第8話 書城グリモワール【語り手:ガザニア】
1月1日。AM08:00
先日はクエストを1件こなした。
その後は、立て続けにクエストを受けても良かったのだが、急ぐわけでもないし、という事でイシファンの森のマップを埋めることにしたのだ。
特に未踏の場所があったし、ギルドから地図を買い取ると言われたしな。
それは置いといて、洗顔するために部屋を出てきたが………寒い。
ガーベラも出て来たのだが、まだ毛布を体に巻いている。
「新年早々寒いねぇ~ガザニアちゃん」
「そうだな、だが毛布は部屋に戻してこい」
私がそう言うと、ガザニアちゃんのけちーと言いながらガーベラは部屋に戻った。
しばらくうだうだいう声が聞こえてきたが、最後には毛布を脱いだようだ。
2人とも洗顔を終えて(顔が凍るかと思った)ダイニングキッチンで朝食だ。
と言っても大したものではない。トーストとスクランブルエッグだ。
「ねーガザニアちゃん、そろそろ次のクエストを受けない?カッパーに上がるのに数が必要でしょ?あ………でも、まともなの出てるかな」
「確かに受けるべきだな。まともな依頼が出ていれば、だが」
「ドブさらいと下水道でなければなんでもいいよ」
「よし、朝食を食べ終わったらクエスト掲示板を見に、冒険者ギルドに行こう」
♦♦♦
冒険者ギルドに到着した。
エトリーナさんに挨拶し、クエスト掲示板を見に行く。
色々あったが、心を動かされるものは―――
「あ、ガザニアちゃん、これどう?一石二鳥!」
「書城グリモワールの掃除?ほこりと蜘蛛の巣をはらってほしい………?」
「ほら、どうせあたし魔導書で勉強しなきゃいけないでしょ。これなら場所とか覚えるのにちょうどいいかなーって」
「ああ、それで一石二鳥か………私も魔導書は読む。書城グリモワールは有用だな」
「じゃあこれでいいよね、エトリーナさーん!」
「ああ、これですか。書城グリモワールには幽体系のモンスターが出ますが………」
「ガザニアちゃんは神官だし、あたしも魔法が使えるから問題ないよ!」
「そうでしたね、なら許可を出します。期限は1週間です」
「掃除道具はどうしたらいいの?」
「書城グリモワールにあるはずです。詳しくは管理人に」
「了解しました」
「どうするガザニアちゃん。今から行く?」
「行かないで何をする?予定はないだろう?」
「まあ、そうなんだけどね。じゃあ行こう」
書城グリモワールは、イシファンの森と同じく東北の町の端にあった。
ゲートをくぐると、大きな城が目の前に現れる。
全体が濃い紫色で、ところどころが光っている不思議な城だった。
「うわぁ~。これ何でできてるんだろうね?」
「わからん。が、綺麗だな」
「管理人室ってどこかな。入口付近にありそうだけど………」
「管理人室ならここよ」
その声を聴いて振り返り、硬直する。ガーベラも同じく。
「ゆ、幽霊?」
「そうよ、ここに引き寄せられて1000年………今では管理人なの」
驚いたのはその女性が扉から上半身を突き出していたからなのだが………
幽霊なら納得せざるを得ないな。まだ驚いているが。
幽霊の管理人オリーナさんは、黒い長い髪、黒目、白い肌の美人だった。
貴族(私たちも貴族だが)が着るような華やかなドレスを身にまとっているが、腰から下はない。まあ幽霊だし仕方ないだろう。
「あたしたち、この依頼で来ました!」
依頼票を見せると、彼女は嬉しそうに
「あたしが代理人に出してもらった依頼だわ!」
「そうか、それは良かった。詳細を聞かせてくれ」
彼女はまずマップをくれた。地下と1階部分のだけだが。
「今回は、マップの範囲内だけでいいから、ほこり払いと蜘蛛の巣除去をお願いね」
「モンスターはー?」
「1階部分には弱いゴーストしか出ないわねえ。地下には強いゴーストも出るわ」
「基本ゴーストだけなんだな?それなら何とでもなるかな………」
「蜘蛛の巣の蜘蛛ってモンスターだったりしないの?」
「あら、もちろんモンスターよ。でなければ冒険者に依頼しないわ」
「そうなのか。強さは?」
「えーとね、イシファンの森では出ないぐらいには強いわ。でも大した事ないわよ」
「そうか………気をつけることにする」
その後掃除用具―――水気はご法度なので、ハタキと布と、ホウキとチリ取りだ―――を受け取り、オリーナさんの声援を受けて書城グリモワールの奥に進んだ。
「一番奥に行ってしまって、そこから出口に向かって掃除を進めよう」
「はーい。紫色の石材の壁って、本当に幽霊が出そうだねえ。出るんだけど」
「依頼人からして幽霊だからな」
「だよねー。それにしても、本、本、本だね。どうやってこんなに集めたんだろう」
笑い合っていると、本当に幽霊が出た。
「『神聖魔法:ターンアンデット』!」
幽霊は逃げて行った。消滅しなかったか、ちっ。
『神聖魔法:ターンアンデット』はそのアンデットが抵抗に失敗したら色々な効果を及ぼす魔法だ。一番基本的なのは逃げ去る事。
他にもうまくいけば消滅、そうでなくても硬直、パニックを起こさせる、など。
色々な効果が期待できるうえ、周囲全部に効く便利な魔法だ。
まあ、抵抗されると全くのノーダメージなのが痛い所だな。
だが、私が取りこぼしてもガーベラの『エネルギーボルト』は有効だ。
私たちは役割分担しながら、書城グリモワールの地下の奥まで進んだ。
「ここから開始だね、ガザニアちゃん」
「ああ、蜘蛛に気をつけろよ、ガーベラ」
しばらくは蜘蛛の巣はなかった。
ほこりを払い、それをホウキとチリ取りで回収していく。
ガーベラと私は、勉強に丁度いい本なども探して、場所を記憶していく。
いくつ目の部屋だっただろうか、蜘蛛の巣と蜘蛛を発見した。
大人ほどもある蜘蛛だ………脚をあわせれば私たちより大きいのは間違いない。
巣を払おうとしたら案の定攻撃してきたので、戦闘開始だ。
敵の手(足)数が多いので、2人で前衛だ。
連続攻撃されて呪文を紡ぐヒマがないので、2人共物理戦闘を強いられる。
私は盾があるからいいが、全部受け流すガーベラは大変だな。
とにかく、盾の陰から関節を狙って攻撃を仕掛けてみる。
………効いているようだ、足が一本落ちた。
「ガザニアちゃん!あたしは捌くので精いっぱいだから、それもっとよろしく!」
「わかった!余裕ができたら攻撃するんだぞ!?」
「もちろんだよ!」
その後、私は3本の脚を落とす事に成功した。
そこでガーベラが動く。
2本の短剣をハサミのように使って、蜘蛛の頭をちょん切ったのだ。
「うっし」
ガーベラがガッツポーズをとる。
「ガーベラ、よくやった」
「ガザニアちゃんもね。足が減らなきゃ隙ができなかったもん」
「有難く褒めてもらっておこう」
その他に3匹の蜘蛛を見かけたが、私たちは同じ戦法で倒していった。
面倒なのは本に被害を出さないように戦う事だな………
ところで、掃除していくうちに私とガーベラはある事に気付いていた。
本が無くて、豪華な家具調度品、ベッドまである区画があるのだ。主に一階。
ちゃんと湯の出る風呂まであり、これなら実家と比べても遜色ない。
「ねえ、ガザニアちゃん………」
「分かっている、ガーベラ。ここに住めないか、だろう?」
「うん、ここに来れれば、魔法の勉強し放題だし………」
「管理人のオリーナさんに聞いてみよう」
「うん、ゴーストは入って来れないように、ガザニアちゃんが護符を作れるよね?」
「ああ、任せておけ」
そして、掃除を終わらせて、オリーナさんから終了印を貰う時、聞いてみた。
「あのー、ここに引っ越してくることってできませんか!?」
管理人オリーナさんは顔を輝かせて
「ほんと!?住んでくれるなら家賃なんかいらないわ!一人で暇だったの!」
と言ってくれた。決まりだな。
「「近日中に引っ越してきます!」」
オリーナさんに頭を下げて、私たちは冒険者ギルドへの帰路についた。
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