第4話 はじめてのおうち 【語り手:ガザニア】

 

 私たちは、盗賊を衛視に引き渡してから1泊してエンリケを発った。

 貿易都市エカルドまでは2カ月ほどかかる。

 なので保存食とかはエンリケで買い足していった。

 いささか重いが、森のある所ならともかく平野で食料調達は慣れてないからな。


 森と平野が続く中、私たちの旅は平穏に続いた。

 慣れるために平野でも狩りをしたりして、少し時間を食ったが………。

 だが、急ぐ旅ではないのでかまわないだろう。


♦♦♦


 貿易都市エカルドに着いた。

 ふむ………さすがに万単位の住民(3万ぐらいだと聞いた)がいるだけあって、強固な石造りの城門と城壁だな。

「ガザニアちゃん!家も石造りで大きいねっ!」

「そうだな、平屋の家も少ないようだし………」

 こういうのをおのぼりさん丸出しというのか?

 私とガーベラは都会見物しながら冒険者ギルドへ向かった。

 訂正、向かおうとした。場所が分からん。


 入口に戻って衛兵に場所を聞いた私たちは、冒険者ギルドへ向かった。

 何でも昔、教会だった場所を改築した建物らしく、大きくて目立った。

 それに古びた印象が加わって、見た目は荘厳とすらいえる。


 中に入ると、まるで役所のような感じで、外見とはまるで違う。

 しばしどこに行けばいいのか迷っていると、声がかかった。

「あなたたち、新人さん?」

 カウンターの内側にいる女性だ。

 黒髪のツインテールで、小柄、きつめの感じの容貌の女性だ。

 カウンターのテーブルには「総合受付:エトリーナ」という札がある。

「うん、新人なの-!冒険者登録したいなって思うんですけど」

「なるほど、この紙にご記入ください。字は読めますか?」

「うん、バッチリ!」


 私とガーベラは「新人登録用紙」という物にもくもくとペンを走らせる。

 だが最後の項目で二人ともペンを止める。

 「拠点」という項目だ。まだ私たちに拠点はない。

「あの、すまない。この拠点という項目なんだが………」

「ああ、もしかしてまだ拠点を定めていませんか?宿屋以外の借りれるお家、もしくはお部屋です。この町には多くありますよ?」

「ふむ、借りれるお家か………登録に必要なのだな?」

「そうですね、この町の冒険者さんとして登録するのに必須です。流れの冒険者になりたいのでしたら、登録が宿屋でも構いませんけど」

「いや、この町の冒険者になりたい………が参考までに聞きたいのだが、流れとこの町に根付いた冒険者、何か違いがあるのか?」


「ありますよ。冒険者登録できる街には「固有ダンジョン」というものがありまして。その町の冒険者さん以外の利用ができません」

「固有ダンジョン」の種類はこんな感じらしい。

()の中の表記は使用の認可が下りるクラスだ。


 書城グリモワール(ランク関係なしだが要注意)

 イシファンの森(アイアン)

 ラグザの古戦場(カッパー)

 鬼の石切り場(カッパー)

 輝きの水晶谷(シルバー)

 クロノス大庭園(ゴールド)


「なるほど、納得した(イザリヤ叔母様にもここで登録しろと言われているし………)ここで登録したいので、拠点を決めてからもう一度戻って来てもいいか?」

「もちろん構いませんよ」

「あっ、ねえ、ついでに聞きたいんだけど、魔術の学習ができる所ってない?」

「ああ、それなら、書城グリモワールに大抵の魔導書はあると思いますけど………」

「ありがとう!どこにあるの?」

 エトリーナは、この町と固有ダンジョンの図を書いてくれた。

「すまないな、あ、そうだ。拠点を探すのに便利なものとかあったりしないか?」

「あっちに入居者募集の掲示板がありますよ?」

「「ありがとう!」」


「うーん、どれがいいかなー」

 ガーベラがさっそく、部屋の見取り図の書いてある募集を前に迷っている。

 しかし「清潔に使って下さる方」という表記が多いな。過去に何かあったのか?

「家具一式が備え付けの所がいいよね、自分たちで揃えるの大変だし?」

「それはそうだな、となると、私たちは2人だからこれか………これ、か」

 アパルトマンの2Fの一部屋を共同で使うか、独立した建物(一階は台所とダイニング、2Fは2部屋の寝室)の2部屋を別々に使うか。

 前者の場合、もう一人分のベッドを運び込み、内装を変える必要がある。


「別々の部屋の方が故郷の部屋に近いしさ、独立した建物の方にしない?」

「そうだな、台所を使うのは私だけになりそうだが………」

「えへへ、当てにしてるよー。なんであたし炊事洗濯できないんだろう?」

「自分で言うな………そうか、洗濯もだったな」

「あたしがやると、何でか全部しわくちゃのびりびりになるんだよねー」

「(諦めたため息)」

「(気付いてないふり)じゃっ、ここのお家に申し込みに行こ―う!」

「そうだな、行こう………はぁ」


 目的の家は、近くに大家さんがいたので、さっさと話をつけることができた。

 契約は取り合えず1年。

 お値段は、今の私たちでも十分払えるぐらいお安い。

 家は掃除が行き届いており、これならすぐに使えるだろう。

 わたしとガーベラはそれぞれの部屋に入って、荷物を解いた。

 ガーベラの部屋は赤系の、私の部屋は青系を基調にした部屋だ。

 ベッドもすぐに使えるようになっていて、大変にありがたい。

 さて、荷物を下ろしたら、とりあえずもう一度冒険者ギルドに行く事にする。

 早く登録を済ませて稼がないと、食事ができなくなるからな。


 受付のエトリーナさんの所に行って、最後の「拠点」の項目にカリカリと覚えたての住所を書き込む。これで完成のはずだ。

「はい、これで登録完了です。アイアンの認識票を発行しますね」

 エトリーナさんによると、冒険者の「格」には5段階あり、アイアン・カッパー・シルバー・ゴールド・プラチナとあり、アイアンからカッパーには、一定の期間冒険者として活動していればそれで上がるらしい。

 もちろん食い扶持を稼ぐためにはちゃんとした依頼をこなさないとダメだが。


「ところで、初心者冒険者さんに丁度いいクエストがあるんですけど、聞きます?」

「「聞きます」」

「イシファンの森で出る「スライム」の核を集めて下さい。生態調査の一環です」

「イシファンの森はアイアンでも入れるのよね。で、すらいむって?」

「知りません?こういうモノです」

 エトリーナさんは「魔物大辞典」と書かれた本を見せてくれた。

 核の周りを不定形の物質に囲まれた、プニプニとしたモンスターらしい。

 少し可愛いな。私だけかな?

「それで、何体ぐらい必要なのだ?」

「何体でも。彼らの核って、魔術の触媒として一定の需要がありますから。1個につき銀貨2枚で買い取ります」

「10体狩ったらお家賃になるね!行こ!ガザニアちゃん!」

「ちょっと待て、スライムの出るスポットを聞いておきたい」

「イシファンの森全域ですので、気楽に行って来て下さい」

「む………そうか、わかった」


 今日はさすがに疲れている。

 イシファンの森に向かうのは明日にして、食材を買って帰ることにした。

 このエカルドの町は、商業地区と居住地区に分かれている。

 食材を買うのはもちろん商業地区だ。

 ギルドも商業地区にあるから、いきおい酒場なども多く立ち並ぶ。

 活気に満ちた商業地区は、私たちにとって物珍しかった。


「ねー、ガザニアちゃん。お金が入ったら携帯式の時計とカレンダー買おうね。シュバルツヴァルトから持って来たのは目覚まし時計だけなんだもん」

「そうだな、予定がきちんと立てられるように、それは重要だ。スライムは弱いようだし30体も狩ればそれぐらいの資金になるだろう。家賃込みでな」

「うん!頑張ろー!」


 私たちの冒険者生活は、こうやって幕を開けた。

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