第3話 はじめての盗賊退治 【語り手:ガーベラ】

 橋(街道)に辿り着いて、橋の上によじ登った。

 大きな橋!

 さすが西の大河にかかる橋ね。

「ガザニアちゃん、確かここから東南に行けばいいんだよね」

「ああ、地図ではそうなってる」

 確認して、東方向ではここから東北と東南にのびる街道のうち、東南を選択。

「最初に着くのはエンリケという都市だが………遠いな。2か月はかかるぞ」

シュバルツヴァルトうちが秘境すぎるんだよねー」

 あたしはキャラキャラと笑う。

 ガザニアちゃんは諦めたようにため息をついている。

「平原に「くま」みたいなやつがうろついてないといいな」

「それはご勘弁だねー」


 しばらく森を背に進んでいくと、木がまばらになって、ついに無くなった。

「広い平野だねー、ガザニアちゃん。あれが地平線っていうやつ?」

「木がない………不思議な光景だ………広いな」

「うん………広い、すっごく広いね!」

 あたしはガザニアちゃんとハイタッチしてはしゃいだ。

 広さ的には黒の森の方がその平原より広いのかもしれないけど、目の前が開けるっていうのは衝撃だったんだよね。


 何日も進むと、平原だけじゃなく、森も街道沿いに増えてきた。

 林業を生業とする村が、宿場町も兼ねて存在していたりして。

 

 そういえば、シュバルツヴァルトの村は林業はやってないのよね。

 森の木を切るのはワーウルフ達が渋るから、薪にする分しか切ってなかったんだ。

 後は自給自足できるだけの狩りや農業をするだけ。外部との交流はなし。

 色んな人がいるから退屈はしないんだけどね。

 でないとあたしみたいな性格の娘が育つわけないよ、うん。


♦♦♦


 それから10日程で、南の大国カルドセカリナ帝国の領土に入った。

 ちなみにいままで旅していたところは様々な王国や帝国の緩衝地帯―――中立地域となっている。ちなみに黒の森は北の大国グリューエン皇国の領地ね。

 遥か昔にご先祖様―――イザリヤ叔母様の父上が開拓した黒の森。

 なんでグリューエン皇国の領地となるのかといえば、そのご先祖様がグリューエン皇国の貴族だったからだ。

 正確に言えば、爵位を投げ出して弟に譲り、黒の森の開墾に挑んだご先祖様が、村とは言え開拓したため、再び爵位を与えて(子爵)グリューエン皇国が黒の森を自領に取り込んだんだ。取り込んで利があったかどうかはよく分かんないけど。


 さらにそれからしばらく―――20日程歩いた。

 宿場町の存在が有難かったわ。

 さすがに10日以上お風呂に入れないのはゾッとするもの!

「もうすぐエンリケだな」

「うん、町に入るのって初めてだし、楽しみだねガザニアちゃん」

「エンリケは数千人規模で、目的地のエカルドは数万人規模だったな」

「そうそう!うちの村がいくつ入るかなあ?」

「比べるのが間違っていると思うがな」

「数百人規模だもんね~」

 あたしはキャラキャラと笑った。


 うん?街道の先―――ちょうどカーブして死角になっている―――から叫び声が聞こえる。助けを求める声も聞こえる。モンスターでも出たのかな!?

 あたしたちは走って現場に駆け付けた。

 

 え?人間が人間を襲ってる。これって何?

 ガザニアちゃんの方を見ると

「盗賊もしくは山賊といって、人間が人間を襲って持ち物を奪うという悪党がいると聞いたことがある。その類だろう。殺しても罪にはならない、思い切りやるぞ!」

 それを聞いて盗賊とやらの方に向き直ると、家族連れの馬車らしい家族の子供の頭を岩に叩きつけている所だった。父親はもう殺されており、母親も重傷だ。

 テメエ何してるんだよ。

 憤怒が体の中を駆け巡る、体が強化される。

 あたしの体を赤い光が覆う。

「ガーベラ!感情をコントロールしろ、悪魔堕ちするぞ!」

 自分も赤い光に包まれながらガザニアちゃんが叫ぶ。

 

 あたしたちは黒の森の開拓をした人の娘―――イザリヤ叔母様のお姉さん―――とその旦那さんの細胞と、悪魔―――イザリヤ叔母様―――のエキスでできている。

 悪魔ハーフのホムンクルスとでも言えばいいのかな。

 そのため、特定の感情を強く抱くと、普通より簡単に悪魔堕ちしてしまうのだ。


 あたしは怒りをぐっとこらえる。

 赤い光が引っ込んだ。

「『下級:無属性魔法:スリープミスト×2』」

 特攻するのを止めて、冷静になったあたしが放った眠りをもたらす霧は、盗賊たちのうち8人を眠らせた。残りは2人、ガザニアちゃんが片付けてくれるだろう。


 こちらも冷静になったらしいガザニアちゃんが盗賊2人を片付ける。

 その盗賊は死んでしまったけど、残りの盗賊もエンリケに突き出せば縛り首らしいからいいよね?

 あたしは、こいつらが出て来たらしい森の中から蔦を採取して、全員縛り上げる。

 もちろん、起きても逃げられないようにだ。

 エンリケまでは半日もないんだし、これでいいでしょ。


 その間に、ガザニアちゃんは襲われた家族連れの治療を行っていた。

 かれらは家族でサーカスをやっている一団だそうだ。

 それで、手遅れだったお父さんは座長だったらしい。

 手遅れなのは岩に頭を叩きつけられた子供もだ。

 でも重傷だったお母さんが何とか無事で良かった。


 あたしたちはエンリケまで、半日程だけど、彼らを護衛していくことにした。

 彼らの馬車は、全員が乗ったら手狭過ぎるので、馬車の外を子供たちがかわるがわる歩く。だから速度は歩くのとほとんど変わらなかった。

 あたしとガザニアちゃんは、村に来る武装行商人の馬車を知っていたので、この馬車を見てもはしゃぐ事はなかったけど、それでも乗るとなると物珍しいのよね。

 子供達と交代で乗せてもらって、結局はしゃぐあたしたちなのだった。


 エンリケに着いた。

 うわぁー、高い壁、立派な門!

 これぐらい最低限の備えだよと教えてもらったけど、石で組まれた町の塀と門は、木で組んだ兵と門しか知らなかったあたしたちにとって新鮮だった。

 門の所でサーカス一家と別れたあたしたちは役人の詰め所に行く。

 ここから半日の所で縛って転がしている盗賊がいるよと報告するためだ。

 

 最初、衛兵はまともに話を聞いてくれなかった。

 たぶんこれは、あたしたちの外見のせいだ。

 けど、それならと、衛兵との手合わせを申し出た時も、彼らは笑って承諾した。

 承諾したのは彼らにとって間違いだったかもしれない。

 ガザニアちゃんにコテンパンにやられ、盗賊の技を使うあたしに翻弄されたのだ。

 2対1にしてみたけど彼らはあたしたちに及ばなかった。

 それで、真剣に話を聞くしかなくなったのよね、ふふん。


 宿屋に泊まって半日後、盗賊たちが連行されてくるのを見に行った。

 物見遊山じゃなくて、彼らの運命を決めたのはあたしたちだから一応ね?

「処刑されるんだよね?あの人たち」

「カルドセカリナ帝国では、盗賊行為を行った者は全て死罪という決まりがあるな」

「そうだよね。あの現場を見たらそれが当然だと思う」

「中にはまともな奴もいるかもしれないぞ?」

「あれ(殺し)をだまって見てただけで同罪だとあたしは思うな」

「そうか………そうだな」

「ガザニアちゃんは反対?」

「いや………お前と同じだ。少し迷っただけ」

「そう?」

「そうだ。戦女神ラスティスに誓って」

「了解!今度から見かけた盗賊は撲滅だねっ」

 あたしの冗談めかした台詞に、ガザニアちゃんは少し笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る