第9話 ちょっとハードな猫探し【語り手:ガーベラ】

1月2日。PM09:00。


 荷物をまとめて、書城グリモワールに引っ越して来たぞー!


 まず使用する全部屋に、幽霊進入禁止のガザニアちゃん作の護符を貼っていく。

 あ、管理人室の幽霊、オリーナさんを例外にとガザニアちゃんには頼んだよ?

 それが、ここに住む条件でもあったからね。

 とにかく、荷物を下ろして護符を貼ったら、手を加える所はない。

 掃除は念入りにしたけど………終わったらベッドにダイブだ!

 あ~久しぶりの上等なベッドの感触~


 ガザニアちゃんも隣のベッドで寛いでいる。

 そう、寝室は今までの個室から、ベッドが二つある部屋に切り替わったのである。

 自由に振る舞えなくなる?ノンノン、ガザニアちゃんなら何してても平気だ。

 伊達に双子ではないのだよ。


 それにしても、冒険者ギルドで拠点を変える手続きをした時は驚かれた。

「あそこ幽霊出るのよ!?自分たちの部屋に入って来れなくても一歩外に出たらいるのよ?廊下とかどうするつもりなの!?」

「平気です、神官と魔法使いですから」

「異界なのよ!?」

「承知の上です」

 エトリーナさんは処置なしというようにため息をついて。

「分かったわ、変更しておくけど………あなた達にメッセンジャーを送ることになったら、メッセンジャーは選ばないといけないわね………」

「その時はすみませーん」「お手数をおかけします」

「もういいわよ、はあ。変更完了よ」


 ………という感じのやり取りだった。

 メッセンジャーには、メッセンジャーが来るような身分になってから恐縮しよう。


「今の所唯一の欠点は書城グリモワールは常に夜だって事だね」

「そうだな、時計だけだと朝なのか昼なのかわからない」

 そう言った時、壁からニュッとオリーナさんが出て来た。

「大丈夫よ、月の位置の読み方を覚えたらいいわ」

「そうなの?教えてくれるの?」

「ええ、窓をあけて!」

 あたしたちはベッドの頭の所にある窓を開ける。

 さすが異界、本当はすっごく寒いはずが、常温。季節感もちょっとなくなりそう。

 まあ、冒険者ギルドにいくのに町に出るから、大丈夫だと思うけど。


「月の大きさを見るのよ。ピンクの月が大きい時は午前。黄色の月が大きい時は午後。同じぐらいに見える時は昼の12時で、月が見えない時は零時ね」

「なるほどー。意外とわかりやすいねーガザニアちゃん」

「そうだな、月の運行がないから、いつでも寝室の窓から見えるのもいい」

 これなら、朝と夜とを間違える間抜けな事態にもなりそうにないね。

「ありがとうございます、オリーナさん。我々はそろそろ寝ます」

「ああ、そうね、それがいいわ。あなたたち、明日はギルドに行くのかしら?」

「行くよー。依頼をこなさないとですから!」

「ならお昼ご飯は外ね。それなら朝食を持ってきてあげるわ」

「ええっ!オリーナさんって幽霊なのに料理できるの!?」

「『念動』を使って何でもできるわよ。ああ、味見はできないけど」

「それでもすごいとおもいます。有難く頂いてもいいんですか?」

「もちろんよ」

 ニッコリ笑ったオリーナさんは、部屋の壁から退出していった。

 ふりだけでも扉を使おうって発想はないのかな?


 次の日。1月3日、AM09:00。


 朝ごはんは(朝食は壁を通れなかったので)扉から入ってきたオリーナさんから頂いた。オリーナさん、一応扉の存在を認識してはいたんだね。

 中身はハム、エビかつ、卵のサンドイッチ。それと温かいポタージュスープ。

 大いにオリーナさんに感謝してからいただいた。

 ありきたりな感想だけど、とっても美味しかったよ!

 オリーナさんにそう言ったら満面の笑みで「また作るわね」と言ってくれた。


 ゆっくりしていたら、お昼になりそうだったので(やっぱり空が暗いと調子が狂うね)あたしたちはバタバタと慌ただしく冒険者ギルドに行く準備をした。

「「行ってきまーす!」」

 管理人室のオリーナさんにそう告げて、書城グリモワールのゲートをくぐる。

 外は晴れで、昼の日差しはことのほか眩しかった。


 冒険者ギルドにて。

 あたしたちはクエスト掲示板を覗き込んでいた。

「うーん、ロクなのがないなあ」「ないねぇ」

「ん?これは………緊急じゃないか?どう思う?報酬もそれなりだぞ」

「どれ?」

「この、迷い猫探してます、というやつだ」

「ふんふん、え!?最後に見たのがイシファンの森のゲート前!?それってヤバくない?猫といえども探しに行くべきだよ!」

「じゃあ決まりだな」

 あたしたちはエトリーナさんに受領印を貰って、依頼人の所に急ぐことにした。


 依頼人はこないだのバン君と同じく、南商業地区のトーナの噴水にいるらしい。

 あたしたちよりちょい年下の14歳で名前はルルさん。

 腰まである癖のある赤毛に青い瞳だとクエストに記載がある。

「あっ、あの人かな?すみませーん!ルルさんですか!?」

「そうです!冒険者の人!?うちの子を探してくれるの?ずっと待ってたのよ!」

「ついさっき、クエストを受けました!よろしくお願いします!」

「猫の特徴を聞かせて下さい」


 ルルさんが言うには、猫はトトという名で、三毛猫のメス。3歳。

 名前の入った赤い首輪をしているそうだ。

 あたしたちが取り急ぎイシファンの森に向かう事を告げると真剣に頷かれた。

 なのでイシファンの森に向かう。


♦♦♦


 ゲートをくぐって、イシファンの森に到着した。

「トトちゃん、イシファンの古森までは行ってないといいけど」

「そこまでは考えても始まらん。地図を見ながら効率よく全体を見回ろう」

「そうだね、行こう」


 あたしたちは、トトちゃんの名前を呼びながらイシファンの森を巡回していく。

 それがクマよけ効果にでもなったのか、モンスターはあんまり出てこない。

 とはいえ、スポットでは湧いているので、くまなく巡回している都合上、全くなしとは言えないが―――その代わりランダムアイテムもポップしたからいいか。


 イシファンの森を結構奥まで探索すると、とうとうトトちゃんと思しき猫発見!

 そこは森が開けた広場だったのだが、トトちゃんが威嚇してるものは初見のモンスターだった。10匹分ぐらいある大きなスライムで、王冠をかぶっているのである。

「いわゆるボスモンスターか?始めて見たな」

「ガザニアちゃん、呑気な事言わない!」

「わかってる、割って入ろう」


 トトちゃんとボスモンスターの間に割って入り、トトちゃんには悪いけど、トトちゃんを捕獲(首輪は確かめた)してケージの中にIN。

「大きいスライムだね………色も深い青で珍しいし」

「ふむ………お前の炎魔法で小さくして私が体が核を突くしかないだろうな」

「じゃあそれで!「中級:火属性魔法:ファイアーボール」!!」

 強敵と見て、初手から中級魔術を打ち込んだ。

 そしてそれは正解だった。こいつは大きな体を活かして、酸性の体で体当たりして来たのだ。その際王冠はトゲトゲの凶器となる。

 ガザニアちゃんは大きな盾で防いだが、盾が無ければ危ない所だった。

 あと体積を『ファイアーボール』で減らしてなければそれでも危険だっただろう。


 最終的には、ガザニアちゃんの戦術通りにうまくいった。

 ボスモンスターのスライムは、大きな核と王冠を残した。

 これはまた冒険者ギルドで買い取ってもらえるかな?


 とにもかくにもトトちゃんはGETしたので、ルルさんの所まで護送だ!


♦♦♦


 ルルさんはあれからずっと噴水広場にいたらしく、あたしたちが帰ると駆け寄ってきた。感動の再会だ。ずっと機嫌が悪かったトトちゃんも甘え声を出している。

「ありがとう………本当にありがとう」

 ルルさんは涙ぐみながら終了印を押してくれた。

「じゃあ、あたしたちは行くね。何か困った事があったらまたクエスト出しなよ!」

 うなずくルルさんを背後に、あたしたちはギルドに報告に行くのだった。


 ちなみにボスモンスターは、かなりのレアモンスターだったらしく、結構財布が潤った事をここに記しておく。

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