第10話 結びの魚?【語り手:ガザニア】
1月15日。PM13:00。書城グリモワール。
オリーナさんが作ってくれた美味しい昼食を頂いたあと。
私たちは、それぞれ目当ての本を城内から探し出してきて勉強していた。
私は、光系統の魔術書と、回復魔法の本。
神官は神の声を聴いて神聖魔法を覚えるのでそっち関係の本はいらない。
まあ、神話などを知るにはいいのだが、まず実用的なものからだろう。
ガーベラは全系統の魔術書(大量だ)と、回復魔法の本。
そう、私たち2人パーティではお互いが癒し手なのだ。
回復魔法は印を結ばず呪文だけの事が多いので、武器を持っていても使いやすいというのがあって習得したのだ。
なんでも軍が癒し手を増やすために開発したから印が少ないんだとか。
癒し手が充実してるからといって、他人をパーティに入れる気には今の所ない。
前衛不足ではあるのだが………他のアイアン級は頼りなさすぎるのだ。
ギルドも昇級はクエスト数をこなしたらすぐにでもと言ってくれている。
まあ、私たちは急いでないので、書城グリモワールで勉強したりしているのだが。
「あー!上級呪文ってなんでこんなに難しいの!」
「最上級や儀式魔法に比べればマシだろう、そんなもの」
「ガザニアちゃんは上級呪文覚えたー?」
「一つだけ。それもまだ実際に使ってはみてない。この城の中庭でやってみるつもりだが管理人のオリーナさんに許可を取らないとな」
「そっかー。あたしも頑張って覚えないとなー」
「私の適性は光属性と回復魔法だけだからな………他はガーベラに任せた」
「うーん、うーん。ぷすぷすぷす………」
その時、リビングの扉が開き、オリーナさんが入ってきた。
幽霊なのでノックなしだが、ちゃんと扉から入って来た………
と言う事は何か持っているのか?
「ガザニアちゃん、中庭は好きに使っていいわよ。荒れ果てちゃってるからね」
「あ、ありがとうございます。どこから聞いてたんですか?」
「上級呪文覚えたー?のあたりから」
「ねね、それよりなんか焼き菓子の匂いがする」
「うふふ、そうなの。勉強すると甘いもの欲しくなるでしょう?」
「いいんですか、そんなにしていただいて………?」
「ここの宝物庫の中身は私の物同然だから、気にしないで。やりたくてやってるし」
「朝食から夕飯まで、本当に色々ありがとうございます」
「おいしいと言ってくれればそれでいいのよ………私にはもうない感覚だけど」
私とガーベラはオリーナさんにお礼を言って、ティーブレイクすることにした。
「そういえばそろそろ、クエストも受けないとな」
「じゃあこのあとギルドに行ってみる?気分転換も兼ねて」
「出てる依頼によっては本当に気分転換だけになるが………賛成だ」
お菓子を食べ終わった(まだ少し残っている)私たちは、オリーナさんにお礼を言って席を立ち、武装を身につけ武器を持った。ギルドへ行く準備完了だ。
「夕飯までに帰って来れたら何が食べたいー?」
「お肉食べたい!」
「じゃあ、次の日になってもいいように、材料だけは揃えておくわ」
「いつもすみません、オリーナさん」
「いいのよ、行ってらっしゃーい」
♦♦♦
ギルドに到着した。
エトリーナさんにお辞儀をしてから、クエスト掲示板をのぞく。
う~ん、いまいちやりたいと思うのがないな。
「あれ、これバン君からクエストが出てるよ?」
「本当か?どれどれ………」
クエストの名前は「バルーン魚を求めて」とある。
「イシファンの森での魚釣りが依頼だね。魚もイシファンの森の固有種みたい」
「ふうん………縁もあるしこれを受けようか?何で魚が欲しいのか分からないが」
「その辺は本人に聞いてみればいいんじゃない?」
「そうだな、ならこれを受けよう。エトリーナさん!」
「はいはい、決まったのね。あなたたちはいつも変わり種を持って行くわね………」
多少呆れつつ、エトリーナさんは受領印をくれた。
バン君の居場所は前回と同じく噴水広場だ。
出向くと、まだ来てなかったのでガーベラと一緒にのんびりと待つ。
1時間ほどするとバン君が現れた。
「こんにちは、バン君」
「またあたしたちだよー」
「何だ、姉ちゃんたちかよ。頼もしいからいいけどさ」
「ありがと。ところでこの依頼、どういう意図で出したの?食べたいの?」
「ちげーよ、プレゼントだよプレゼント」
「え?魚を?」
そう言うとバン君は何やら照れながら
「ほら………ここに猫と一緒によくいる姉ちゃん、いるだろ。あの人だよ」
「ルルさんの事?でことはトトちゃんにあげるの?あー、年も近いし、惚れたね?」
「ばっ………」
バン君は真っ赤になって固まってしまった。図星か。
「あんまりからかうんじゃない。バン君、私たちはこれからイシファンの森に行く」
「釣果を期待しててねー」
「お、おう。じゃあ明日の朝ここで待ってるから持って来いよな!」
「狙い通り釣れてたらな。では行くか」
私たちは釣竿と餌を持ってイシファンの森にやってきた。
「釣りができそうな場所はいくつかあるね」
「そうだな、イシファンの古森はまだ行けないし、バルーン魚がどこで釣れるかも分からないから、一番獲物の豊富そうな森の奥でいいんじゃないか?」
「そうだねー。それが無難かな」
などと言っていたのだが。
さすがダンジョンの中にある釣りスポット。
普通の魚以外にもモンスターも釣れる。釣れて欲しくないんだが。
おかげで戦闘する羽目になった。
その上それで時間を食ったため、時間は夜に。
オリーナさんすみません、帰れそうにありません。
その夜は徹夜になった。
モンスター魚はいらないが、その他の釣れた魚を焼いて塩をしたのを夕食にする。
ちなみにモンスター魚は、黄色いチョウチンアンコウが巨大化したようなやつだ。
一応焼いてみたのだが、食べれたものではなかったため選外としたのである。
その他の魚は、新鮮なだけあって塩を振っただけでも十分美味しかった。
夜明けが訪れた頃だっただろうか。餌が尽きる寸前の事だった。
ガーベラが、真ん丸な魚を釣り上げた。風船魚だ!
「うわあ、これ、膨らんでるんじゃなくて、元々こういう魚みたいだよ!」
「確か海の方では、膨らむ魚がいるんだったな」
「そうだね、でもこれは真ん丸………どんな味なんだろう」
「依頼品を食うなよ?」
「わ、わかってるよ!でもあたしたちも朝食にしよう?たくさん釣れたし………」
「まあ、今帰ってもバン君は来てないだろうしな。風船魚には氷を忘れるな」
「あ、そうだね」
少し早いが私たちは魚の朝食を食べた―――昨日の夜とは違う種類を選んだが。
残りはギルドに引き取ってもらおうという事で、私たちは帰路についた。
1月16日。AM07:00。
ちょうどギルドが開く時間だったので、魚の買取をお願いする。
大した金額にはならなかったが、無駄にするよりはいい。
AM08:00。噴水広場に行くとバン君は既にそこにいた。
トトちゃんとまったり過ごしているルルさんの姿も見える。
「バン君。注文の品だよー」
「おう!待ってたぜ!これ終了印な!」
バン君は風船魚を受け取ると終了印をくれた。
その足で、ルルさんの所へ行くようだ。思わず成り行きを見守る。
結果は成功………でいいのではなかろうか。
風船魚はトトちゃん(猫)には毒になる魚なので食べられないが、折角持って来てくれたので、二人で食べようという事になったのだ。結果オーライだろう。
「ねね、あの二人お似合いだと思わない?」
「私はそういうことはよく分からないが、いい雰囲気だとは思う」
「だよねー?さあ、あたしたちは書城グリモワールに帰ろっか!」
私たちは二人の邪魔をしないように、退散する事にした。
それにしても寒い中の釣りで冷え切ってしまった。
書城グリモワールの風呂が恋しいな。
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