第7話 冒険したい男の子 【語り手:ガーベラ】

※カレンダーと時計が手に入ったので、日時を記載していくよ!(byガーベラ)


 12月23日、AM08:00

 冬のど真ん中、あたしとガザニアちゃんは目を覚ました。

 いや、ガザニアちゃんは隣の部屋だから多分なんだけど。

 でも、家ではこの時間に2人共目を覚ましていたし、多分起きてるでしょ!


 えいっ、とあたしは布団を跳ね上げ、ベッドから抜け出す。

 う~寒い。カーディガンを羽織って、部屋の外の洗面所に。

 ガザニアちゃんは先に起きて洗顔を終わらせており、歯磨きをしていた。

 ほらね、もう起きてた。


 あたしは冷たい水を我慢して顔を洗う。

 故郷では温かいお湯が出たけど、あれは普通出回ってないらしいから仕方ない。

 お風呂は公衆浴場があるから、文句ないんだけどな。

 そう、公衆浴場の事をエトリーナさんに聞いたら、結構ちゃんとしたシステムだったのだ。荷物置きには鍵がかかるし、男女もちゃんと別、それに清潔。

 温泉ではないにせよ十分だったので、あたしとガザニアちゃんは愛用している。


 さて、身繕いを済ませたら、冒険者ギルドに向かって出発だ。

 ちなみにスライム関連の依頼は、つい先日終了している。

 しばらく働かなくてもいいぐらい稼げたんだけど、あたしたちの目的は修行。

 だから依頼掲示板に依頼を見に行くの。仕方ないよねー。


 とか思ってるうちに冒険者ギルドについた。掲示板に向かう。

 うーん、失せもの探しにドブさらい?さすがになぁ………お、これは?

 依頼の題名は「冒険したい!」

「子供の、ダンジョン探索への同行?」

「確か、冒険者でないとダンジョンには行けないんじゃなかったか?」

 そう言い合っていると、手の空いたらしいエトリーナさんが疑問に答えてくれた。

「依頼としてならアリなのよ。依頼のお金が払えるならだけど」

「この子は、いいとこの坊ちゃんだということか?」

「ジェニー商会の支店長の息子なの。結構高額なのにさくっと払ったわ」

「親は知ってるのか?」

「支店長は仕事以外に無関心で有名だから………知ってても放置するでしょうね」

「どうする、ガーベラ?」

「うーん、エトリーナさん。アイアンでは私たちって腕利きだよね」

「間違いなく。カッパーに上がるのに足りないのは、通常依頼の達成の実績だけよ」

「じゃあ、下手な奴が受けてケガさせる前に、あたしたちが受けちゃおう!」

「いいのか、ガーベラ?」

「だってガザニアちゃん、冒険したいって気持ちはわかるもん」

「そうだな、じゃあこの依頼を受けます」

「了解よ、今回の場合は―――一週間以内に依頼人のハンコを貰って提出してね」

「すぐに行くつもりだけど、一週間過ぎたらどうなるの?」

「依頼失敗になるのよ。依頼ごとに違うけど。………はい、ギルドの受領印」

「ありがとう、では行ってくる」


「えーと、依頼人は………南商業地区のトーナの噴水で待っているそうだ」

「えー?いつ依頼が受理されるか分からないのにー?暇だねえ」

「何もずっといる必要はないだろう。時々確認しに来るんじゃないか?」

「それもそっか。依頼人の外見は?」

「12歳の少年で………3つしか変わらないが………黒髪黒目」

「同じような外見の子がいたら、片っ端から声をかけるしかないね」

「噴水前にたたずむ少年など、そうそういないと思うが?」

「………それもそうかも」


 心配する事もなく、ギルドからその足で噴水に向かったところ、目的の少年を見つけられた。声をかけたら「依頼の件か?」と言われたのである。

「うん、イシファンの森に、あなたを連れていく依頼を受けた冒険者だよ」

「私はガザニア、こっちはガーベラだ。君の名前は?」

「よし、俺の名前を聞くって事は、親父の回し者じゃねーな。俺はバンだ」

「よろしくねー!早速行く?」

「お、おう!準備はばっちりだ」

 確かに準備はバッチリだ。

 ジェニー商会の支店長の息子だけあって、革鎧と剣はピカピカだ。

 ………戦闘経験がまるでないのが丸わかりだけど。

 (これは守ってあげないといけないねー、ガザニアちゃん?)

 (森で無茶な遊び方をして怒られた時を彷彿とさせるな………)


 バン君を連れてイシファンの森の入口にやってきた。

 空間に立つさざ波に、バン君が緊張しているのが分かる。

「この空間の波に飛び込むんだよ、大丈夫?」

「ああ、当たり前だろ!」

 バン君は勇み足で先に行ってしまった。

「あまり挑発するな、ガーベラ」

「可愛くてつい………あたしたちも行こ!」

 バン君に続いて、あたしたちも急いでゲートをくぐった。


 出たのは最近馴染みの出来た、森に囲まれた空間。

 バン君はキョロキョロしていて落ち着きがない。

「バン、どっちに行きたいんだ?これは依頼だから君が決めてくれ」

「ええっ?いや、望む所だ!う~ん、あっちだな!」

 バン君が示したのは、辛うじて獣道がある、木々が生い茂っている場所だった。

 ガザニアちゃんがマッピングの準備を始める。

 バン君はずんずん進んでいくが、獣道でつまづいた。

「大丈夫?獣道は道が悪いから気を付けて。あたしの後ろについてきてね、ガザニアちゃんは最後尾につくから」

「うぅ………わかった」


 途中でポップするスライムを、最前列のあたしだけで軽くあしらって進む。

 ジェニー商会のおじさんの研いでくれた短剣は、切れ味抜群なのだ。

 バン君はスゲースゲーと興奮気味だった。どんなもんだい。

 狼も出たけどこれは隊列変更して、前列にガザニアちゃんも加えて倒した。


 しばらく歩いていると、森に囲まれた草地に出た。

 あたしたちも知らない場所だ………

「少し捜索してみるか」

 ガザニアちゃんの一言で探索モードに。

 こういう所には、目立たない所にドロップ品のようなものがあることがあるのだ。

 そう伝えるとバン君も積極的に捜索してくれた。


 ごそごそしていると………急にバン君の姿が消えた。何事!?

「ガーベラ!こんな所にゲートがある!きっと彼は入ってしまったんだ!」

 なんですと!?早く後を追わないと!

「行くよ、ガザニアちゃん!」

「応!」


 ゲートをくぐった先は、あたしたちには分かる、という場所だった。

 そこはシュバルツヴァルトに劣らない古い森だったのだ。

 そして、バン君はイシファンの森にはいなかった大きな狼に襲われていた。

 数は4。あたしはバン君と狼の間に割って入る。


 結果は勝利。

 数の振りを補うように、ガザニアちゃんが『ルーンロープ(動きを封じる)』で。

 あたしが『ライトニングバインド(動くとダメージが入る)』で調節した結果だ。

 苦戦したけど何とかなった………手傷も負ったけど。

 早くイシファンの森に戻ろう。


「お手柄だね、新しいダンジョンを見つけるなんて」

「いや、何もしてないし………守ってもらうだけだったし」

「最初はそんなものだ」

「姉ちゃんたちも?」

「ああ、散々助けてもらって今がある」

「俺も冒険者になれるかな………」

「そのつもりで訓練するのなら、きっとなれるさ」

「そうか………うん、よし、頑張るぞ!」

 あたしたちは、イシファンの森を出て、みんなで冒険者ギルドに戻った。


 バン君から受領印を貰って、受付に提出。

 新しいダンジョンを見つけた事を告げると―――大騒ぎになった。

 調査隊が出るようで、調査終了までは立ち入り禁止になるそうだ。


 ともあれ、あたしたちは初めての依頼と、初めてのクエスト達成のお金を貰った。


 そうそう、新しいダンジョンは「イシファンの古森」という名に決定したそうだ。

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