第6話 お買いっ物っ! 【語り手:ガザニア】
スライム退治―――という名のサンプル集め―――に行くようになって、私とガーベラは資金を潤沢に得られるようになった。
あの狩場は私たちがほぼ独占状態らしい。
アイアンの中で、そこを相手にできるのが私たちだけだったからだという理由だ。
なおかつ、元が他のクラスには頼まない方針の依頼だったので、これを私たちに回してくれたようだ。私たちでもギリギリの依頼だったが有難い事だ。
それに、回数をこなすうち、私たちは余裕で敵を捌けるようになってきた。
能力値―――特に魔力が上がった結果だろう。結果がそれを示している。
そして数週間後、重たい財布を持って私たちは買い物に出かけることにした。
毎日のように狩りにいそしんだ結果ともいう。
武器防具も新調するため、武装も大きな袋に入れて持って行く。
「うにゃ~ん。装備は下取り用でしょ?かさばるし先に武器防具の店に行こうよー」
ガーベラの泣き言に、私は頷く。
「むろん、そのつもりだ。………かさばるのはどっちかと言うと私だと思うんだが」
「あたしはガザニアちゃんほど体力無いんだよ」
「嘘つけ。私より低いのは筋力だけだろう」
「せーしんてきなものなの!こころのありよう!」
「………はいはい。小難しい用語でけむに巻こうとするな」
受付さんからすべて揃う、総合商店を紹介されているのでそこに行く事に。
なんでも王都に本店のある大店の支店だという事だ。
名前は「ジェニー商会」という。
街の中央にとても大きな建物があり、昔領主がこの町にいた頃の建物がある。
ジェニー商会は、その建物を流用して店舗にしているのだ。
無論大幅な改装をしただろうが。
何と店舗の入口は総ガラスだ。
普通ガラスなんて貴族の邸宅以外ではお目にかからるまい。
もちろん、うちにもあったがこんなに大きくはなかった。
私たちがガラスの扉を開け店舗に入ると、メイド服の店員がすすっと寄ってきた。
「お伺いしましょうか?」
「あのねあのね………」
ガーベラが欲しいものを大量に並べ立てそうだったので、慌てて口を挟む。
「いろいろあるが、武器と防具をまず頼む」
「かしこまりました」
ガーベラが膨れっ面だが、気にしない。優先順位があるのだ。
フロアを移動すると、鍛冶の熱が伝わって来る一角があった。
並べられているのはどれも質のいい武器防具だ。
「お望みの物をお伺いします」
「あたしは質のいいソフトレザーアーマーと短剣をいくつか、あと、お洒落な魔法の発動体とかない?」
「わたしはプレートメイルとクレイモアとショートソードが欲しい」
「かしこまりました」
今回は装備でパワーアップするのは主に私だ、ガーベラの装備や魔法の発動体は戦力アップにはあまりつながらない。
盗賊は動きを阻害する金物の鎧はつけられないしな………
店員さんは、奥にいる親方と話すよう私たちを誘導した。
「はじめまして、戦士兼戦女神の神官のガザニアという」
「力こぶを作ってみな………ほう、年齢に似合わず鍛えられてるじゃねえか」
「お眼鏡に叶ったか?」
「おう、いいもん持ってるな。自信作のプレートメイルをサイズに合わせて削ってやるよ。それとクレイモアとサブのショートソードも見繕ってやろう」
「親方さん、あたしはー?」
「ソフトレザーアーマーは店員の嬢ちゃんに聞け。短剣は、いいのを見繕ってやる」
「はーい」
親方さんが、鎧のサイズ合わせをしている間に、店員さんがガーベラに質問する。
「レザーの色はいかがしましょう?」
「変えられるの?下に着る服が紺色だから、目立たないように紺か黒がいいね」
さすがに職業を分かってるようだ、ピンクとか言い出さなくて良かった。
「ガザニアちゃん!いま変な感心の仕方したでしょう!」
生まれた時から一緒なので、お互いの考える事などお見通しだ。
「した。お前ならやりかねん。発動体はお洒落に走っただろう」
「むー」
「黒のレザーならいいものがございます。それで仕立てさせていただいても?」
「あ、うん。もちろんだよ。よろしくお願いします」
仕立てには半日かかるらしい。私も鎧でそのぐらいかかるので、他の物を先に買う事になった。まずは腕時計とカレンダーだと店員さんに告げる。
「若い娘さん向けの商品ですとこちらになります」
フロアを移動して店員さんが見せてくれたのは、可愛いパステルカラーで色んな形をしているものだった。
「可愛いが色の方が………」
「黒がいいな!ガザニアちゃんも問題ないし、仕事中でもお揃いがいいもんね」
「それでは、こちらはいかがでしょう?プレートメイルでは腕時計はつけ辛いでしょうから、ネックレスタイプもありますよ。それと防水です」
それは黒く塗ってある金属製で、様々な形やタイプがあるものだった。
「いいじゃない、ここから選ぼうよガザニアちゃん」
「そうだな。私はこの剣の形のネックレスタイプの物がいい」
「はやっ!うーん、あたしはそうだなー。猫の頭の形の、腕時計タイプがいい!」
「はい、承りました」
「次はカレンダーだね!」
「予定とか書き込めるものがいいな」
「カレンダーにも柄入りの物がありますがそちらにしますか?」
「いいねー!四季の柄とか入った奴ある!?」
「ございますよ、ご案内しますね」
店員さんは笑顔でカレンダーコーナーに案内してくれた。
正直カレンダーは機能的な奴しか見た事ないので、柄入りとか新鮮だった。
コーナーに行ってみると、絵とセットになっているものもあり、驚いた。
ガーベラがキャアキャア言いながら、選んだカレンダーを見せてくる。
私も真剣に選んでしまった。
結局、ファンシーな季節ごとの柄の入った奴で、最低限書き込みを入れられるスペースがあるものを色々折衷して購入した。
その後は暇つぶしも兼ねて装備の下に着る洋服を選びに行った。
こういうのは苦手だが、たまにならいいものだ。
時間が過ぎて、武器防具の受け取りに行く。
まず、私のプレートメイルが出て来た。プレートメイルの下履きとなるクロース・アーマーも用意してくれていたので試着する。
いくつかゆるい場所があったので調節してもらいつつ、完成。
みんなに退いててもらって思い切り動いてみたが、おかしなところはなかった。
「鎧はこれで大丈夫だ。買わせてもらおう」
「娘っ子!剣も見繕っておいたぞ!これでどうだ!?」
またみんなに下がっててもらって振り回す。うん、いい感じだ。
「良い感じだ。親方さんの目は確かだな」
「へへっ、嬉しいねえ!じゃあ、そいつを持ってきな!勘定は店員にな!」
「分かった。ありがとう」
「じゃあ、もう1人の嬢ちゃん。ソフトレザーアーマーのサイズが合うか確かめな」
「はーい」
ガーベラが濃紺の丈夫な服の上からソフトレザーアーマーを身につける。
「えーとね、ここと、ここと、ここがきついかな」
直してもらって身につけると、ガーベラはニッコリとほほ笑んだ。
「ぱーふぇくとだよ!」
「そうかい。それで短剣も見繕って、ついでに研いでおいたがどうだい」
「何か的にできるものってある、おっちゃん?」
親父さんは背後から薪用の丸太を出し、広いスペースに設置してくれた。
私もお願いすればよかったかな。
ともあれ、ガーベラは短剣でそれを薪にしてみせた。
腕を上げたな。
感心する親父さんと店員さん。
「いぇい!ばっちり!これを貰うよ!」
「いいねぇ、あんたら、きっといい冒険者になるぜ」
親父さんに礼を言ってから、私たちは勘定を済ませ、ジェニー商会を後にした。
「スライムの調査に要るサンプルも、もうすぐ集まるって話だったけど、取り合えず最後まで稼ごうねガザニアちゃん。今日で大分お金っ減ったし」
「買った服も防寒具とかが多かったし、無駄遣いはあまりしてない。仕方ないさ」
「そうだね。スライムが終わったら、依頼掲示板から何か依頼を受けてみようよ」
「ああ、それがいいだろうな」
そんなやり取りをしながら私たちは帰路についた。
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