は買い取る事もできるが、短剣に加工して貰ったら?

 と、エトリーナさんに言われたので、そうすることにした。

 なので牙はギルドにお金を預け、ギルドからジェニー商会に回してもらうことに。

 核は単純にお金になった。短剣の代金を差し引いておつりがくる。

 あの蛇結構凄かったんだ、上級呪文って偉大だなぁ。


 あたしたちはオリーナさんの夕食を楽しみに書城グリモワールに帰るのだった。

 

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