第10話 ポイントの使い方

 


(んー……。にしても、レベルが上がっていろいろ変わったのは分かったけど……。レベルの下にある括弧の数字は変わらないんだな。これって、いったい何なんだ?)


 分からないことは他にもある。

 レベルの上昇と共に獲得したポイント。それの使い方だ。


(レベルアップした時に出た画面だと、ポイントを振り分けろとか言ってたけど…………。どうするんだ?)


 考えながら、明は探るように画面に表示されたポイントの文字に手を伸ばした。

 明の指が、画面に触れたその時だ。



 ――チリン、と。唐突に軽やかな音が響いて、目の前の画面は切り替わった。




 ――――――――――――――――――

 獲得したポイントの割り振り先を選択してください。


 ・体力

 ・筋力

 ・耐久

 ・速度

 ・幸運


 ・新規スキル

 ――――――――――――――――――




「うおっ!」


 突然のことに明は声を漏らす。

 それから、すぐに明の視線は切り替わった画面の文字へと向いて――――。


「スキル!!」


 思わず、表示された画面の文字に明の声が上ずった。



「固有スキルってヤツがあるから、まさかとは思ってたけど、本当にあるなんて……」



 固有スキルの黄泉帰りが過去に戻れるというとんでもない力を発揮するように、スキルそのものを取得することで常識外れの力を獲得することが出来るに違いない。

 この世界に何が起きているのかが分からない以上、スキルの力は間違いなく必要だ。

 そんなことを考えた明は、すぐさまスキル選択へと手を伸ばす。


(ステータスの数値は、トロフィーってやつを獲ることでも増えるみたいだし、今はスキル一択だろ)


 そう思って、明が『新規スキル』の文字に触れたその時だ。




 ――――――――――――――――――

 ポイントが足りません。

 ――――――――――――――――――




「なッ――――」


 切り替わったその画面に、思わず息が止まる。

 エラーメッセージが表示された画面は、数秒ほど経過すると再びポイントの割り振り先を決める画面へと切り替わった。

 何かの間違いだろうと、明は再び『新規スキル』の文字に触れるが、表示される結果は変わらず同じ。どうやら、ポイント2つでは新たなスキルの獲得が出来ないらしい。


「出来ないなら、最初から表示させるなよ!」


 明の口から、小さなため息と共に文句の言葉が飛び出す。

 けれど、それを言ったところで何も変わらない。

 明はポイントの割り振り先を示す画面を前に、数分ほど悩み続けると手を振りその画面を消した。何度考えても、レベルアップでしか獲得出来ないであろう貴重なポイントを、わざわざ他の手段でも上昇するステータスに割り振る必要性を感じなかったからだ。


「はぁ……。これからどうしようかな」


 ここから移動をしようにも、外はモンスターでいっぱいだ。現状の怪我を考えると、これから外を出歩くにもリスクの方が大きいだろう。

 しかし、だからといってこのまま会社の給湯室で座り込み続けているわけにもいかない。


(マジで……。どうしよう)


 ははっ、と明は力のない笑みを漏らした。

 アドレナリンという脳内麻薬でも誤魔化せなくなってきているのか、ズキズキとした脈打つ痛みが全身に広がっていく。

 流れる血は止まらない。

 このままココに居ても、いずれ失血死となるのも時間の問題だろう。


(だったら、まずは……。止血、しないと、な)


 明は、ゆっくりとした息を吐き出すと壁を支えにして立ち上がった。

 ふらつく身体を壁で支えながら、ゆっくりとした足取りで明は給湯室から廊下に出る。

 背後から声が聞こえたのは、その時だった。




「ぎひっ!」




 ――――知っている。

 その声を、その声の主が誰なのかを、一条明はもう知っている。



「――――――」



 凍り付いた表情で、明はゆっくりと背後を振り返る。

 すると、給湯室の出入口の陰から飛び出してきたゴブリンが、棍棒を振りかざしているのが目に見えた。

 もはや、避けられる距離じゃない。

 声すら出す間もなく、明はただ茫然と、自らへと振り下ろされる棍棒の軌跡を見つめることしか出来なかった。


 ――ゴチュッ。


 振り下ろされる棍棒は明の頭に命中し、その頭蓋を今度こそ本当に砕き潰した。






「――――う。――じょう! おい、一条ッ!」


 そして再び、一条明は黄泉帰る。

 何もかもを覚えたまま、まだ世界が滅びていない、あの瞬間へと。

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