事前準備
あぁ!ついに!遂にやったぞ!!
これから俺の人生がやっと、やっと始まるんだ!!
あの後俺は直ぐに家に帰った。
飲みも食いもせず、只ひたすらに本と向き合った。
ぺらぺらとページを捲る度に性的興奮とも取れるような高揚感が留まることを知らず、全身が火照っていくのを感じた。
やはり、この本は運命だった。
俺にとって、俺の人生にとって大切なのはこの本だ。
何故...何故俺は...!今まであの本屋に行かなかったのだ!!
もっと早くに、もっと早く寄っていれば...俺はもっと早くに、人生を見直し、変われていたかもしれないのに...。
そんなタラレバを言ったってなんの意味もない。
只...俺の手元にこの本がある、それだけが事実。
あぁ、今日は興奮して寝れなそうだ。
明日は会社に電話をしなくては行けないのに...
退職と有給消化...この事を伝えなければ何も始まらない。
あぁ、そう言えば今日は本を肴にビールを飲むつもりだった。だが実際は本に集中しすぎてビールを空けてすらない。
...まぁ、別に、今からでも遅くない、この本の余韻に浸りながらもう生ぬるくなっているビールに口をつけよう。
生ぬるくなったビールは不味い...が、この本のようにゆっくりと俺の中に染み渡る。
明日からは事前準備が忙しいんだ。
今日くらいゆっくり、時の流れに身を任せよう...。
カーテンの隙間から差し込む朝日で目が醒める...。
あぁ、朝...か...。そう自覚すると共に口元が酷く歪んでいく。
そう......朝!こんなに素晴らしい日はない!
周りに散らばる呑み散らかしたビールの缶を気にも止めずただ、嬉しさを噛み締める。
だって、今日から遂に、俺は...憧れを目指せるのだから!
昨日、初めて出会った本に対して何を言っているんだ...なんて言われるかもしれないが...。
俺は、運命を信じる質だ。運命と信じてやまない、これを運命と呼ばずとしてなにになる!
誰に何を言われようとこれは運命。
まだ会社に電話をするには早い...。
この空いた時間に伝える事をまとめておこう、さらさらと伝えられなければ時間の無駄だ。
俺は、別に会社で重要な立ち位置に、居たわけではない。
ただの平社員だ。
昇格をするわけでもなく、只ひたすらに任された仕事をこなすだけの役割。
普通の奴なんてこんなもんだ...きっと。
周りの同僚達は、スキルアップの為転職したり。
どんどん、昇格して上司と部下の立場になったり...。
俺の周りの奴らは優秀だった。
それに比べて俺は平凡。何をするわけでもなく、只今与えられた仕事をこなす。
でも、でも!そんな生活もここまで...!
俺は今日、会社を辞めるのだから。
まず、有給休暇の申請、まぁ消化か。そして退職願…
あぁ、これは文章で出した方がいいか...。
なんて書くか悩むな…まぁ、やりたいことが見つかった為......そう書けば良いだろう。
有給は一ヶ月分溜まってる。これを全て使う。
休みはいくらあっても良いのだから。
どうせ...俺が休んだくらいじゃなにも変わらないのだし...。
「はい、はい、すみません、宜しくお願い致します。」
ふぅ......電話はやはり疲れる。
でも、まぁ仕方がない...これが俺がやるべき第一歩なのだから。
会社に電話を掛け、仕事を辞める、有給を使う、この第一の目標が達成できた。
次の達成しなければならないこと...それは物件探し。
出来れば樹海近くの物件がいい。
...山梨県の物件か、相場は六~七万。
高い、入社してからずっと社宅で過ごしてきた俺にはとても高く感じる。...でも、これぐらいか、まぁ、金ならあるし...失くなったときは俺も無くなればいい。
とりあえず即入居可能の場所を、内装をろくに見ても居ないのに入居するを押す。
別に、ただ食べて、飲んで、寝る。
この3つが出来ればそれだけでいい。本当にやりたいことはこんなちんけな部屋では出来ない。
それを行うための樹海だ。
まぁ、物件は決まったし、あとは大家さんからの連絡を待つのみ。
その間に本の復習をしようと思う...。
切り裂きジャックしか知らなかったが、俺のお手本になって頂く人達はピックアップしておいた。
まず
カニバリズム...人間を食す、大罪を犯した十九世紀アメリカの猟奇的殺人鬼。
「満月の狂人」 アルバート・フィッシュ
満月の狂人以外にも「グレイマン」「ブルックリンの吸血鬼」とも呼ばれているアメリカ犯罪史上最悪の殺人鬼とも言われている男。
誕生日は五月十九日、没日は一月十六日。
彼は人間を食べると言う大罪を犯した狂人...。
まさにお手本にする、師匠と敬うに相応しい人物。
だが、なんの犯罪経験もない俺からしたら初手の難易度としてはハイレベルすぎる。
だから、最初はこの人をお手本にする。
十歳と言う若さで連続殺人鬼となった少女。
「タインサイドの絞殺魔」 メアリー・ベル
誕生日は五月二十六日、メアリー・ベルは現在釈放されて匿名で生活をしている。
十歳と言う若さで初犯を犯し、犯行声明文も書くなどと言った大胆な行動にも出ている。
まだ、他にも…お手本にする人達が沢山いる...。
とりあえず最初はメアリー・ベル。
シリアルキラーの幼少期はお手本にするに限るからな。
しかも、幼い子供のシリアルキラーだ、俺でもまだ真似がしやすいだろう...。
次はこの人だ。
人間を巧みに使い、椅子やベルト、仮面、等々...。
アクセサリーから家具まで、日常使い出来るものを人間の革や骨を使い造り上げた。
「プレイン・フィールドの屠殺解体職人」エド・ゲイン
誕生日は八月二十七日、没日は七月二十六日
呼吸不全で亡くなった。
エド・ゲインは素晴らしい!!詳しいことはお手本を真似るその日にもっと書き出そうと思うが、後世に残る芸術作品を作り出した天才だ!!
彼の造った作品は人々の目を惹いた...虜にした!!
彼はファッション、インテリアに新たな風を吹かせた天才だ。
彼の才能は素晴らしい!!私も彼のような作品を作り、売ってみたいと思っている!
他にも!他にも沢山いる!!
あぁ、素晴らしい!!震えてきた...ふふ、あぁ、楽しみだ...
私はこれから、世に名を刻もうと思う。
...いや、刻むのだ、絶対に、あの方達と同じ歴史に...!!
狂人になるためのエトセトラ むらさきいろ @akatoaohamurasakini
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