狂人になるためのエトセトラ

むらさきいろ

運命の出会い


 顔も普通、体型も普通、運動も勉強も普通。

何もかもが普通で特化したものがない。

そんな普通な人間が俺、白田幸輝しろたこうき。二十四歳。名前の由来なんてもんは知らない。

きっと、どうせ、幸せに輝いて欲しいとかそんなものだろう。在り来りで微塵も興味ないが...。


 学校を卒業して、面接を受けて、合格して、社会人になって...必死に仕事をこなす、そんな風に日々を生きていく。こんな生活に飽き飽きしている...なんて...いない方が可笑しいと思うぐらいだ。




 そんなある日、仕事終わりにふらっと立ち寄った本屋で俺は一冊の本と運命的な出会いをした。

それは、世間に連続殺人犯と呼ばれる『シリアルキラー』について事細かく書かれた本だった。

俺は...その本に一目惚れした。


 初めてだったのだ!ここまで感情が高まるのは!こんなに心が踊るような気持ちになったのは!!

ドキドキして、ふわふわして、地に脚が着いていないような気持ちになるのは......!!これまでの人生で初めての事だった。

 興奮で震える手を抑えながら、そっと本を手に取る。そして、そのままページを一枚捲った。


俺はシリアルキラーを、調べようと思った事がない。

そもそもシリアルキラーと言うものを、単語を知らなかった。

まぁ、当たり前だが、自分の知らない人達の事ばかりだった。


だが...心を揺さぶられた。


 名前が沢山出ている、この人達はきっとシリアルキラーの中では有名なのだろう...が、俺はやはり一人も知らなかった。

いや、ひとり、一人だけ誰でも知っているのがいた。

しかし此は名前ではなく別名だ...

 「切り裂きジャック」

この名を知らない者は、きっと居ないだろう...正体不明の殺人者として有名だしな...。ただ、知っているのはこの人だけ、だった...。

 だが...何故か...この本は絶対に買わなければならない。そう思わされた。

自分の気持ちに素直に...突き動かされるまま...本を大切に、大事に抱え、他の本には見向きもせず、足早に会計へ向かう。



あぁ、これはきっと運命なのだ。

 これからの人生の...お手本になってくれるこの本。

そうだ!この際会社も辞めてしまおう、だって金なら余る程にあるのだから!



今までの給料は、生活費以外に投資をしていた。それは、老後が心配だったからだ。

 家族とはとっくに縁を切った。散々だったのだ。金にしか興味がない糞共...連絡も金の無心だけ。

もう関係ないが...。

 恋人だって今ままで生きてきた中で出来た試しがない。だから、きっとこれから先も出来ないだろう。

この本に出会い、欲しいとも思わなくなった。




 きっと、これが俺の人生の最後になる。生きるも死ぬもこれで最後だ。


そんな予感がする。

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