第5話 スライム退治だ! 【語り手:ガーベラ】
冬が近い、寒い朝。でもピカピカの新しい朝だ。
あたしは洗面所に顔を洗いに行くべく、ベッドから跳ね起きた。
ガザニアちゃんからは時々、ばね仕掛けのネズミのようだと言われる。
洗面所に行くと、もうガザニアちゃんが顔を洗った所だった。
「おはようガーベラ。暖かい風呂が恋しくなる気温だな」
「それね、エトリーナさんがくれた地図にあったよ。公衆浴場って!」
「どういうシステムなんだろうな?」
「知らなーい。今日はスライムを狩りに行くんでしょ?戦利品を持って行くついでにエトリーナさんに聞いてみようよ?」
「そうだな、じゃあまずは準備だ。とにかく顔を洗え、ガーベラ」
「あ、えへへ。はーい」
身繕いを整えて、装備も身につけた。
「これでイシファンの森に行けるねっ!」
「うむ、最低限の装備だが「すらいむ」相手なら大丈夫だろうと思う」
「固いよガザニアちゃん!いけいけどんどーん!」
「魔術師で、しかも盗賊のお前の方が慎重にふるまうのが普通なんだぞ?」
「知らなーい」
あたしはたたっと、イシファンの森の方向に向かって走る。
仕方なさそうにガザニアちゃんも走ってついてくる。
イシファンの森は町の東北にあり、出入り口は1ヶ所に決められている。
他のダンジョンには入口に見張りがいるそうだが、このイシファンの森と書城グリモワールには見張りの類はいないそうだ。
グリモワールの方は、学者先生がいることもあって私的な護衛はいるそうだけど。
とにかくあたしとガザニアちゃんは、出入り口が広がるイシファンの森の「ゲート」までやってきた。空間にさざ波が立っている。
不思議な感じ。イザリヤ叔母様が出て来る時にできる「門」に似ている。
「ここに飛び込むんだよね?えーいっ!」
「あ、馬鹿!だから慎重になれと………仕方ないっ!」
ガザニアちゃんがついてきた気配がする、心配性だなあ、もう。
出た所は、四方を森に囲まれた狭い平原だった。あ、落ち着く。
「シュバルツヴァルトに似ているな」
追って出て来たガザニアちゃんも同じ気分だったようだ。
「ただ、同時に入らないとタイムラグがあるようだから、以後気をつけろ」
「あ、確かに。気を付けるよー」
「で、ここは入口で敵は出ないはず、人の通った形跡のある左にでも進むか?」
ガザニアちゃんの言葉にうなずくあたし。
野伏のスキルは二人とも持っているので、その辺は阿吽の呼吸だ。
初心者なのだから開拓する必要はないだろうし、人の通った道を行こう。
ガザニアちゃんが几帳面に地図を書き始めた。
マッピングっていうんだっけ?あたしもできるけどやりたくない。
とりあえず今日は、大きな道沿いに進む。
小さなわき道とかはスルーだ。
するとほどなくして。
スライムぽいものが空中にポンとポップしてる、開けた場所に出くわした。
「狩るぞ」
「核は丈夫だから、弱点の核を狙うんだっけ?」
「エトリーナさんはそう言ってたな。傷モノにしないように気をつけないと」
ポンポンと湧き続けるスライム。大軍になられる前に処理していかないとね。
「シッ」
あたしはスライムの核に、短剣の鋭い突きを入れる。
核は割れなかったがスライムにはダメージを与えたようだった。
結果、スライムはパシャっと水に戻った。
核を拾い集めるのは全部倒してからだね。
ガザニアちゃんは、途中で切るより突く方が効率的だと悟ったみたい。
スライムに押し切られそうになっていたけど、挽回してみせた。
さすがあたしのお姉ちゃん。
しばらくしたら、スライムはポップしなくなった。
「一定時間出て来なくなるのかな?とりあえずこの間に核を拾おうよ」
「そうだな」
スライムの核は、1、2、3、4………25個!
「家賃、食費、装備向上、諸々の事を考えると1日50匹は倒して貯金したいな」
「じゃあ、ここで少し待つ?」
「うむ、今日はもう出ないようなら他を探そう」
1時間ぐらい待ってたけど、出ない。
今日はもうここはお終いのようだったので、新たなスポットを探して移動する。
しばし後。森の小道の中で、それは急に始まった。
四方八方からスライムが大量に湧き出したのだ。
それもさっきのスライムは青かったけど赤とか緑のが混ざってる。
そいつらは動きが早い、上位種だ!
「ガザニアちゃん魔法、左側に!」
「ああ!」
「『下級:光属性魔法: ルーンアロー』!」
ルーンアローは10本ほどの光の矢を放つ魔法だ。
スライムぐらいなら一撃のはず。
「『下級:無属性魔法:エネルギーボルト』!」
ガザニアちゃんの『ルーンアロー』の無属性版だ。
これらの魔法は、青いスライムを近くから一掃したけど、上位種はダメみたい。
あたしとガザニアちゃんは、動作のいらない魔法(さっきの二つ)で、ブルースライムを倒しつつ、グリーンスライム(ちょっと強い)、レッドスライム(結構強い)を相手にする羽目になった。
ガザニアちゃんとあたしが魔力切れを起こして、なお激戦となった。
あたしたちは仕方なく、自分の中の悪魔の血を呼び起こしてまで戦った。
どれぐらいたっただろう、多分そんなに長い時間じゃない。
嵐のようなスライムのポップが終了した。
顔を見合わせてから残りを倒し、地面に座り込むあたしたち。
「ねえ………ガザニアちゃん」
「なんだ、ガーベラ………?」
「核いくつぐらいになったかな」
「ヤバかったっていうのに呑気な事を………」
「ヤバかったから見返りが欲しいんじゃん………?」
「青だけで100はいったな。緑50に赤30、か?」
「よっし………疲れたけど拾い集めよう。夕方には帰りたいもん」
結局、青122、緑48、赤29だった。核も色ごとに色合いが違ったのだ。
エトリーナさんは色の事は言ってなかったから、珍しい事なのかな………
とか思いつつ帰路につく。
帰りにも、犬に似たモンスターに遭った。
焦ったけど、ガザニアちゃんの剣、あたしの短剣だけでなんとかなった。
疲れてギルドに辿り着き、受付カウンターの順番が回ってきた時にはもう夕方。
「エトリーナさん、疲れたよー」
そう言ってあたしは今日あった事をエトリーナさんに話した。
「魔法の一撃で死なないスライムがいるなんて………初耳です」
「我々も驚いた。核は色ごとに分別しておいたが」
「あ、はい。ちょっと奥の鑑定人に見せてきますね」
エトリーナさんは奥に引っ込む。
しばし大人しく待つあたしとガザニアちゃん。
エトリーナさんは結構時間をかけてから帰ってきた。
「青い核とは色々違うそうです。今日通った道は?」
ガザニアちゃんが地図を出し、ここです、と指さす。
何とそこを通ったのはあたしたちが多分はじめてとの事。
人間が通ったように見えたのに、実は完全なけもの道だったらしい。
「今後、その出現場所で狩りができますか?」
あたしたちは顔を見合わせる。
結構な苦戦だったけど、技量を上げるには丁度いいから、ねえ?
「「できます」」
「ありがとうございます。赤や緑の核は報酬を増やしますから」
今日の報酬は金貨58枚、銀貨7枚だった。やりい!
カウンターから離れて
「ねえねえガザニアちゃん、それ、どうする?」
「もう一度あの場所に行くのだったら、定期的に手に入るし、使ってもいいかな?」
「だよね!装備を整えるには少し足りないけど、腕時計とカレンダーは買おうよ!」
「そうだな、今日はもう遅いから、何か栄養のあるものを食べて明日な」
「何食べよう~何か美味しいもの食べようね」
結局あたしたちは、海の幸の食べれる海鮮食堂に入ったのだった。
故郷では滅多にどころか、一切食べれないものだったもんね!
スライム退治は大満足で始まったのだった。
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