第9話 レベルアップ



 どのくらいの間、そうしていただろうか。

 全身から噴き出していた汗が引いて、身体が冷え始めた頃。ようやく、明は感情を取り戻したかのように大きな息を吐き出して口を開いた。


「……そうだ。確か、レベルアップがどうとかって出てたな」


 そう言って、自らのステータス画面を呼び出した。




 ――――――――――――――――――

 一条 明 25歳 男 Lv3(1)

 体力:5(+2Up)

 筋力:10(+7Up)

 耐久:9(+2Up)

 速度:4(+2Up)

 幸運:4(+2Up)


 獲得ポイント:2

 ――――――――――――――――――

 固有スキル

 ・黄泉帰り

 ――――――――――――――――――




「本当に、レベルが上がってる。それも、一気に2つも」


 明は、表示されたステータス画面を見つめて言った。

 ゴブリン一匹を倒したぐらいで、随分と気前のいいレベルアップだ。

 そう、明は思ったが、それだけゴブリンとの実力差があったのだろうとすぐに思い直した。


(ゴブリンって言えば雑魚モンスターのイメージがあったけど……。まあ確かに、いくら殴ってもなかなか死ななかったしな…………)


 もしかすれば、そこの床に転がっていたのは自分なのかもしれない。

 そんなことを明は考えて、ぶるりと身体を震わせた。


「……でも、改めて思い返せば俺、棍棒で頭を殴られたんだよな……。確かに、当たり所が悪ければ死んでいたわけだし、当然と言えば当然か」


 切れた頭皮から溢れ出す血は、未だに止まる気配がない。

 言いながら、明がゴブリンに殴られた箇所へと手を伸ばしたその時だ。



「~~~~~~ッッ!!」



 傷口に手が触れると同時に、電流のような激しい痛みが全身を貫いて、明は声にもならない悲鳴を上げてその場に転がった。


「――が、く……そっ! これ、もしかして…………。『二度目の死亡』ってヤツで手に入れた、耐久値の上昇が無ければ……俺、死んでたか?」


 ブロンズトロフィー、二度目の死亡による特典は耐久値5の上昇だった。

 このステータスの数値がどれほど身体に影響しているのかは分からないが、それが無ければ死んでいたに違いない。

 そう思うほどに、一瞬だけ手が触れた頭の傷は、明が想像していた以上に深かった。


「はぁ、はぁ、はぁ…………。足が千切れる痛みよりかはマシだけど……」


 身悶えする痛みに息を切らしながら、明は息を吐き出した。

 きっと、これだけの傷で今まで痛みを感じなかったのは、脳内麻薬による影響だろう。

 そう考えた明は、固く唇を噛みしめて残存する痛みに耐えると、再び視線を画面へと戻した。


(ステータスの中で、筋力の値がやたらと伸びてるのは、ブロンズトロフィーってヤツの影響……だよな? 確か、『初めてのモンスター討伐』、だっけ?)


 ゴブリンを殺すと同時に現れた複数の画面。

 その内容を思い出して、明は呟く。


「またブロンズトロフィーか……。『二度目の死亡』の時といい、本当にゲームみたいだ」


 トロフィーが現れたタイミングを考えると、何かしらのアクションを起こした結果として貰えるものであることは間違いないようだ。

 明は、自らの手へと視線を落として、ぐっぱっと、手を握り開いた。


(今のところ、トロフィーってやつを獲得したとしても悪影響がない……。ってとこは、コレはあまり気にしなくても良い……んだよな?)


 むしろ、トロフィーを貰えばその分だけステータスが伸びてるし、貰ったらラッキーぐらいに思ってた方がいいのかもしれない。

 そう結論を出して、トロフィーに関する思考を切り上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る